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白い欠片~彼女の物語~

作者: RISA

これは『白い欠片』のアナザーストーリーなので

先に『白い欠片』を読んでもらえれば幸いです

 私のずっとこの白い世界にいる。

 ずっといるのに、私はここの名前を知らない。だからといって困ったことはなかったから、得には気にしたことはない。

 この世界には原因不明の不治の病かあった。これにも病名はない。ここの世界の人は、ものに名前をつけることに関心がないみたい。

 母も私が小さい頃にその病気でなくなった。その後を追うように父も病で亡くなった。

 この世界の人間はだいたいがこの病気でなくなるというが、こんなに若くしてかかる人はいなかったらしい。

 親を亡くした私は、母方の両親に預けられた。しかし、二人も五年もしない間に病気でなくなった。

 今度は父方の両親、叔母夫婦、親友家族。

 私に関わるものすべて例外なく、私を預かって五年もしないうちに病気になってなくなった。

 私はみんなから、『病を振りまく悪魔』と忌み嫌われるようになった。

 名前も生まれも、幸福なはずなのに…。

 誰も私と関わろうとしないものだから、私は独りぼっちになっていた。

 苦しかった。辛かった。

 ここから出られるなら、どんなによかったか。でも、ここから出ることはできなかった。誰も例外なくこの白い世界の人は。もちろん、外から人が来ることもない。

 どんどん人口は減り、昔のような活気はなくなり、みんなあの病気に怯えながら生活するようになった。そしてごくまれに、病にかかる前に自分で命をたつものもいた。

 そのとき私はまちの外れに住んでいる『お兄ちゃん』のところで暮らしていた。

 お兄ちゃんは本当のお兄ちゃんではなくて、幼なじみ。お兄ちゃんみたいな感じだから、お兄ちゃんと呼んでいるの。

 お兄ちゃんはここの世界の人間じゃないっていうんだけど、そんなわけないでしょ。だって、ここには外から人が来たことがないんだから。

 お兄ちゃんは私がいても病気にならなかった。

 私はお兄ちゃんの家にずっといて、外に出ないようにしていた。だから、外がどうなっているのかわからなかった。お兄ちゃんから聞く話では、急激ではないがあの病気で人が死んでいるらしい。この前も、まだ十にもみたない子が亡くなったそうだ。

