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アグリニオン戦記 外伝 ミュランジ城攻防戦の真実  作者: 田丸 彬禰


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ティールングルの戦い Ⅲ

 フランベーニュ軍の勝利で終わったティールングルの戦い。

 だが、勝利したフランベーニュを含めた人間側では、このティールングルの戦いについての評価、というか、魔族軍をティールングルに引き入れたベルナードの判断に対する評価は賛否半数、大きく分かれていた。

 むろんその戦果だけを聞かされた当時の国民は戦いに勝利し魔族軍のミュランジ城攻略を阻止したとベルナードを賞賛した。

 だが、多くの事実を知った者になるとその評価は完全に逆転する。


「転移避けを施せば、魔族はティールングルにやってくることができなかった。そうすれば、戦いをおこなうこともなく、戦死者も出なかった」


 事実であり、実に真っ当な意見でもある。

 そして、同じく敵味方の多くの情報を眺めることができる後世の歴史家たちの意見も否定的なものが多かった。


「アルサンス・ベルナードは自らの名声を獲得するために七万人以上の命を使った」


「大軍で待ち構え、完勝を狙って失敗した。この一戦だけでベルナードがボナールの足元に及ばぬ凡将であることが証明されたといえる」


「魔族との戦い。そこまで広げずミュランジ城攻防戦という範囲に限定しても、この戦いは戦ったという記録以外に意味のないもの」


 これがその骨子となるもので、どれも辛辣であり、厳しくベルナードを批判するものであった。


 もちろん戦争している以上、戦えば死ぬ者は出る。

 そして、規模が大きくなればその数は増す。

 つまり、問題はこの戦いが必要だったのかどうかということであり、ベルナードを批判する者はこれを不要な戦いだとしたわけである。


 だが、同じように多くの情報を得ながらベルナードの判断を支持する者もいる。

 彼と同じ時代に前線にいた者たちである。


 ミュランジ城攻防戦の勝者のひとりとなるエティエンヌ・ロバウの言葉。


「たしかに損害が非常に多かった」


「だが、正面からぶつかった野戦で三万の魔族軍を殲滅した。フランベーニュにはその事実こそが必要だった。特に陸軍にとっては」


「もちろんクロヴィス・リブルヌによって設置された障害物が魔族軍の渡河を阻んだ要因であることはたしかである。だが、ミュランジ城攻防戦において剣を交えての戦いの戦果はすべてアーネスト・ロシュフォール率いる海軍のものである。むろんロシュフォールはそれらすべてが海軍の手柄などと誇ることはなかった。だが、世間がどう見るかはそれとは別の話。彼らにとって陸軍はあくまで脇役でしかない」


「その中でのあの勝利。ハッキリいえば、陸軍の名誉はアルサンス・ベルナードに救われたと言ってもいいだろう」


 この戦いのきっかけを持ち込み、ベルナードの心情をより知ることになったクロヴィス・リブルヌも判断を支持する者である。

 彼はベルナード批判の中心にいる貴族たちが純軍事的理由でそのキャンペーンを展開しているわけではないことを看破し、貴族を念頭に皮肉交じり自らの意見を口にしていた。


「ティールングルの戦いは不要なものだったなどと言っている者もいるらしいが、それは机の上で駒を並べて論じる場の話であり、生身の人間が剣を振る本物の戦いでは士気というそこにはあらわれない要素が重要になってくる。そして、ふたつの大敗にボナール将軍の戦死まで重なって我が軍の士気は地の底まで落ちていた。そのような状態の兵に勢いをつけさせるために我々にはわかりやすい勝利がどうしても必要だった。そして、ベルナード将軍はそれを手に入れた」


「さらに、ベルナード将軍は魔族軍の戦力を削ぐことを熱心だった。転移避けを展開して背後に現れないようにするのは簡単なことであったにもかかわらず敢えて敵を呼び込んだのは、それによって魔族軍の余剰戦力を排除できるからだ」


「あれを無駄だと言っている者たちは、魔族軍の攻勢に現れるはずだった二万七千の精鋭兵士と多くの指揮官。それから二千もの魔術師を一挙に消し去ったことをどのような評価をしているのか知りたいものだ」


 そして、ベルナードの判断に賛意を示す者は敵側にいた。

 一瞬ではあるが、フランベーニュ側によってこの戦いの敗北の将として名を挙げられたアルディーシャ・グワラニーである。


「実際のところ、ティールングルの戦いがミュランジ城攻防戦の幕引きに大きく影響した」


「あれによって多くの将兵を失ったことがミュランジ城攻略部隊の足枷になった。特に、その後に続いた醜態の連続から考えれば、この戦いで多くの指揮官を失ったのは大きかった」


「安全第一が基本に思えたベルナードがどういう理由であのような策を思い立ったのかは知らないし、戦いの本筋から言えば無駄な戦いといえるものの、結果だけを考えれば、あの判断は間違っていなかったと言わざるを得ない」

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