scene9
Scene9
「なぁ聞いたか? あいつとうとう夜逃げしたんだって」
「は? 誰が?」
「俺たちの憐れな友人」
「あー笠木か。そうか、ついにか」
「あぁ」
「……そういや俺、武藤とは同じクラスになったことなかったな。お前あったか?」
「あー、一年の時同じだった。でもほとんど話したことねぇな」
「ふぅん。ま、変な噂あったしな」
「噂? ……仲良くなったと思ったら友達にすぐ逃げられる、ってやつ?」
「そうそうそれ」
「今思えば、それってヘビのことじゃね?」
「だろうなぁ。俺もヘビは好きじゃない」
「要するに、仲良くなって家に遊びに行ったらヘビがいた、気持ち悪くて逃げました、的な感じか」
「だな。そう考えると、笠木って長く続いた方なんじゃねぇか? 九ヶ月もヘビと一緒に住んでたんだし」
「だよなー。俺は耐えられない。あいつはよく頑張ったよ」
《そこで一旦話を切り、原田と国崎はコンビニで買った肉まんを頬張った。冷えた身体を内側から温めてくれる、それは幸せの味。》
「あっそうだ……ケーキ買って帰らないといけないんだった」
「ケーキ?」
「あぁ、『ナニーユ・エニ』のモンブラン」
「へー……あっここか」
「そ」
《透き通るような鈴の音が鳴り響き、新たな客が店へと入る》
「えーっと、モンブランモンブラン……」
《やがて、呟きながら目当てのものを探す原田の目に「売り切れ」の文字が入り込んできた。》
「……何故に?」
《彼はもう、叫ばなかった。》