 お兄ちゃんは午前中はだいたい居間にいて、何か考え事をしていた。そして、午後になると自分の部屋に閉じこもってしまう。

 お兄ちゃんが何してるか気になるけど、覗かないようにしてた。お兄ちゃんにも入らない方がいいって言われたし。

 時々、お兄ちゃんはまちの方に出かけては何かを持って帰ってきて、また部屋に閉じこもる。

 お兄ちゃんがまちに行くときはかなりの確実で誰かが不治の病で亡くなったかかかったかの時だった。

 お兄ちゃんが何をしている人なのか知らないけど、よく誰が病気にかかった、亡くなったと誰かが教えに来る。

 医者なの?と聞いたことがあったが、お兄ちゃんは違うよと悲しそうにほほえんだ。

 お兄ちゃんはいつも、ほほえみを絶やさない人だった。

 だけど、最近は違った。

 ほほえんでいても、どこか疲れているのが見えるし、難しい顔をすることが増えた。

 私が居間でピアノを弾いて歌っていると、部屋から出て来て怒鳴るようになった。

 最初その姿を見たときは驚いた。お兄ちゃんが怒鳴るななんて思っても見なかった。

 お兄ちゃんはよく、私の歌を聴いては「いい歌だね」とか「おちつくよ」って言ってくれたのにあのときはまるで別人のようなことを言った。

「耳障りだ!よくそんな歌が歌えたもんだな!」

私はお兄ちゃんの言っている意味がわからなかった。私はただ、お兄ちゃんに落ち着いてほしかっただけなのに。

 それからというもの、私はお兄ちゃんのいない間にピアノを弾いては、帰ってくる前にやめるという生活になった。

 演奏を止めるのはお兄ちゃんが帰ってきてからでは遅い。

 お兄ちゃんは私がピアノを触ったり見ていたりしようものなら、「お前はのんきなものだ」などと悪態をついては嫌そうな顔をした。

 食事も前まではお兄ちゃんが作ってくれた。お兄ちゃんの作るシチューはホントに美味しかった。でも、作らなくなった。

 ある日、食事の時間になってもお兄ちゃんがキッチンに来ないからどうしたのかききにいったら、

「そんなの自分で作ればいいだろう!」

と、ドア越しに怒鳴られた。負けじと言う訳じゃないけど、

「お兄ちゃんがいつも作ってたじゃない」

と返した。

「僕が何でも世話すると思うな!」

どうしたんだろうと、私はお兄ちゃんが心配になった。恐怖も怒りも感じることはなかった。

「お兄ちゃんの分も用意するから、下りてきてね」

それからというもの、家事全般は私がすることになった。

 お兄ちゃんと食事の短い時間しか顔を合わせることがなくなった。

 毎日顔を合わせていなければ今頃、これがお兄ちゃんだなんて信じられないだろう。今のお兄ちゃんはそれぐらい変わってしまった。

 そしてお兄ちゃんは寒い雪の日に亡くなった。

 その日の朝、お兄ちゃんは珍しく居間にいた。顔もいくらか前のような優しさが見えた。

 私は少しほっとした。お兄ちゃんの悩み事はもう解決して、これから前みたいなお兄ちゃんと暮らせるんだって思ってた。

 朝食のシチューを運んできたとき、お兄ちゃんはほほえんで私に言った。

「ウィン。最期に歌を聴かせてくれない?」

私は嬉しかった。ホントに元のお兄ちゃんだって。

「最期なんて、縁起ないこといっちゃだめだよ」

私はそれがどんな意味か深く考えていなかったせいで、笑ってピアノの前に座った。

 ほこりのかぶったふたを開け、鍵盤に指を乗せる。久々の感覚に胸が弾んだ。

「リクエストある?」

「何でもいいよ」

