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アグリニオン戦記 外伝 ミュランジ城攻防戦の真実  作者: 田丸 彬禰


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ティールングルの戦い Ⅰ

 一時王都に戻ったポリティラは自身の派閥の長である魔族軍総司令官アンドレ・ガスリンに戦況を報告し、あわせて更なる援助を求める。


 怒鳴りつけられる。


 ポリティラはそう覚悟していたのだが、ガスリンは意外にもすべてに納得し、労いの言葉さえ口にした。

 そのうえでこう言って増援を約束した。


「渡河に必要な船を用意する件については了解した。十分な数を至急手配するので心配しなくてよい」


 もちろんポリティラは大喜びしたのだが、ガスリンの口からやってきた続く言葉に氷つく。


「それから、それだけ失えば兵も足らないだろう。船とともに援軍を送ることにしよう。むろん指揮官を加えて」


 現在の指揮官たちは頼りない。


 ガスリンの言葉は言外にそう言っていた。


 ポリティラはそう受け取った。

 当然、指揮官の派遣など断りたいところであるのだが、それによってガスリンの機嫌を損ねるわけにはいかず、すべてを受け入れポリティラは前線に戻る。


 その秘めたる思いを隠して。

 

 だが、実際のところガスリンにポリティラが考えているような意図があったのかと言えば違う。

 単に敗戦続きの部下の心情にまで配慮できなかっただけだった。

 そして、ガスリンの配慮不足の根源となる焦りの核となっていたのが、ライバルであるコンシリアの直属部隊がグボコリューバ攻略のためまもなく出発するという情報だった。


 そう。

 ガスリンとしては、先発した自分の子飼いがミュランジ城を落とす前にコンシリアの子分が成功を収めるなど由々しき事態であり、まして自分たちだけが失敗し撤退するなど許されないことだったのである。

 始めたからには絶対に成功させねばならず、そのためには将でも兵でも武器でも必要なだけ送り込む。

 残念ながら立て続けの敗北に視野が狭くなっていたポリティラにはその思いはまったく伝わらなかったのだが。


 そして、前線に戻ったポリティラから増援の内容を伝え聞いた諸将もポリティラと同様の反応をする。


 そして、焦りの中で考える。


「あらたに新しい指揮官がやってくれば、我らはその者の単なる駒」

「その者の功のためにこき使われすり潰されるだけだ」

「そのとおり。その前になんとかせねばならない」


 そこにあらたな案を提示したのは魔術師長アラカージュ・パウナミンだった。


「随分と苦労しているようだな」


 その場に遅れて姿を見せたパウナミンの第一声は、あきらかに「ロシュフォールの火祭り」時に、その責任を魔術師に押し付けようとした者たちへのお返しの言葉であった。

 鼻白む諸将を眺めながらパウナミンは言葉を続ける。


「門外漢である私が見ても、例の白服が門番をしているあの回廊を突破するのは容易なことではないように思える。そして、たとえ突破できても我が軍も相当な被害を受け、肝心のミュランジ城に挑む頃には僅かな兵しか残っていないということだって十分に考えられることだ」


「そうかと言って王都からの援軍の到着をおとなしく待つのは自分たちの立場が失墜するのを待っていることと同義語。他人が得る名誉のための使い捨ての駒となる最悪事態になることを避けるためにも増援が来る前に十分な成功を手に入れなければならない。そのための何かよい策はないか?」


