【第7話】シーツァの白き広がり
“Candor primigenius, velum munditiae,
extende pacem super stratum,
Sheetza, dea silentis ordinis.”
(原初の白よ、清き帳よ、
床に平穏を広げたまえ、
シーツァよ、静けき秩序の女神。)
モーフォンが夢を紡ぎ終えたあと、
フトンヌの上には、形なき残滓が舞っていた。
それは甘い幻の名残。
目覚めれば消えゆく、けれど確かにそこにあったもの。
その余韻の上を、すっと一枚の布がなぞった。
まるで風のように、しかし何よりも整然と。
現れたのは――シーツァ。
彼女は秩序の神。
乱れたものを正し、絡まったものをほどき、
眠りの舞台を整える清き手。
「眠りには、静けさがいる。
静けさには、均しき広がりがいる。」
シーツァの生地は白く、やわらかく、
しかしその端には一本の律が通っていた。
乱れを嫌い、歪みを整え、
布の一折りにさえ意味を見出す者。
彼女が現れたとき、フトンヌの上は一変した。
マクラミの位置は微調整され、
タオルヌとケットミの重なりは滑らかに、
ネブクロムの袋も静かに整えられた。
すべてが整った瞬間、
夢の痕跡すら、まるで最初からそこになかったかのように、
シーツァの下に静かに溶けていく。
彼女は白であり、始まりの幕であり、終わりの帳。
眠りに入る者にとっては道しるべであり、
眠りから覚める者にとっては静かなる結界。
こうしてフトンヌの世界には、
「整え」という役目が刻まれた。
それは目立たず、されど失われればすべてが乱れる――
不可欠なる、白の神の誕生だった。