【第8話】マモーレスの境い目
“Custos liminis, manus invisibiles,
circumdant somnum sacrum,
Mamores, stat vigil in tenebris.”
(門を守る者よ、見えざる手よ、
聖き眠りを囲み守れ、
マモーレスよ、闇にて見張れし者。)
シーツァの白き秩序が広がったとき、
眠りの場は整えられ、
夢は深く、静寂は満ちていた。
だが、その完全な眠りの外には、
まだ不穏なる「外界」が横たわっていた。
そこに――境を引く者が現れる。
名はマモーレス。
彼は守りの神。
フトンヌのふちに立ち、
眠る者と世界とのあいだに、
柔らかき防壁を築く存在。
「眠りは世界を断つこと。
境なくして、安らぎなし。」
マモーレスの腕は長く、
しかし誰の目にも映らぬ。
その腕は眠る者の四方を囲い、
音も、光も、振動も――
すべてを遠ざけていく。
彼の作る境い目は、
絶対の静寂でもなければ、完全な遮断でもない。
あくまで“守る”という一点に集約された、
微睡みのための境界線。
それは柔らかく、けれど確かで、
母の手のようでもあり、
結界のようでもあった。
マモーレスが布く守りの力により、
フトンヌの世界はついに、
“外界”から完全に隔てられた。
こうして初めて、
眠りは誰にも侵されぬものとなった。
それはすなわち、
フトンヌが“神々の国”として閉じられた瞬間であり、
完全なる内界の誕生でもあった。