「それが各々の心境だろう」


 認めたくはないが、すべて正しい。

 言い返すことなく渋い顔で自らの言葉を聞き入るだけの諸将を眺め終わったところで、パウナミンはニヤリと笑う。


「そのような窮状にある将軍たちにかかる暗雲を一気に吹き払う策を授けたいと思う」


 魔術師ごときが将軍である我らに策を授けるなど不遜極まる。


 その瞬間、無言の怒りがその場に漂うものの、そうかと言ってパウナミンを怒鳴り散らしその開陳を拒絶するだけのものを自分たちが持ち合わせてはいないのも事実。

 さらに、魔術師団は将軍の配下ではなく独立した組織。

 その長である魔術師長は将軍たちと同格以上の存在。

 心底からとは言わなくても十分にその立場を尊重せねばならない。


 目を見合わせ、合意が形成されたところで、ポリティラが代表して言葉を口にする。


「拝聴しましょう」


 不本意極まる。


 その感情が滲み出すポリティラの言葉は、当然受け取る側にとっては快いものとなる。

 その優越感を十分に堪能したところでパウナミンは大きく頷く。


「よろしい」


「では、聞いてもらおうか」


「だが、その前に、諸将に尋ねたい」


「把握している敵の数はどれくらいかな?」

「白服の配下が一万。そのほかに河岸に並ぶのが一万。それから、城の周辺に一万。確認はできていないが、常識的には城内に一万。あわせて四万というところだろう」


 パウナミンの尊大な言い回しによる問いかけに、同僚たちに視線で指名されたアルタミアが盛大に不機嫌さを漂わせながらそう答えると、その表情のお返しばかりにパウナミンがそこに補足するような言葉を加える。


「……それに対する我が軍は兵も同じく四万。ただし、渡河に必要な川船は二千だからただちに動けるのはその半数。これでよろしいな」

「……ああ」


 聞きたくもない現実をあらためて聞かされたアルタミアは不機嫌さを隠せない。

 いや。

 隠さないと言ったほうがいいのかもしれない。


 一方、その相手となるパウナミンといえば……。


 パウナミンは心の中でその男と仲間たちをたっぷりと嘲ると、その表情を十分に滲ませた魔術師長であるその男の口が動く。


「同数のフランベーニュ軍などあっという間に粉砕するはずが、こちらが兵を失うばかりだ。その最大の要因はフランベーニュの白服とその子分。では、問う。狭い回廊を通り、待ち構えるフランベーニュ軍を破って対岸に辿り着くことができるのか?」


 答えは無言。

 もちろん威勢のよい言葉を口にするのは可能だ。

 だが、現状を前にしてそれをおこなうのは虚しいばかりである。


 パウナミンは心の中でそう呟き、そのまま次の言葉を口にする。


「まあ、やれるのならすでにやっているわけだから、当然できない。そして、それは今後もその状況が改善する見込みがない」


「……もしかして魔術師長の策というのは魔法攻撃によって目障りな白服を排除するということなのか?」


 大いなる期待も込めてという言わんばかりのセリテナーリオからの言葉だったが、パウナミンはあっさりとそれを否定する。


「いや。フランベーニュ軍だって、白服の力で現在の優位が保たれていることは十分に承知している。当然彼らに対して最高位の防御魔法を施している。将軍の期待に応えたいのは山々だが、残念ながらそれは無理だな」

「では、どうすると?」


 大きな落胆と少々の不満。

 そのような感情が混ざり合ったセリテナーリオからやってきた新たな問いは一見難題に思える。

 だが、自らの策を華麗に披露するためにその言葉を誘引したかったパウナミンはニヤリと笑う。


 パウナミンがもう一度口を開く。


「努力しても抜けない相手なら避ければよいではないか」


「避ける?」

「そうだ」


「転移して対岸に渡る。これであればいくら白服が強くても手が出せない」


 まずはその方策と結果をあきらかにしたパウナミンは続いて、それを核にした自らが持ち込んだ策の概要をつけ加える。


「……まず、新たな回廊の探索。これを盛大におこなう。それこそ手持ちの船を使って大掛かりに。だが、これは囮だ」


「敵の注意が完全に川に向いたところで、本隊が城の背後に転移して一気にミュランジ城に迫る」

「チョット待て」


「……それは以前検討したことが……」

「いや。あの時は転移する者が囮で、船で渡河する者が本隊だった。私が提案したのはその逆だ」

「たしかにそうだ。だが……」


 ポリティラが口にしかけた言葉を切り捨てたパウナミンのもとに今度は別の者から疑問の言葉がやってくる。


「それには大きな問題があるだろう」


 すべてを聞き終えたところでその策には大きな穴があると指摘したウルアラーの言葉にパウナミンは目を細める。


「その問題とは何かな?ウルアラー将軍」


 一瞬の間の後、返ってきたパウナミンの言葉には不機嫌さを示す香りが漂う。

 だが、そのようなことで臆するほどウルアラーはやわではない。

 

「言うまでもない。転移避けだ。我々でも考えついたのだ。奴らだって転移魔法で川を渡ってくるかもしれないぐらいのことは思いつく。そうなれば当然盛大に転移避けは施してくるだろう。自分たちだけがそれを思いつくと考えるのはさすがに傲慢が過ぎるだろう」


