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「はあ...もういいです。時間も時間なので、私はもう上がりますね」
「え、もう帰ってまうんミーちゃん?」
「元はと言えば明人のせいだろ」
蜂須賀は溜息を吐き、リュックサックを手にかけた。
「いや、この後バイトもあるので帰るのは別に笠置さんのせいじゃないですよ?」
「あ、ああさいで...」
「じゃあ、また明日な」
集団に微笑むと、蜂須賀はスチールの扉を開けた。
蜂須賀を乗せたやや小さめのママチャリが到着したのは、とある小さな花屋だった。
「お疲れ様でーす」
蜂須賀がベルの付いたファンシーな扉を開けて入る鮮やかな店内には、2人の女性と1人の少年がいた。
「おっ、ミーじゃん!チーッス!」
青いフレームの眼鏡をした九度山谺が明るい声をかける。
「谺来てたんだ?あ、店長ー蜂須賀出勤しましたー!」
店裏から左肩だけを覗かせている九度山彼方が黙って手を上げて返事をした。
「あれ、先輩今日はちょっと早いですね」
蜂須賀は店員の証であるエプロンをしながら、夜久野朝日の質問に答える。
「ああ、まあ特に理由はないけど」
「へえ…やっぱり女子大生って、彼氏いないと暇なんだね」
「うんうんそうなんだよやっぱり側に居てくれる人がいないと…ってはあ!?な、何言ってんの夜久野くん!?」
「いやだって、彼氏いないんでしょ先輩」
「いや、そうだけど…ああもう!変なこと言わないでよ!」
二人の(うち一方が)熾烈な会話を、彼方が鶴の一声で打ち止めた。
「何ガヤガヤしてんだい、さっさと仕事にかかりな」
「は、はい…」
九度山彼方は非常に気の強い女性だ。お世辞にも花屋を営むような柄ではない。いや寧ろ、この花屋【ベール】に花が似合う森ガールの従業員なぞ一人もいないだろう。
「いや、他に女の従業員なんてあたしとミーだけじゃん」
「まあね。でもやっぱりフラワーショップ店員としての意識足りないよ、私達」
「あたしはしょうがないじゃない、ここの娘ってだけだし」
「ほら、口動かさんと手動かせー」
意識の高さで言えば彼方のそれがピカイチだろうが、振る舞いからはその断片すら見えてこない。
「す、すいません」
慌てて作業に戻ると、
「あーそうだ蜂須賀、お前に渡すものがあるんだった」
彼方は店の奥に戻ると、一通の封筒を持って、それを蜂須賀に差し出した。
「な、何ですかこれ?」
「お前に渡して欲しいんだとさ。何でうちを経由したのかは知らんが」
郵便物ではないので、当然差出人の情報は一切書き留められていない。それにこの中身は見る限り、書類ではなくもっと立体的な何かだ。彼女には全く心当たりがなかった。
「と、とりあえずありがとうございます」
「おう、しまったら仕事に戻れよ」
蜂須賀は心の端に蟠るものを感じながら、花の手入れを始めた。




