scene2
Scene2
《のんびりとした日曜の正午前。
緩やかな風が部屋を吹きぬけ、カーテンをひらりと踊らせる。》
「……なんかゆったりした感じに情景描写してるけど、俺の心境はいたって穏やかじゃねぇぞコラ!」
言うのは二度目ですが、どうもみなさん、笠木秀一(男)です。どこにでもいる普通の大学一年生、新生活をスタートさせてまだ二週間ほどです。
「笠木、誰に向かって言ってんだ」
こいつは俺の友人で、武藤英和(男)といいます。同じ大学に通う同級生で、以下略。
「うるせぇっ、お前のせいだよ!」
俺は今とてつもなくイライラしている。加えてビクビクしている。
「はぁ? 俺なんかしたか?」
武藤はさも心当たりがないかのように言った。若干イライラが増した俺はつい叫んだ。
「そうやって首にヘビ巻きつけてるからだろー!?」
当然だ。俺はニョロニョロした生き物は好きにはなれない。そういう人種だ。だがしかし、俺が絶叫した瞬間に武藤から何やらプチンと音がした。
「こら笠木! ちゃんと名前で呼べよ!」
「タツオを巻きつけてるからだろ!? ってツッコむとこそこかよ!」
……こんな具合で、一昨日から俺たちは言い合っている。無事に桜咲く季節を迎えられたというのに、何が悲しくてヘビと一緒に暮らさなければならないのか。
笠木秀一、とりあえず一旦落ち着こう。
「ケースに入れとくんならまだいいけどさ……タツオを首に巻いたままソファーに座ってるから俺が迂闊に近付けねぇんだよ」
親が何故か郵送してきたりんごジュースを注いだコップを片手に俺は訴える。けれど虚しいね、その思いは武藤には届かない。
「だいじょぶだってー、タツオに毒はないしそもそも噛み付かないって何度も言ってるだろー?」
確かに、武藤は何度も言っている。最初に連れて来た時も念押ししていた。
だがしかぁし! 俺にとっては怯えずにはいられない対象なのだ! 体長が一メートルを超えたヘビなど……とんでもない!
だが、大学に近くて尚且つコンビニやスーパーもすぐ側にあるこの好条件な土地にある部屋を、みすみす手放したくはない。そして武藤を説得してヘビをなんとか実家に連れて帰ってもらう気力も底をついていた。
「武藤……ここで飼うのはもう我慢するから、せめてケースに入れてくれ……」
俺は友人とそのペットから離れたまま半ば泣きつくように、というか泣きついて頼んだ。
「仕方無えなぁ……はやく慣れろよ?」
というわけで、この日はなんとかこれで収まった。
翌朝。
「ああ、神様仏様……俺は大学に無事受かるため、いつになく真面目に勉強しました。そのおかげで、今こうしてちゃんと大学に通えています……ですが、なぜ、ここにタツオがいるのですか!? 自分で言うのも何ですが不真面目だった俺が、真面目に勉強したんです! なのにこの仕打ち……ひどいではありませんか! あまりに無慈悲です! 俺が、俺が悪い子だったからですか!? だからちょっと勉強したぐらいで図に乗るなとこのような試練を……! 申し訳ありません。俺は、乗り越えられそうにありません……」
「……笠木、一人で何やってんだ?」
「見りゃわかるだろ……このどうしようもない感を、せめて天にいらっしゃる方々に訴えているんだよ」
「そうか……」
武藤は同情の面持ちで俺をひとしきり見つめた後、静かにキッチンへ向かい調理を始めた。
《小鳥が可愛らしく囀り、きらきらと輝く朝日が部屋の中に射し込み、爽やかな朝の風がカーテンを揺らし》
「待て待て待て! なんか綺麗なシーンにもっていこうとしているがそれはもういい! もういいよ……俺がウザいだけだから……それに虚しい……」
「笠木、だから誰に向かって言ってんだよ……アタマ大丈夫かぁ?」
《あとにはガシャンッ、とトースターの音が鳴り響く。》