第7章:元勇者、アルトとの再会
教団との公開ディベートから数日。
咲良は、王都の外れにある古い塔―― 「言霊禁書庫」と呼ばれる封印指定区域に足を踏み入れていた。
そこに彼はいた。
《顧客絶対主義教団》の教祖――アルト=ジャーノ。
だが今は、拘束もされず、ただ静かに本を読んでいた。
「来ましたか、話術師殿。あなたと、こうして“声の届く距離”で話せる日が来るとは」
咲良は正面に座り、静かに尋ねた。
「あなたは、かつて“勇者”として召喚されたって本当?」
アルトは目を伏せる。
「……ああ。“救うべき誰か”がいると思って、無理をした。 理想に応えようとして、声を張り上げすぎた。 すると世界は、都合よく俺を“客”に仕立てた。“特別待遇の存在”に」
それはまるで、企業での失敗に疲れ果て、 “常に正しい側にいたかった誰か”が 「クレームという仮面」で言葉を武器にし始めたようだった。
「あなたは“聞いてほしかった”だけなんだね、本当は」
その一言に、アルトの肩がわずかに震える。
咲良は、そっと鞄から何かを取り出した。 それは――契約書。
小さな魔導ペンと共に、テーブルに置く。
「これ、“顧客満足度100%”を目指す魔法ギルドとの対話再出発プロトコル。
あなたの“声”を“破壊”じゃなく、“提案”として使う未来を――私たちは歓迎します」
> スキル:《選択承諾話法》発動
> 条件:相手が“本音”に触れた瞬間に提示する、未来への分岐点
アルトはしばらくそれを見つめた。 そして、小さく、笑った。
「話術師って……恐ろしいな。 でも、こんな“敗北”なら……少し、気がラクになる」
ペンがサイン欄に走る音は、まるで異世界に“健全な声の使い方”が返ってきた瞬間だった。
その夜、塔の外に咲良が出てくると、 カーティスが魔導馬車で待っていた。
「お疲れさまでした!……成功、ですよね?」
「うん。“言葉で救える人が、もう一人増えた”って感じかな」
咲良の視線は空の彼方を見つめていた。
そこにはまだ、“話を聞いてもらえずに叫び続けている人々”が、どこかにいる気がして。
「さあ、まだ架電は終わらないよ」
そう微笑んで、咲良は再び乗り込んだ。
物語は次なる局面へ。