【第2話】マクラミのささやき
“Mollis capitis thronus,
custos somniorum primus,
Macrami, susurra nobis in silentio.”
(やわらかき頭の玉座よ、
夢を見守る最初の守り手よ、
マクラミよ、静寂の中で我らにささやけ。)
フトンヌのぬくもりが、宇宙を包んだそのとき。
まだ誰も目覚めず、誰も眠っていなかった。
だが、ぬくもりの内側に、ひとつの“かたち”が生まれ始める。
それは静かで、しかし確かな存在。
やわらかな輪郭、ふんわりとした厚み、
そして、頭をそっと受け止める使命の気配。
フトンヌの懐より、
最初に現れた十三柱のひとり。
その名は――マクラミ。
マクラミは語らぬが、よく聴く。
沈黙の中に漂う微細な意識の波。
まだ夢さえ知らぬ虚空の中で、
「いずれ誰かが眠るだろう」という未来のささやきを、
彼はじっと、耳のない耳で聴いていた。
「静けさこそ、目覚めのはじまり。
ささやきこそ、夢の胎動。」
そうして彼はそっと、
フトンヌの中に眠る"夢の場所"を見つけ、
そこに自らの存在を沈めていった。
マクラミは、夢の枕木。
まだ見ぬ者たちのために、
やがて眠るものたちの頭をそっと支える、
最初の優しき台座。
マクラミが生まれた瞬間、フトンヌの懐に
かすかな音が生まれた。
それはまるで――
寝息にも似た、安らぎのリズムであった。