 ウルアラーの、パウナミンに対する非難めいた言葉はここまでパウナミンにやり込められたことに対する反感が大きな割合を占めていた。

 もちろん諸将も大きく頷く。

 だが、パウナミンはなぜかニヤリと笑う。


「相手も転移によって川を渡ってくることを想定している。まあ、それについ間違いなくなくそうだろう。その点については私も将軍の意見に同意する。だが、彼らの想定場所は城周辺。そして、それは将軍たちが転移を考えたときに想定したのも同じ」


「だが、私の案は転移する場所は極端な話、対岸であればどこでもいい」


「つまり。以前の策とは似ているようで中身はまったく違うのだ」


 たしかにパウナミンの言葉に間違いはない。

 そして、理に適ってもいる。


「それで……」


「魔術師長はいったいどこに転移してミュランジ城を目指すというのだ?」


 遂に完敗を認めたポリティラからやってきたその問い。

 それに対してパウナミンは芝居のクライマックスを迎えた主人公のセリフのごとくこう答えた。


「我々の降り立つ場所。そこは……」


「ティールングルだ」


 ティールングル。


 それはミュランジから西に二十アケト以上離れた場所に位置する町の名である。

 いや。

 魔族とフランベーニュとの戦いで完全に破壊され、現在は廃墟なのだから、正確には「元」町だった地名と言ったほうが正しい。

 もう少し説明をしておけば、一応街道沿いにあるのだが、もともと水の便が悪かったことから便利な場所に町は再建されたことがきっかけとなり事実上放棄されており、この町を利用するのはやむを得ぬ事情がある者か、山賊の類だけとなっている。


「……以前はいたようだが、現在は警備の兵を置く理由もなくなったらしく、それと同時に転移避けをする価値もなくなったらしい。他の場所はどこも転移避けが展開されている中でこの周辺だけが転移できるのは不思議に思えるが、それだけ優先順位が低いということなのだろう。まあ、転移する者にとってはありがたいだといえるのだが」

「……魔術師長に尋ねる」


「どうやってそこが大丈夫な場所とわかったのだ?」


 説明を聞き終えた直後、ケイマーダからやってきた問い。

 これは実にもっともなものと言えるだろう。

 なぜなら、かの地を奪われてからかなりの時間が経つ。

 元々魔族の領地だったのだから、その地を知っているのは当然のことではあるが、その後どうなっているかなど本来は知るはずがないのだから。


 だが、パウナミンはおかしなことを尋ねるものだと言わんばかりにこう答えた。


「簡単なことだ」


「現場を確認したのだ」

「つまり、ティールングルに行ってきたのか?」

「そうだ。それも何回も」


 そう言ってから、パウナミンはその経緯を語り始める。


「最初の戦いで船を使った単純な渡河は難しいと感じた私は、配下たちを使い転移先を探し始めた。むろん当初は転移した囮を使う策をおこなう場合の準備として」


「だが、私の予想以上にフランベーニュ軍の警戒は厳しくほとんどの場所に転移できなかった。ミュランジ城付近はもちろん、かなり離れた場所まで範囲を広げても結果は同じだった」


「そのなかで見つけたのがティールングルだった。瓦礫ばかりで転移するのは少々難しいのだが、草木に覆われ見通しが悪いというのは転移後、出発まで身を隠すのには適している場所だともいえる。ただし……」


「ミュランジ城からは離れている。そのため、囮として転移しても背後を脅かすことにはたいした効果は得られない。だが、ここを攻略部隊の出発点とするのなら、まったく問題ない。私はそう思い策を考えたわけだ」

「なるほど」


「転移できるのはわかった。そして、そこまで調査していたことにも感謝する。だが、周辺に本当に敵がいないのかは確認できているのか?」


 ポリティラからやってきたこの問いは極めて常識的なものだ。

 もちろんそこは敵の占領地。

 さすがにそのような場所に降り立ち、ミュランジ城まで敵と遭遇せず行進できるとまではどんな凡将でも考えない。


 転移した途端に攻撃されることはないのか?


