scene7
Scene7
薄桃色の桜は目立たなくなり、いつの間にか葉桜の季節となっていた。感じる気温もだいぶ暖かくなり、重ね着が少し暑いくらいだ。
そして相変わらず苦手だがようやくタツオの存在にも慣れ始め、以前ほどには武藤と言い合いをしなくなった。言い合い、といっても俺が一方的にぎゃあぎゃあ言っていただけなのだが。
だが勘違いしないでほしい。あくまで存在に慣れてきただけであって、触れ合うことなど言語道断! いまだ近付き難し。
「武藤、茶飲むかー? っておわあぁぁああ! おまっ、それ以上近付くな! タツオを乗せたままこっちへくるんじゃない!」
俺は慌てて後ろへ下がり、冷たい麦茶をコップへと注ぐ。
「飲む飲むー、ん」
そんな俺の態度に武藤も慣れたようで、タツオを首に巻いたままではあるが腕をぴんと伸ばし俺にできるだけ近寄らないようにして、同じように腕をぴーんと伸ばして微妙に震えている俺の手からコップを受け取る。そして左手を腰にあててぐいっと飲み、
「ぶはーっ、うめぇ」
と言った。俺は思わずツッコんだ。
「風呂あがりの牛乳か」
その日の夕方。
「ふふふ見てごらん……夕陽がきれいだよ。まるで幻想豊かなぼくの心をそのまま映しているかのようだ……」
「笠木ぃ、だぁいじょうぶかあー? 戻ってこーい」
暮れ行く空を眺め、僅かな間自分の不幸な状況を忘れ、思い出して小さな溜息をつく。これも今や日課となっている。
だって想像してごらん? もしタツオが夜中にケースから出てきて、朝起きたらベッドの中にいましたなんてことがあったら……! 恐ろしい、恐ろしすぎる……!
というわけで、タツオを実家に連れ帰ってほしいという気持ちに変わりはない。そうさせる気力はもはやないが。