私は大好きな歌を弾き出した。幸せな歌詞で、レクイエムのような調子。

 お兄ちゃんは静かに聞いていた。それなのに

 ガタンッ。

 後ろで大きな物音がして、私は演奏を中断して振り返った。

 そこには椅子から落ちて、床に転がっているお兄ちゃん。

 床には、朱が流れていた。

 お兄ちゃんの胸に、ナイフが突き刺さっていた。

 最期って、そんな、嘘でしょ。

「おにいちゃん?おにいちゃん!」

どんなに揺さぶっても、お兄ちゃんの閉じた瞼は開くことはなかった。

 後から知った。お兄ちゃんはあの不治の病を研究していた科学者だって。そして、その病気の治す薬を作ろうとしてたみたい。

 でも、できる前にこの世界の人は私を除いて死んでしまったみたい。

 この世界から誰一人として出入りができなかったのは、病気がほかの国に感染しないようにという、対処だったようだ。

 私たちは知らないうちに、この白い世界に軟禁されていたのだ。

 私がなかなか感染しなかったのは、いつの間にかお兄ちゃんに注射された試作のワクチンのおかげみたい。

 まだそれも完璧じゃなかっみたい。

 私はお兄ちゃんの研究品の中にあったあの病の菌を、私は注射した。

 このとき、自分が犯した過ちに気がつかなかった。

 ただ、一人が寂しくて悲しかった。

 独りになるくらいなら、死んだ方がいいって。

 それから数日。私に症状が現れだした。

 これで死ねるって、喜びがなぜかなかった。ただ、恐怖だけだった。

 食欲も落ちた。感覚もなくなった。

 毎日、雪の上でお兄ちゃんやまちのみんなへ、レクイエムを歌っていた。

 それから数ヶ月、彼にあった。

 名前はラド。真っ黒で少し汚かった。それに不器用で、少し愛想がないかな。

 でも、優しくて、紳士。見た目から想像できないけど。

 最初見たとき、なにこれって思ったけど、私にマフラーをくれたときちょっとときめいちゃった。

 まさかこんな人がこんなことするなんて、思わないじゃない。

 だけど、彼と長くいることはできない。

 彼といると楽しかったよ。彼の事、嫌いじゃなかった。むしろ、その逆。それなのに。

 いや、だからこそ。彼に心配はかけられない。彼に惨めな姿なんて見せたくない。

 彼に、悲しい思いをしてほしくない。

 彼には、私じゃなくて、きっと、もっといい人がいる。

 だからね。お別れをしなきゃいけない。

 長く一緒にいすぎると、情がうっつっちゃうでしょ。それに、ここには二人しかいないから、ちょっとした感情でも湧いちゃったら勘違いしちゃうかもしれないし。

 私ですら、勘違いしてるんだもん。

 どんなに冷血って思われてもいい。冷たく引き離した方が彼のためかもしれない。

 だけど、彼が出て行ってから私は全然楽しくなかった。

 お兄ちゃんが亡くなってからは、歌だけがすべてだったし。歌さえあればそれで良かった。

 だけど、今は違う。前みたいに歌っても楽しくない。

 お兄ちゃんやみんなに歌っていたレクイエムも歌えなくなった。

 いつも、ラドと歌う歌しか私は覚えていなかった。

 食事だって、ラドがいないのにシチューを作ってしまう。それも毎日。

 食べ物を無駄にするのは悪いことだけど、誰も食べないもん。

 毎日、作っては捨てるの繰り返し。一回、もったいないからって口に運んでみたけど、味もしないし、なかなかのどを通ってくれなかった。しまいには、戻してしまう。よくこれで、やつれないものだと、こころなしに感心したものだ。

