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【第9話】カケーヌのぬくもり

“Velum calidum, aura quietis,

super corpora descendens,

Cacaene, fove nos in nocte.”

(温き覆いよ、静けき気配よ、

 身の上に降りそそげ、

 カケーヌよ、夜に我らを包みたまえ。)



マモーレスが境を定め、

内と外の隔たりが確かなものとなったあと。

そこには静寂があった。

秩序があり、夢があり、眠りがあった。


だが――そこにはまだ、「ぬくもり」が足りなかった。


その瞬間、ふわりと、柔らかく、

まるで母の吐息のように舞い降りたものがある。

それは誰よりも大きく、誰よりも包容力に満ちていた。


名は、カケーヌ。


彼は、覆いの神。

眠る者の上にそっと重なり、

その体温を保ち、

冷えを退け、心をゆるめる存在。


「ぬくもりは、眠りをうべなう。

 覆うことで、孤独を忘れさせる。」


彼の布は分厚くも軽やかで、

風を通さず、しかし息苦しくもない。

重なりに差があり、重さに意味があり、

一人ひとりの眠りに合わせて姿を変える。


マクラミのふくらみ、タオルヌの柔らかさ、

ケットミの優しさをすべて包み、

ネブクロムやモーフォンの領域まで

そっと覆い尽くしていく。


カケーヌの役割は単純だ。

ただ“覆う”だけ――だが、それだけで世界は変わる。

ぬくもりのなかでこそ、

人は、いや神すら、眠りにゆだねられる。


フトンヌの世界はこのとき、

初めて本当の意味で「安眠」という名の聖域となった。

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