7 悲報そのいち…魔王軍浄化される
「ああっ。」
「声が出てる…声が出てるぞ…。」
「やっとワインが飲めるぜ。」
いやあのどちら様ですか?
魔王城の片隅にいるとても豪華な鎧をまとった騎士団。
そんな人たちいたっけ?剣を構えておおっとかなんとか。
「手があるぞ。首も取れてない。」
しまいにはワインを持ってきて飲み出す一行。
「骨の間からこぼれない‼」
「なんて日だ。」
「ああ大天使様…。ありがとうございます。」
こちらの方を見て祈りを捧げ出す始末。
大天使、いや、ますます誰だよっ。
ああ、そうか私の後ろにいるのだな。その大天使とやらは。私賢い。
後ろを振り向く、私。
「ん?」
「いや…誰もいないぞ?」
私の後ろはいや誰もいない。
そう、ただ真っ白な城壁があるだけ。
「アレ、でも城壁って真っ白だっけ?」
よくみれば、いかつい変な像もないし、それどころか綺麗な青い垂れ幕が垂れている。
城もゴツゴツした感じのいかにもな感じからお姫様のいそうな赤い屋根の城に変わっている…。
絶対こんなんじゃなかったよね。
そして芝生に横たわっているくまたん。
こちらは真っ白になっている。
「あっ大天使様、こちらを。」
先ほどの騎士団の中から隊長っぽい女の人。
「申し遅れました。聖アルデバラン騎士団隊長リリアと申します。」
ビシッと敬礼する女騎士さん。
そして、胸元から手鏡を取り出す。
「こちらを…。」
鏡に映るのは「いや、誰?」
☆☆☆
「いや、誰ですか?この美少女は?」
いや、間違いなく私なんだけど…。キャリアウーマンのころの私でも、魔王の私でもない。
白い真っ白な髪に両翼の真っ白な翼。サファイアみたいに真っ青な瞳に見るモノを浄化する真っ白なドレス。
角はなく、代わりにオリーブの輪っか。
なうほど…どうみても、天使様。
「ああ…。やっぱりかくまっ。」
隣で聞こえるいつもゆるふわ系の声。
真っ白の体をさすりながら起き上がる。
「まさか、得意魔法が浄化のまおー様なんて聞いたことないくまよ?」
徐々に茶色くなっていくくまたん。でも元の真っ暗な色には戻らない。
「ちょっと燃え尽きてただけくま。」
はぁとか言いながら起き上がるくまたん。
「でっ、そっちは…。まさか、スケルトンくま?」
「元ですよ元。そんな名前で呼ばないでください。私にはリリアって名前があるんですっ。」
むすっとそっぽを向いたリリアにべしっ、とフライパンで叩かれるくまたん。
どっから出した?
「あ、私こう見えて、お料理得意なんです。」
いや、そうじゃなくて…。
「というかえっ?」
「スケルトン?」
いや面影ないじゃん?
「まあ生前の姿ですから。」
胸を張るリリア。
どうみても、赤髪のポニーテールの騎士様でスケルトンだったようには見えない。
「えっへん。」
「たぶん、千年ぐらい前のココが魔王の国になる前の王国時代の騎士くま。つまり1000歳プラスαくまねー。」
ばちんm、再びたたかれるくまたん。
「しろくま、次言ったら、燃やしますよ。」
笑顔で言うリリア。いや顔怖いよ。
「天使様、こんなぺちゃぱいは放っておいて、魔法の練習の続きをしましょう。」
がっーこん。今度はくまたんから繰り出される連続攻撃。
通称おうふくビンタ。
が、それをフライパンで受け流すリリア。
「ふっ。まだまだですねっ。」
ガコン。だがしかし、そのフライパンを肉球で押し返すくまたん。
二人の戦力は互角。
「ふふっ、四天王の座を私に譲ってくれてもいいんですよ?しろくま。」
「ふふん、負けるのはお前のほうくまっ。」
ガキン。ガキン。
「はあっ。」
「ぬおおおっ。」
いや、くまたんどっから声出してるの?
「ね、あれどうにかならない。」
その辺にいたたぶん、元スケルトンの騎士に尋ねる私。
「いや、前々から仲が悪かったのは知っているのですが。なにぶん、我々、口がありませんでしたので。まさかここまでとは…。」
「そうだよね。口、なかったもんね。」
「この、ぺちゃぱい‼覚悟☆ミ」
「ホラーマンがごたごたうるさいくまねっ?くまたんの必殺技をみるくま。」
「くまくまくまくまくま…くまパーンチ。」
炎をまとい始めるくまたんの肉球。あれ?くまたん戦闘力皆無とかいってなかったけ?なんか強くなっちゃってる系?ていうかそれ撃っちゃいけなさそーなやつだよね?そうだよね?
「ちょっとそこまーで。」
間に入る私。
「ちょっとくまたんそれ、撃っちゃアカンやつだよね?」
「ちょっと城壁に穴が開くくらいくまね。」
「いや、城壁、ふきとばしてるじゃん。それ…。」
「威力を弱めれば、火起こしもできるくま。ファイアスタータ―なんかいらないくま。」
「いや、便利だな。おい。」
リリアからの壮絶なつっこみ。というかめちゃくちゃシュール。
「お前に言われてもうれしくないくま…。」
「って、そうじゃなくて、ケンカは良くないし。」
なにより、勇者が近くまできてるし…。
「そうだ、いっそのこと四天王じゃなくて、五大明王とかにすればいいのでは?」
「いや、まおー様それはないくま。」
手をフリフリするくまたん。
「いや、天使様、それはあんまりだ。ちょっとださいぞ。」
そしてこちらも手をフリフリするリリア。
仲が悪いんだか、いいんだか?
もっと、かっこいい、かわいい名前がいいと後から注文をつけられる私なのだった。
☆☆☆
「そういえば、まおーさまも見た目かわってるくまね。なにになったくま?」
「うーんとね。」
魔王ではないよな?
天使とかかな?
そうだこういうときは…。
ステータスオープン。
職業 アークエンジェル(元魔王)
ぴろぴろりん。種族が変わりました。
レベル1→レベル99
HP 250→500
MP 3500→7000×20
特技 浄化・治癒
使用可能魔法 「カタルシス」
特殊効果 女神様の突然の思い付き(お詫び)によりMP×20
まさかのアークエンジェル。
「そういえばくまたんは?種族何になったの?」
「くまたんくま?」
「ああ、しろくまなら…ずばり、そのまましろくまですよ?ね、しろくまっ?」
「くっまー。」
怒り出すくまたん。
「あ、ちなみに前の種族はあっくまです。」
何そのギャグみたいな名前…。
くまたんに追い回されながらついでとばかりに火に油をそそいでいくリリア。
「もう怒ったくま…。」
「くまくまくまくまぱーんち。」
炎をまとうくまたんの肉球。
「あっ…。」
そして厨房に大きく開く穴。
「今日のランチはビーフシチューくま。」
☆☆☆
「どうすんのよこれ…。」
崩壊した壁をみて、あきれ顔の私。
後日、「まおーさまゆるしてくまー。」と執務室に飛び込むくまたんであった。