scene6
Scene6
夕飯を食べ終え、のんびりとソファーでくつろぎテレビを観る。その上にある時計をふと見ると、八時になろうとしている。
俺の名前は武藤英和。もう覚えてくれたかな? 二人の薄情者をつくる原因になったらしい男だ。まぁなんのこっちゃわからんが。
それはさておき、俺は今日も幸せなひと時を満喫している。
「だから首に巻いたまま部屋ん中うろうろすんのやめろって!」
というツッコミはスルーして、黙って番組終わりのCMをタツオと共に眺める。そうしている間にも同居者がなにやら大声で叫んでいるような頼み事をしているような気がするが、何を言っているのかは今の俺には理解不能。タツオと親睦を深めることに徹しているため、もはやテレビの音すら耳には届かない。
「皮膚の感触、冷たさ、鮮やかな色、光沢……あぁタツオ、お前はどうしてこんなにも素晴らしいんだ……?」
「なぁタツオ、俺たちが初めて出逢った日のことを覚えているか? あれはそう……よく晴れた日の、滝の裏側の洞窟の中だったな……あの時はお前もまだこぉんなに小さくて可愛かったのに、今ではこんなに美しく立派に育って……」
「……そうそう、あろうことか間違ってお前を踏んでしまったこともあったな。あの時は本当にすまなかった。今でも胸を痛めているよ……どうせならすぐ横に落ちていたバナナの皮を踏むべきだった……」
ふと時計を見ると、すでに八時を過ぎている。
俺は笠木秀一。ようやく俺目線に戻ってきたわけだが……同居人の武藤は今コミュニケーションモードに突入している。ああなると一時間は聞く耳を持たない。どうしようもないため風呂に入ることにした。
(くそぅ……今からでもバナナの皮を踏んで大袈裟に転んでしまえ)
悪態をついた俺はバスルームの濡れた床で軽く足を滑らせた。