【第5話】ネブクロムの夜渡り
“Viator nocturnus, sacco dormienti,
transit inter somnia et stellae,
Nebuchrom, dux silentii.”
(夜の旅人よ、眠りの袋よ、
夢と星々のあわいを渡る者よ、
ネブクロムよ、静寂の導き手たれ。)
フトンヌが眠りの大地と化し、
マクラミがその枕を据え、
タオルヌがぬくもりを注ぎ、
ケットミが夜の帳を広げたとき、
その上をそっと滑る影が現れた。
その神の名は――ネブクロム。
彼は袋であり、旅人であった。
自在にかたちを変える身体は、
時に丸く、時に細く、
眠る者の姿に寄り添って変容する。
彼の使命はひとつ。
夢を見る者を連れて、夜のあわいを旅させること。
「夢は、閉じることで開かれる。
そして、旅とは目を閉じたところから始まる。」
ネブクロムの身体は、すべてを包み込む。
寒さ、孤独、不安、
それらをすべて、彼の袋の内に隠すのだ。
ケットミの夜のもと、
ネブクロムは眠る者をそっとくるみ、
星の揺らぎに導かれて、まだ名もなき夢の彼方へと滑り出す。
その旅路には始まりも終わりもない。
ただ、無限の眠りと夢の間を、
静かに、そして確かに渡っていく。
フトンヌの胸に眠るすべての神々が見守るなか、
ネブクロムは最初の夜渡りを終え、
静かに、布のひだの奥に姿を潜めた。
そして、夢の通路がひとつ――
確かにこの世界に刻まれたのであった。