第2章:転生、そしてスキル【話術魔法】
「……風の音?いや、なんか……チュンチュン言ってる……」
うすぼんやりと目を開けると、そこには青空と鳥の声、そよぐ草花――そして足元には、豪快に倒れている自分。
「……どこココ。絶対“通話中”だったよね私」
咲良は半身を起こしながら、周囲を見渡す。
森の中のようだが、木の葉の色も花の形も、どこか見慣れない。
そして、聞こえた声――>
「スキル確認中……適合スキル《言霊操作》《説得術》《応答魔法》を獲得しました」
> 「新たな職業:《話術師》に認定されました」
「……職業、話術師?なにそれ“業務トークの化身”?」
咲良の目の前には“スキルステータス”がホログラムのように浮かんでいる。
職業欄:「話術師」 スキル欄には、どこか既視感のある単語が並ぶ。
- 《第一声魔法》…話しかけた相手に緊張を解除させる
- 《共感誘導》…相手の怒りレベルを半減する
- 《同意連鎖》…連続肯定を誘発させる心理魔法
- 《聞き返し防壁》…無限ヒアリングループ化(危険)
「……完全にコールセンタースキル特化やないかい!!!」
しかしこの世界では、“言葉”に魔力が宿る。
その力を最大化できるのが、咲良に与えられた“話術師”という職業だった。
目の前に現れたのは、どう見ても王国側の“親切そうな案内役”……ではなく、 巨大な棒を持った、見るからにうさんくさい男。
「おい、そこの女。異世界人か?だったら身ぐるみ剥がせば金にな――」
「お名前を確認してもよろしいでしょうか?」
その瞬間、咲良の声が金色の光に包まれ、相手の動きが止まる。
> スキル《第一声魔法》が発動しました
> 効果:相手の敵意が軽減されました
「な、なにをした……!?」
「“共感の導入”です。ついでに言うと、もう逃げ道はないですよ。言葉で丸め込むので」
咲良は冷静に、話術魔法を次々展開。
- 《テンプレ逆流》:無意味な怒声を打ち返す反射魔法
- 《言質封印》:不明確な要求を“記録”し、後の反証材料とする
- 《沈黙空間》:説得中、自分以外の発話を一時停止するフィールド型スキル
男は、最後にはすっかり頭を下げて去って行った。
「……す、すまなかった!もうカスタマーごっこはやめる!!」
「カスタマーごっこ……何そのワード……」
それは、咲良にとって“最初の架電”ならぬ、“最初の対話”だった。
「よし……とりあえず、言葉が通じる世界。私、生きていけるわ」
そして彼女は、魔法も剣も使わず、ただ“話すことで道を切り拓く旅”へと踏み出す。
異世界に降り立ったその声は、 やがて“神対応を超える魔導対話”となって、世界を動かしていく――。