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cool*sweet  作者: ましろ
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第4話 楽しい時間

土曜日の午後6時10分前

俺は、家から少し離れた交差点でしきりに腕時計を確認していた

なんだかんだで、あっと言う間に平日は終わりを告げてしまった

土曜日、俺が唯子さんの家に行く日だ

朝から服とか、格好に相当悩んだ

でも俺があまりにも堅い格好なんかしても、無駄に背伸びをしているようにしか見えない

そう思い普段通りの服を着ていくことにして、今この場で待っているわけだ


「そろそろか…、っと」

俺は視線の先に唯子さんの姿を捉えた

彼女も同時に気がついたようで小走りで近づいてくる

「待った?」

呼吸を落ち着かせながら彼女は聞いた

「そんなに待ってないよ」

そう返すと、安心したようで

「そう。なら、よかった……」

とかすかに笑った

「それじゃ、行こうか」

と言うがなんだか下を向いて歩き出さない

何か抗い難い何かと戦うような…

「青葉君」

「どうしたんだ?」

彼女はどうやら戦いに敗北したようで

「はぐれると困るから…、手を繋ぐのはどうだろう」

そう言い、左手を差し出す

「それはいい考えだね」

と、俺は彼女の手を取ったのだった


唯子さんの家はいつも俺と別れる場所から案外近かった

「……ここよ」

彼女が立ち止まったそこは、小さな普通の一軒家だった

「それじゃ、入る?」

「ちょ、ちょっと待て。心を落ち着かせる……」

深呼吸を始めた俺を見ておかしそうに笑いながら

「大丈夫、そんなに緊張しないで。入ろう」

そう言って彼女はドアを開けた


「連れてきたよ」

玄関に入ると、彼女は奥に向かいそう言った

「居間まで入っていいよー、ちょうど用意が終わったからー」

やけに幼い声が返ってくる

「唯子さん」

「何だ?」

「唯子さんって、妹がいるの?」

そう言うと、唯子さんは苦笑した

「どうしてそう思うかはわかるけど、まぁ入れば分かるよ」

そう言って、居間の扉を開けた


「いらっしゃいませー♪」

部屋の中には、小柄な女性が立っていた

「はじめまして、青葉悠と言います。えーっと……」

見た目は十歩譲って同年代、もしくは……

とそんなことを考えていたら……その人は、俺の前まで近づいて

「はじめまして、来栖川天音と申します。娘がお世話になってますっ」

そう言って、頭を下げたのだった


「改めまして、私たちの素敵な出会いにかんぱーい」

天音さんがそう言い、3つのコップが軽い音を立てた

「お母さん、珍しくアルコールなのね」

唯子さんが楽しそうにそう言うと

「えへー、めでたい席にお酒は必須なんだよー。明日もお仕事だから少しだけだけどねー」

ニコニコしながらそう言った


楽しい時間は早く過ぎるという奴で

気がついたら時計の針は左をさしていた

「あ、もうこんな時間。さすがにお開きね」

「時間は仕方ないねー」

唯子さんと天音さんはそう言った

「そうですね。今日は楽しかったです。本当に」

俺はそう言い、帰る用意を始めた。

天音さんは、どこかから上着を取り出し、

「青葉君、大通りまで送るよ」

と言った

「そんな、別にいいですよ。一人で帰れますし」

「まぁまぁ、ちょっと話をしたいこともあるし」

最後は耳打ちで俺にそう言うと

「じゃ、ちょっと行ってくるねー」

そうして、俺は来栖川家を後にした


夜の道を、天音さんと2人で歩く

街灯があるとはいえ、さすがにこの時間は闇が多かった

隣を歩く、天音さんはまだ口を開かない

しばらく、俺たちを静寂が包んだが

「青葉君は……」

「はい?」

天音さんはこっちを向くと

「ずばり、唯ちゃんのどこに惚れたの?」

と聞いてきた

最近、こんなことばかり聞かれるのは気のせいではないと思う

「そうですね、俺は唯子さんの全部が好きですけど、

一番好きなのは、あのクールなところだと思います」

そう言うと、天音さんは再び無言になってしまったが

「私はね、あの子をあんな風にしちゃって後悔していた時期があったの」

と話し始めた

「なんとなく感づいたかもしれないけど、家には父親がいないの。

出かけてるとかそういうのじゃなくて、この世にはいない

あの人が死んじゃったのは、まだ唯子が小さなときだった」

本当に、運が悪かったのよ、あの人は

と天音さんは言い

「生活に問題はなかったの。私はありがたい事に独身のときの職場に拾ってもらって

2人で暮らしていくには十分だったから。ただ、逆にそれがまずかったのかな

あの子は自立を強制させられてしまった

小さなときに遊ぶ時間も十分に作って上げられなかった」

「ただ、あの子が中学にあがる頃、私もなんとか仕事と生活を両立できるようになって

あの子にも少しだけ自由な時間を上げることができた」

「ただ、口調があんなでしょう?」

「そうですね……、俺はあの口調嫌いじゃないですけど」

そういうと、天音さんはくすくすと笑い

「青葉君は結構特殊だと思うわよ。

でも、本当に感謝してる」

天音さんはそう微笑み

「最近ね、あの子少しだけ変わったのよ

笑って見せるし、驚くし……

本当に、びっくりした

これが愛の為せる奇跡って物かしら」

にやにやしながら、そう言った

「まぁ、……本当にこれからもよろしく頼むね、唯子のこと」

俺の手を握り、目を見て天音さんはそう言った

「……はい」

俺は、しっかりとそう返した


しばらくどうしたものかと思っていたら

道路の向こう側から車が走ってきた

俺たちは道路の隅によって避けたが、何故か車は隣に止まった

あれ、この車は……

俺が結論に及ぶ前に車の窓が下に下がり……

「部長、こんな所をほっつき歩いてたらまた警察に捕まりますよ

って悠じゃないか」

「ほんとーだー。天音ちゃん、いくらうちの悠ちゃんがかわいいからって持ち帰らないでくださいよー」

車の中に乗っていたのは2人の姉だった

「梨花ちゃんに桃花ちゃん。ごめんねー、ちょーっとお話を」

「ちょーっとってあれ……?悠、今日は彼女の家に行ってたんじゃ?」

「行ってたけど」

梨花姉はしばらくあごに手を当てて何かを考えていたが

ああ、と納得した表情を見せて

「つまり部長が彼女なのか!」

「ちげーよ!」

この姉は実は馬鹿じゃないのか!


その後の話を簡潔にまとめると

2人は病院からの帰り道に偶然俺を見つけたこと

天音さんは姉さんたちが勤める病院の心療内科のリーダーだということ

がわかった

「そっかー、悠ちゃんの彼女さんは天音ちゃんの娘さんだったんだー」

「俺は今日色々と知りすぎてパンクしそうだ」

頭が痛い……

「まぁよかったじゃないか。見知らぬ人じゃなくてこっちも気が楽だ」

梨花姉はそういって笑った。

「とりあえず、明日はその娘さんを呼ぶのねー、楽しみだわー」

そういう桃花姉とは裏腹、少し不安を抱える俺なのだった

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