第1話 新しい日常と知らなかった彼女の一面
夕暮れの帰り道
普段なら独り寂しく帰っているはずの道
でも、今日は隣に人が居た
さっき、俺と恋人という関係になったらしい、来栖川唯子さん
正直、今でも信じられない
ぼーっと、唯子さんを見ていた俺に
「そんなにぼーっとしてどうした?」
思わず何もないよ、と言い掛けたが
せっかくだから聞きたかった事を聞いてみた
「どうして、俺なんかを好きになったんだ?」
唯子さんはしばらく考えていたが
「うーん……、どうしてなんだろうな?」
と返してきた
「気が付いたら、キミの事ばかりを考えていたんだ。
廊下ですれ違う時も何故か目が勝手にキミの方に行ってしまう」
一目ぼれ、という奴なのかな
そう、冷静に言った
「でも、俺そんなに顔も何もよくないのに、
一目ぼれなんかされる理由なんてないんじゃ……」
「いや、理由も何も、それがないから一目ぼれって言うんじゃないのか」
相変わらず、口調は淡々としていた
それでも、俺は彼女のストレートな告白がかなりキていた
「キミは?」
「えっ…?」
「私が言ったのだから、青葉君も言うのは当然じゃないか?」
なるほど、確かに。
俺が唯子さんを好きになった理由…
うまく言葉にできないがそれは多分
「かっこよさ…」
「かっこ、よさ…?」
よくわからない、と言いたげな顔で俺を見る
「来栖川さんって、いつも冷静で、なんだかかっこいいなって思ってたから。
多分、そこに惚れたのかな…」
俺がそう言うと、来栖川さんの顔はまるでリトマス紙が赤くなるように一瞬で朱に染まった
「あ、あぁ……、そう、なのか……」
顔をそらしながら、そう言う
「くらくらする……」
「大丈夫!?」
顔を抑えながらそう言う唯子さんだが
「いや、その……これは、あれだ。心に来るものがあるな」
体を持ち直し、顔の色も普通にもどった唯子さんがそう言った
「そう…なの?」
「ああ、ここが公道でよかった。人目につかない場所だったら感情が爆発していたかもしれない」
最後の方は、小声になりながらそういう唯子さんがちょっとかわいらしかった
俺は普段と違う来栖川さんの表情や言動に若干の新鮮さを感じていた
「意外だなぁ
来栖川さんって逆にそういうのも軽くあしらうようなイメージだった」
俺がそう言うと、
キミはどこまで私を冷たい人間だと思っているんだ、と返した上で
「好いている人とより近づきたいと思うのは普通だろう?
私はそれが人一倍強いだけだ
そう考えれば、君の方が遥かに冷静だよ」
とそう平然と言った
「でも、今日は色々な唯子さんが見れて、よかったよ。眼福って奴かな」
唯子さんはそうか、と言うと
こっちに勢いよく向き直ると手を差し出した
「私の恥ずかしい色々な姿を見たり、…まぁ他にも色々した罰だ。私と手を繋げ」
顔を少しだけ朱く染め、そう言う唯子さんはとてつもなくかわいくて、俺は考えるまでもなく
「喜んで」
と言い指を絡めた
一瞬、驚いたのが絡んだ指から伝わったの
「青葉君」
「何?」
「これから…、よろしく頼む」
「うん、こちらこそよろしく」
夕暮れの町は、美しい夜の訪れを告げていた