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入学編 第十話

 








「へえ、今年の新入生はそんなにおもしろいんだ」


「そうだな。色々と変わった奴だ」


「そうなの?そんなに変な風には見えませんでしたけど?」



 テラスに腰掛けて優雅に紅茶を啜りながら談笑する三人の美少女、生徒会長の神宮寺美咲、風紀委員長の土方詩織、そして学生総代の御剣舞である。そしてここは『学園総本部学舎』学園のちょうど中央に建つ学舎、大きな時計塔が聳え立ち、他の学舎とは異なり格調高い建物の内部の3階は生徒会本部、2階は風紀委員会本部、そして1階が学生総会本部となっている。そして、4階はテラスになっており、各委員達の憩いの場となっている。



「本当におかしな奴でな、心から聞いたんだが朝から全裸で二年生達に挨拶したらしい」


「……どういう状況になったら裸で挨拶なんかする羽目になるのよ?」



 頬杖をつきながら溜息を吐く舞に、楽しそうに語る詩織。



「なんでも、着替えを忘れて洗濯してしまったそうで、着る物が無かったから裸でいいと思ったらしい」


「なんて、安直な……」


「あの美里が何も言わずに唖然と口を空けたまま固まったそうだ」


「あの美里さんが?それはかなりおもしろいですわね」


「そりゃあ、いきなり全裸の子が現れたら私でも固まる自信があるわよ」



 おかしそうに笑う三人を不思議そうに遠くから眺める生徒達。ここには一般の生徒と違い、ここでは彼女らの周りを群がり騒ぐような者はいない。この建物内に入れる生徒は全て選ばれた各委員会の関係者である。


 この学園の生徒会が絶対的権力を持っているのには理由があり、まず、生徒会長は学園長が任命する。その選定方式は学力はもちろん、品性、家柄など全てを満たす者しかなれない。他の役員は生徒会長に選定、任命権がある為、ほぼ世襲制となっていた。


 しかし、それでは生徒会にとって有益な生徒しか選ばれない為、不平等な結果をもたらす可能性がでてくる。そこで、生徒総会と呼ばれる独特の組織が作られた。生徒会が学園長が任命するのに対し、生徒総会代表である学生総代や、役員達は学園に通う生徒達による選挙によって選ばれる。


 そして、その二つの組織が対立した際に中立の立場から意見を述べる委員会として、風紀委員会が存在する。風紀委員に選ばれるにはまず風紀委員長に任命権があり、それとは別に生徒会、生徒総会、教職員などの推薦枠も存在する。他の役員とは違い、風紀委員は学内の風紀を取り締まる業務も有り、時には実力行使も持さない。その為に体力面、特に武力に特化した人材が多い。そして、その代表である風紀委員長は委員会の内部選挙により決定される。


