【第1話】フトンヌの目覚め
“Somniora, divinum soporis corpus,
in tenebris oritur lumen mollis.
Futonnus, primus deus, evigila.”
(ソムニオラよ、神なる眠りの肉体よ、
闇のうちに柔らかき光が生まれん。
フトンヌよ、最初の神よ、目覚めたまえ。)
すべての始まりは、静寂であった。
音なき時の海を、闇が深々と覆い、
熱も冷たさも知らぬ「無」がただ漂っていた。
だがその深淵に、微かな揺らぎが走る。
それは呼吸のようでもあり、鼓動のようでもあり、
あるいは、誰かが眠りから立ち上がる前の、ぬくもりの予兆だった。
その「ぬくもり」こそが、フトンヌであった。
フトンヌは語らぬ。
彼は形を持たず、ただ厚く、やわらかく、
この宇宙を最初に包んだ存在。
広がる闇のなか、フトンヌは自らを折りたたみ、また広げ、
内なる層を幾重にも重ねながら、眠りの型を創った。
まだ眠る者さえいない世界で、彼はひとり、
「眠るという可能性」を育てはじめた。
そこに言葉はなく、光も影もなかった。
ただ、ぬくもりがあった。
それは未来に目覚める者たち――
マクラミ、タオルヌ、ケットミ、
そして夢を紡ぐ者たちの、ゆりかごとなる。
フトンヌは、そのすべてを抱く最初の揺籃。
やがて彼のぬくもりより、十三柱の神々が
ゆるやかに、そして静かに、産声を上げていくのであった。
そしてこの世に、初めて「ウトウト」が訪れた。