 ポリティラの問いの真意はこのようなものである。


 一瞬、皮肉のひとつでも投げつけてやろうと考えたパウナミンだったが、考え直して極めて真っ当な言葉を答えとして選び出す。


「敵中、しかも、ここだけが転移避けから外れていることから考えて罠の可能性もなくはない。そして、それではダメだというのならこの話はそこで終わりで構わない。だが、そこが単純に転移避けの範囲外だった可能性もなくはない。なによりも、そこは陸上。つまり、転移直後に魔法攻撃を受けることがなければ安心していつもの剣を振るうことができる。戦斧相手におもちゃの剣を振るい、川に叩き落とされるよりも、はるかにマシだと私には思えるだがいかがか?」

「……うむ」


「……たしかに悪くないな。それは」


 ポリティラが漏らした言葉は一同を代表するものであった。


「私は魔術師長の提案は十分に検討に値するものであると思うのだが、皆はどう思うか?」


 その策を採用したいという強い思いが籠ったポリティラからの言葉にやや負の要素が強い反応を示したのはセリテナーリオだった。


「それを成功させるためには条件がある」


「転移魔法によって渡河をする。実に結構な話だ。というより、今の我々に残された唯一の道とさえいえる。だが、先ほどの話通り、それは敵中に出向くことになる。しかも、そこに行くのは囮ではなくミュランジ城攻略部隊の主力だ。そういうことであれば、当然魔術師団も帯同せねばならない。その策を採用するかどうかを確認する前にその点はどうなのかをはっきりさせるべきだろう」

「……たしかに。送り届けただけで帰られては困る。帯同するという確約を取るべきだ」

「ああ」


 セリテナーリオの言葉に、ケイマーダとオリアンダが賛意を示し、残りの者も大きく頷き、それからその対象となる者を疑わしそうな視線で眺める。

 微妙、というより不穏と言ったほうがいいような空気が流れる中、その男は表情を変えぬまま口を開く。


「……まあ、そのような疑念を抱かれるのは不徳の致すところと反省するが、この提案をして安全な場所から見物するつもりはないのは当然のことである。魔術師団としても成功の暁にはそれなりの褒美を貰えるだけのことはする」

「それは城攻めまで帯同するということ受け取ってよろしいか?」

「くどい」


 確認するセリテナーリオの言葉を撥ね退けたパウナミンはその勢いのままで言葉を続ける。


「カペリーニャ・マカウ、クイアベ・ポンフィンというふたりの副魔術師長に引きられた二千二百人の魔術師が将軍たちに帯同する」

「……つまり、魔術師長自身は留守番ということか」


 マテイロスからやってきた呟きのようなその言葉は間違いなくパウナミンへの大いなる皮肉。

 それだけ言っておきながら結局自分は安全な場所にいるのかという。

 だが……。


「浅慮だな」


 皮肉のお返しというには直接的な表現でパウナミンはそれに応えた。

 そして、これだけわかりやすい表現をしたのだ。

 当然相手にもそれは伝わる。


「言ってくれるではないか。では、聞こう。魔術師長が残るその理由を」


 マテイロスの、怒りをどうにか抑え込んだその問いに答えるパウナミンの顔には更なる嘲りの表情が浮かぶ。


「本当にわかっていないようなので教えてやる。まず、私には、ふたりの副魔術師長、さらに二千人の魔術師を合わせた能力がある」


「つまり、私がいることで、囮として活動する部隊や本陣を残った少数の者だけで守ることができる」


「その私が将軍たちに帯同した場合、私の能力に見合った者たちを代わりに残留させなければならない。ひとりの有能な者に頼った場合、その者が倒れた瞬間から軍はなにひとつ魔術的援助を受けられないという事態に陥る。その点、ふたりの副魔術師長がいれば、どちらかが残れば完全なものではないものの援助は受け続けられる。質は数を補える。これは事実だが、ひとつの良質のものより、質はやや劣るが数を揃えた方が有利となる場合もある。この場合がそれにあたる」


「だが、どうしてもということなら、ふたりの副魔術師長と二千人の魔術師と引き換えに私がついていくがどうする?」


 そう。

 高みの見物を決め込むために留守番を望んだと思われたパウナミンだったが、本当の理由は一点集中よりも分散配置の方がリスク回避には効果的という別の世界でも通用しそうな考えかたに基づくもの。