 どちらにせよ、ここにいる三人の少女が事実上聖盾女学園の秩序と運営の全てを担っている事になる。



「さて、今年も無事に入学式と始業式を終え、各委員会の役員を決めなければいけません」


「そうね。今年は生徒会枠で一人、生徒総会が三人に、風紀委員が二人だったわね」


「そうだな、それで相談なんだが、既に生徒会枠は決まっており、生徒総会に関しては来月に選挙が行われる」


「そうね」


「ええ」


「後は風紀委員枠だけなんだが……」



 少し間を空けて、



「確か一人は決まっていたわよね?」


「ああ、それでなんだが」


「まさかと思うけど、例の『裸の君』じゃ無いわよね?」



 新しいお茶を注ぎながら、詩織の方へと視線を移す。



「正解」


「はあ、貴方らしいですわね。でも、本当によろしいの?話を聞く限り逆に風紀が乱れそうだけれども……」


「確かに裸だしね」



 美咲の発言に笑う舞。



「もう、笑い事じゃ無いですわよ?それで、何故彼女をお選びになられたのかしら?」


「そうだな、簡単に言えば実力かな?」


「それだけ?」


「ああ、一度試した事があったんだが、恐らく美里より強い」


「あの美里さんより?」


「確か彼女のご実家は……」


「ああ、有名な空手道場で、彼女自身『錬士』の称号を持っている」



 風紀委員の中には、体力的に実力のある者が多い。そして、その中でも最強の四名を総じて……



「風紀委員四天王だったかしら?」


「何?その頭の悪そうな異名は」


「大凡女子高とは思えんな」



 美咲の発言に溜息を吐く二人。この学園では各部活のトップアスリートや様々な催しで活躍した生徒に対して様々な異名が存在する。まあ、アイドルみたいなものである。



「他人の事は言えないわよ?貴方、巷でなんて呼ばれているか知っている?」


「さあ?」



 頬杖をつきながら答える詩織に、にんまりといやらしい笑みを浮かべながら



「黒騎士の君」


「なあっ!?」



 思わずずり落ちそうになる。その様子がおかしかったのか爆笑する舞。



「あっはっは!黒騎士よ?黒騎士、私なら恥ずかしくて卒倒するわ」


「ふふ、すごく凛々しくて素晴らしい異名じゃありませんか」



 楽しそうに笑う二人に対して、納得のいかない微妙な表情の詩織。普段物静かな三人が騒がしいため、周りの生徒達から奇妙な目で見られてしまう。



「……コホン。それで?その裸の君を風紀委員に任命するのはいいとして、本人の了承は得たの?」


「いや、まだだ」


「なら、ここでお話していても仕方が無い事ですわね。後日、本人の意思を確認してからお決めになられたらよろしいと思いますわ」


「そういうことね。いくら私たちでも、個人の意思を無視してまで入れる事はできないものね」


「まあ、過去一度も拒否された事は無いので、大丈夫かと思いますが念の為、それからと言うことでよろしいですね?」


「ああ」


「そうね」



 最後に美咲が纏めると、頷く二人。その後、三人は本来の業務へと戻るのであった。





 ……


 ………


 …………






「ふわっくしょんっ!」



 盛大なくしゃみが響き渡る。



「あら?お風邪を召されましたのでしょうか?」


「いやあ、百合に限ってそれは無いんじゃないかな」



 鼻を啜る百合に対して、心配そうに声をかける由美。その隣で苦笑する恵。



「いや、急に悪寒がしてな。まあ、大丈夫だろう」


「そう、ですか。ならいいのですが」


「心配しすぎだって、しかし、あれよね」


「ん?なんだ」



 まじまじと百合の身体を見つめる恵。



「いやあ、わかってはいたけど改めて見るとすごいよね」


「そうですわね……」



 思わず溜息を吐いてしまう。ここは風月寮内の大浴場、何故三人一緒にここにいるかというと、



「やっぱり誘って正解だったわね。一度じっくりと確認して見たかったのよね」



 満足気味に顎に手をあてる恵。



「ちょ、ちょっと恵さん……」


「ほらほら由美も、触ってみ?思ったより硬くないよ?」


「え?えーと……では、えいっ」



 少し躊躇していた由美であるが、勇気を出して思い切って手を差し出す。



<ふにゅんっ>



 完全に目を瞑った状態で手を出した為、勢い余って百合の胸を揉んでしまう。



「え?あ……」


「あちゃあ~」



 そうして暫く固まる。



「ちちちち、違うんです!そのっ!あのっ!」



 頬を赤らめながら慌てて言い訳をする由美。その横ではいやらしい笑みを浮かべた恵が、



「由美ってば、大胆~」


「違いますっ!ですから私は……」



 慌てる彼女をからかい楽しんでいた。



「どうでもいいが、いつまで続くんだ?」



 そんな由美に冷静に声をかける百合。その言葉に我に帰ると、確認するかのように再び手を動かす。



「そんなに気に入ったのなら、止めないが……流石に恥ずかしいのだが?」



 少し憂いを含んだ表情の百合に更に混乱する由美。その様子を、心底楽しそうに見つめる恵が、



「百合も中々やるねえ」


「まあ、冗談だが」


「え?」



 自分がすっかりからかわれている事に気づいた由美。



「もうっ!お二人とも酷いですわ」


「あはは、だって由美ってば、顔真っ赤にして慌てるんだもの」


「そうだな。別に胸くらいいつでも揉んでもかまわんぞ?」


「揉みません!もうっ!」



 頬を膨らませながら、明後日の方向を向く由美。完全に拗ねてしまったようだ。暫く彼女のご機嫌をとるため宥める二人。



「でもさ、ほんと大きいよね?」


「ええ、うらやましいくらいに」



 暫くして、由美の機嫌が直った頃に今度は恵が大きさを確かめるように、百合の胸に触れる。



「なんだろ?メロン?」


「酷い例えだな」



 呆れてため息を吐く。



「いやあ、だってさ。同じ年でここまで違うものかな」



 そう言いながら今度は自分の胸を触る。



「ん?そうか?小ぶりで可愛いと、私は思うぞ?」



 そう言いながら恵の胸に触れる百合。



「ひゃんっ」



 思わず可愛いく声を出してしまう。



「……」


「……」


「何よ?」


「いや、別に……」


「……なんでもありませんわ」



 頬を赤く染めながらジト目で見つめる恵に対し、気まずそうに目を逸らす二人。



「なろぉ!今度は由美の番だ!」


「ええ!?ちょっと!おやめにっ!?」


「ええいっ!問答無用!」



 恥ずかしさを誤魔化すように、今度は由美に襲い掛かる恵。



「さて、いい加減に出るか」


「ちょっ、百合さんっ!助けっ……」


「逃がさんっ!」



 百合に助けを求めようとするも、その手を羽交い絞めにされる由美。その様子を黙って見つめる百合。



「私はもう上がるが、余りはしゃぎすぎて風邪を引かないようにな」


「は~い」


「えっ!?じゃ私も……」


「駄目」


「いやぁあ!!」



 そうして、ぴしゃりと閉められたドアの向こうからは、由美の悲鳴が響いた。しかしこの後、百合と入れ替わりに入ってきた美里達に、その様子を見られこっぴどく叱られることとなるのであった。








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