11 亡霊は浄化魔法でしぶとい油汚れはアルカリ洗剤で落とします‼
それにしてもこのしみ?
なんか動いてね?
いや気のせいかな。
気のせいだよね?
ちょっと目をそらすと…。
「やっぱし、動いてるよね⁉」
「さっきと位置違うよね⁉」
勇者くんもやって来たし、そろそろこの頑固な泥汚れを落とさなきゃいけないと思うのだけれど…。
カーペットについたこのシミ。
問いかけても何も答えないこのシミ。
まあ、シミだから当然…なんだけど。
ただ、なんか知らんけどこのシミ、謎の超絶謎理論で動いている。
最初はくまたんの足跡がこう、なんというか等間隔についてたはずなんだけど。
なんかそもそも、今は初めに見た時と形が違う気がする。
くまたんって当然靴は履かない着ぐるみ形態なわけだけど、当然くまたんが泥まみれの足で歩いたら、当然そこには肉球上のシミが残るわけで…。
人の足のような足跡が残るわけがない。
だけど今は人間が靴で踏んづけたような汚れ。
それこそ事件で犯人が残していく証拠の足跡みたいな。
「これは天使様事件の香りがします。」
急に探偵モードになるリリア。
「うん、そうだね。私もそう思う。」
逆に事件でなくて何だというのか。
どんなファンタジーでも、つけた足跡が変わるなんて聞いたことない。
透明マントを使っても足跡は残るし、足跡を消したいならば足跡ごと消してしまえばいい。
なのに。
「わざわざ。形を変えて、そこに存在している。」
ということはこの汚れに何らかの意味があるってこと?
「そもそもまだ、城内は何も清掃もされていないはずなので。誰の手も加わっていないと思われますね。」
虫眼鏡を取り出し、観察を始めるリリア。
「なのでこの汚れ自体が何らかの意思を持って形を変えているとしか思えません。」
「それに、なんかこの汚れ、妙に立体的?」
なんというか厚みがある。
しかもよく見れば動いてるし。
これは魔力でも使って動いてるのだろうか。
でも、そんなことができる生き物は存在しない。
「ってことは魔物?ってことだよね。」
とりあえず、廊下の奥まで続く足跡に目をやる私たち。
「もしこの足跡に何らか意味があるとすれば…。」
「とりあえず、たどってみる?」
フェーナがぶっ刺さり、壁に空けた穴を通り過ぎ。
リリアの仕掛けた檻の跡地を通り過ぎる。
「我ながら、ちょっとやりすぎました。」
若干の反省もはさみつつ…。
「となるともうこの先にあるのは。」
「大浴場だけですね。」
そうあのお風呂いやいや気のくまたん無理やり強制入浴させて、きれいさっぱりした大浴場だけ。
まあ、そこへ運んだわけだし、汚れていても違和感ないわけだけど。
「いや、天使様、我々は、しろくまをあの檻の位置から、確か引きずって大浴場まで連れてきました。なので、そもそも、足跡などついているわけがないのです。」
「それもそうだね。」
大浴場のドアの下に続く足跡。
「ここに犯人が…。」
その中にはいったい何があり、この足跡をつけたものは何者でいったい何が目的で、何を成し遂げたかったのか。
緊張する空気。
疑問はたくさんある。相手は何者なのか。
それとも魔物なのか。
もしくはホラー映画でよくある亡霊の類なのか。
ギイっ。
慎重に扉を開ける私たち。
ぼっと魔法で自動的に脱衣所に灯る光。
そこにずらりと並ぶ洗面台。
石づくりの床。
折りたたまれたタオル。
特に違和感は見受けられない。
「不審なところは見たところなさそうね。」
「となると、ここではないのでしょうか?」
「一応大浴場もみてみる?」
脱衣所から続く扉を開けチェックする私。
かぽーん。
湯船から立ち上がる湯。
円形の列柱。
ライオンみたいなやつからでるお湯。
お湯が浴槽に注ぐ音だけが浴場内に響く、誰もいない空間。
まぁ、今、昼間だし。
誰もいないよね。それ以外の不審な点も当然ない。
水も真っ黒に染まっているわけでもないし。
あの例の足跡がそこかしこにあるわけでもない。
というかむしろ見当たらない。
廊下にはあんなにあったにもかかわらずに。
まあ。お湯やシャワーで流れた可能性ももちろんあるわけだけど…。
その痕跡すらない。
排水溝だって見たけれどとてもきれいなご様子。
汚れてるって感じはしない。
「誰もいませんね、何なら、あの黒い足跡もありませんね。」
「ってことはここじゃないってことなのかな。」
痕跡もなにも見当たらないということはそういうことなのだろう。
あるいは足跡はミスリードで…。
実際、犯人は素足で足跡はあとから手に持った靴でわざわざ汚れをつけたとか?
そういえば…。
あの時ってくまたんをフェーナがお湯の中に着ぐるみごとぶっこんで、そのあと着ぐるみと本体分けて洗ったんだよね…。
本体はあの後キレイキレイなったわけだけど…。
「くまたんの本体じゃない方ってどうしたんだっけ。」
もとはと言えばあの泥跡はくまたんが残した泥の汚れ。
本人?は浴場できれいさっぱりしたわけだけど…。
その汚れがついているのはむしろ、本体ではなく、その着ぐるみの方。
「あ、それなら。隣のランドリールームの全魔法ドラム式洗濯機で洗った後。中庭でメイドが天日干しにかけました。」