 さすがにこれだけのものを示されては、パウナミンの人選に異義は挟めない。


「いや。必要な援助が得られるという保証があるのなら、帯同する魔術師の人選は魔術師長が決めることだ」


「まあ、我らにとって重要なのは、誰が同行するのではなく、どれだけの支援が得られるかということなのだから当然だろう。そして、現在の我々にとってその中で最も重要なものはどれだけの兵を転移させられるのかということだろう」


 手打ちを求めるポリティラの言葉に続いたオリンダの言葉は、分が悪い話から早急に離脱したいという意味が強かったのであるのだが、その内容自体についていえば、その場にいる多くの者を代表していたものといえるだろう。


 兵は四万人以上いるものの、船に乗れる人数はその半数。

 残り全部をティールングルへ送り込みたいという。


 そして、パウナミンが口にしたそれに対する答えは……。


「ティールングルからミュランジまでその気になれば十日で到着する。だが何があろうが補給なしで持ちこたえられるように三十日分の食料や予備の武器なども持参しなければいけないことを考慮して、魔術師を除けば、上限は三万だな」


 ミュランジ城攻略部隊の総計は四万。

 欺瞞のためには一万は残さねばならない。

 そうなれば残りは最大で三万。


 現実と理想が合致する。


「まあ、この辺が妥当だろうな」

「ああ。囮があまりにも少ないと怪しまれるからな」


「では、その数を参考に居残りを決めようか」


 そう言ったものの、実を言えば、この時点で多くの者の心の中でその候補者は決まっていた。


 クレメンテ・アルタミア。

 フェリペ・セリテナーリオ。


 もともと回廊探索に熱心であったから。


 それがふたりの選考理由となる。


 もちろん彼らだってより効率的に対岸に辿り着くためにそれをおこなっていただけ。

 そんなものを根拠に武勲から遠のく囮役を押し付けられるなど御免被りたいところではあるのだが、誰かがやらねばならないことだということも理解している。

 指名されたのなら引き受けざるを得ないというのが正しい表現ではある。


 さて、口うるさいふたりにジョーカーを押し付けることに成功したのだから、当然それ以外の将がティールングルへ向かうことになるわけなのだが、ポリティラを除く将軍たちは同格。

 このままでは指揮系統の混乱が生じる。

 当然指揮官は定めなければならない。

 残り全員が指揮官に指名されたその者の指示には絶対に従うと約束したうえで、ひとりを推す。

 先任将軍ウルアラーを。


 ということで、ティールングル経由でミュランジ城攻略をおこなうために動き出した陣容は次のとおりである。


 まず、囮部隊。

 千五十艘の船を割り当てられたクレメンテ・アルタミアが率いる七千三百六十二人と、同じく千五十艘を与えられたフェリペ・セリテナーリオが率いる七千九人。


 今までの船不足が嘘のような大盤振る舞いであるが、これには当然理由がある。

 実は、これまでどおり定数分だけの船を分配しようとしたポリティラに居残り組のふたりの将軍から提案があったのである。


「船を余らせていると、陽動だということをすぐに発覚する。出来るかぎり船を出すべきである」


 これがその提案となり、その主張には十分に納得できる根拠もあったため、その提案に沿って船は配分されることになった。


 続いて、ティールングル遠征部隊。

 司令官に任命されたベルネディーノ・ウルアラーが率いる六千八百三十五人。

 エンネスト・ケイマーダが率いる三千八十三人。

 アドン・オリンダが率いる五千二百二十二人。

 ブニファシオ・マテイロスが率いる四千七百四人。

 それから指揮官を失ったゴイアス隊を吸収したドゥアルテ・フリーア率いる六千六百六十五人の計二万六千五百九人。

 同行する魔術師はカペリーニャ・マカウとクイアベ・ポンフィンがそれぞれ千百人を率いる合計二千二百人。


 最後に本陣。

 ポリティラの直属部隊五百人と、魔術師長アラカージュ・パウナミンと百人の魔術師となる。

 それから三十三艘の船である。


「準備は整った」


「さて、明日であるが、囮部隊がまず動き出し、続いてティールングル遠征部隊が転移するわけなのだが、わざわざ敵の見える場所からおこなってやる必要などない。陽が沈み次第敵の目が届かぬクペル城まで後退することにする」


「王都からの増援は二十日後にはやってくる。そして、グボコリューバ攻略もその頃には始まっている。我々はその前に成果を出さなければならない」


「諸君の健闘を祈る」


 それがポリティラの言葉だった。

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