 目が見えなかったけど、ずっと住んでいたから生活に困ることがなかった。

 それにしばらく闇の中に住んでいると、次第に見えないのにまるで見えているかのようになるの。不思議だよね。

 そして、耳は聞こえなくなる。だから、話すこともなくなって次第にしゃべれなくなってしまって。

 でも、歌だけは歌えたの。事実、ちゃんと歌えていたのかわからないけど、歌えたとわかるの。不思議だよね。

 おかしい。最近、不思議なことが増えたみたい。

 不思議といえば、とっても不思議なことがあるの。

 私のから、なにもかもがなくなるでしょ。でも、彼だけはなくならないの。

 よくわからないけど、彼の歌、彼の顔、彼との日々。

 ラドの事が、私の中から消えないの。

 そんなことを思ってたら、夢にラドが出ていたの。

 私はいつもどおりに、雪の上で歌を歌っているの。

 感覚はないんだけど、耳も聞こえて言葉もしゃべれて、目も見えるの。

 それでね。しばらく歌を歌ってるんだけど、声が聞こえるの。

 懐かしい、彼の声。

 嬉しかった。愛おしかった。

 初めてなの。彼が私の名前を呼んだのは。

 幻聴じゃないんだって確かめたくて振り向くの。

 するとね、彼が私の所に走ってる姿があるの。

 嬉しくて、嬉しくて、彼を抱きしめたかったのに、夢はそこで終わってしまったの。

 まだ日の昇っていない朝。どうしてか、彼が来るって気がしたの。

 だからね、すぐベッドから下りて、外に出たの。

 彼が、私に気がついてくれるように。夢が現実になるように。

 しばらくそうしていたわ。時間なんて、感じられないくらいだった。

 突然、何かがぶつかったみたいに体が揺れたの。

 何か、音がするなってのはわかったの。

 顔をつかまれて、動かされた気がした。

 それをしているのが、誰なのかは見当はついていた。

「ラドなの?」

そういったつもりだけど、たぶん言えてない。

 私は頬に触れているだろう手を取って、文字を書いた。

 わかってくれるか不安だったけど。

 でも、わかってくれた。それに、ラドだった。

 嬉しかった。でもその反面、怖くなった。

 またラドがここに来てしまったら、だめなのに。

 自分でも、だめな理由が浮かばなかったが、だめなんだ。

 あんなに冷たくしたのに。

 ラドは、私のそんな気持ちに気づいていないから、いたいなんて言う。

 私だって、一緒にいたいのに、だめなの。

 ラドが好きだから、一緒にいられないのに。

 でも、私の心は弱い。もっとも望んでいる事を彼に言ってしまった。

 不思議なことに、後悔してないの。あのとき、素直になれて良かった。本当に。

 抱きしめた彼のぬくもりが感じるような気がして、嬉しかった。

 ラドがいる生活はやっぱり楽しかった。輝いていた。

 だめだね。私って。みんなを不幸にしたのに、自分だけこんなに幸せになって。

 だけど、別れは早かった。

 翌日、なぜだか早く目が覚めたの。

 外を見ると、雪が降ってるの。空は晴れているのに。

 それは私が好きな天気で、うきうきした気持ちで外に出たの。

 ラドには悪いけど、朝から歌わせてもらったわ。

 少しして、ラドも起きてきたの。起こしちゃったのかな。

 なんてことを思ってたら、ふと思い出したの。

 私、目が見えないはずじゃなかったっけ?でも、見える。

「ラド?」

試しにしゃべってみると、ちゃんとした言葉で聞こえた。

 嬉しかった。また、ラドが見れる。ラドの歌が聴ける。ラドと話せる。

 だけど…。

 体が震えた。寒い。

 感覚も戻った。元に戻ったんだ。

 涙のぬくもりがじんわり伝わった。

 初めてあったときのように、ラドがマフラーを巻いてくれた。

 今度は、本当に暖かかった。

 嬉しくて、悲しくて、涙があふれてきた。

 彼が抱きしめてくれて、初めて彼のぬくもりを感じた。

 人のぬくもりを感じたのは、どれくらい前だっただろう。

 このまま時間が止まればいいと、叶わない願いをしてしまうほど、幸せだった。

 でも、こうしてる時間も終わってしまう。

 時間がない。

 最期はラドと歌いながら死にたかった。

 昔、病にかかった人が最期、死ぬ間際は普通に戻っていた。

 だから、時間がない。

 嬉しいのに、幸せなのに、涙か流れた。

 あのとき、菌を注射しなければ良かった。

 もっと、彼との時間を大事にすれば良かった。

 好きな人の腕の中で死ぬのが幸せだと思っていた。でも、悲しすぎる。

 離れたくないのに。

 最期に、彼の顔を覚えておきたいと振り向いた。

 彼が不思議そうに、手を伸ばしてくる。それにつかまりたかった。

 でも、体は後ろに倒れていく。

 もう、お別れなんだ。

 そう思って、目を閉じた。

 

 再び目を開けたとき、あの夢のような世界にいた。

 今度は、祝福の天気だった。

 私は、走った。走って、どこかへ行かなくてはいけないという、衝動に駆られて。

 走った。走った。

 ふと、私は足を止めた。その理由はよくわからない。

 でも、言わないとと思った。

「さよなら。ラド」

そして私は、また走り出した。

 腕が引っ張られた。彼が、私を抱きしめてくれる。

「ラド」

これがきっと、最期だから、愛しい彼の名を呼びほほえんだ。

 だけど、悲しくて胸が張りさせそうで、涙が出て来ちゃった。

 抱きしめられる前に、私は目を覚ました。

 いや、帰って来たの方が正しいのかもしれない。

 雪の上に私は、横たわっていた。

 見渡すと、見慣れた風景。

 後ろには、お兄ちゃんの小さな家。

 私とラドが暮らした家。

 これが夢じゃないと、私はなぜだか確信があった。

 玄関を入ると、床に座って泣いていた。

 そんな彼を抱きしめる義務が私にある。

 そっと彼を後ろから、抱きしめる。

 見つめる彼に、優しく微笑み返す。

「ウィン。お帰り」

ぎゅっと抱きしめられて、私は少し驚いた。

 まるで大きな子供みたい。

 私も彼を抱きしめ返した。

 私は、生きている。

 独りじゃなくて、二人で生きていく。


実は、この物語は予定になかったんですけど

なんか、手がすすみに進んで、1週間で書き終えたものなんです

ひらめくままに書いたので、設定がおかしかったり

本編とごっちゃりするかも知れませんですけど

今は、これは書かなくちゃいけない物語だったと思います

これで、本当に『白い欠片』は完成したんです


物語に深みがましているといいのですが…


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