5 魔王様、ご挨拶の時間くまっ
天蓋付きのベッドで寝る私の敵…。
それは騒音。
朝からがうがう、キャンキャン、ガオオオッ、だのたいへんうるさ…。
「うるさーい!」
「わうわうわうー。」
「ぐげっ。」
しっぽをフリフリしたケロくんに踏まれる私の体。
「まおーさま、おきるくまっ。あさくまよ。」
今日も騒がしい非日常が始まる予感です。
☆☆☆
「それはそうと、まおーさまっ。そろそろ、部下たちに挨拶してくれないと困るくま。」
寝間着から着替える私にそう切り出すくまたん。
「あんまり見ないから魔王様は引きこもりだとか、洗濯もしないとか…。毎日遊んでるとかいろいろ言われちゃってくまたん、たいへんくまっ。」
いや、部下たち好き放題すぎんかそれ?
「とりあえず、くまたんも一緒に頷いてきたくまっ。」
火に油注いでんじゃん…。というか注ぐなよ…。
「と言うわけで魔王様、まずは挨拶からはじめようの時間くまっ。」
「まず、四天王の紹介くまっ。」
「まずはそこのケルベロスのケロくん。」
「ワン。」
「あとはラウー。」
ズぽっ。洗面所から大きな音。
飛び出る水しぶき、膨らむパイプ。
「アルラウネのラウネくまっ。」
洗面台を思いっきりぶっ壊し、生える大きな球根。
の上に生える小さな人影。
「生えるとこ間違えちゃったネ。こんにちネ?」
えっ、いや、もしかしてしゃべるタイプ?
しかも中華系のキャラの謎のしゃべり方。
みどりの髪をシニヨンでまとめて、チャイナ服、その下は球根と葉っぱとツタ。
キャラが大渋滞。
「上が本体で、下が分体くまっ。」
「よろしくネ。」
差し出されるみだりのツタ。
「手が届かないからこっちで握手ネ。」
「これからよろしくネ。」
「ちなみに口はこっちくまっ。」
下の本体へ大層大きなお肉を投げるくまたん。それ何の肉?
大きく開く球根部分。中にはギザギザの歯。
ごきゅっと骨を砕く音。そして盛大にゲップ。
「げっぷ。うまいネ。」
あっコレ、アカンやつや…。
よしっ。触るな危険だね。
「食べ物の違いぐらいわかるネ。」
「ごきゅ。」
球根部分に食べられる、モフモフの毛並み。
「ケロくんーー‼」
「それは食べちゃダメくまっ。ぺっぺくまっ。」
「間違えちゃったネ。」
どろどろのヨダレとともに吐き出されるわんこ。
「くーん。」
「べちょべちょくまね…。」
タオルでふきふきするくまたん。
ぶるぶるするケロくん。
「あとで一緒にお風呂入るくまっ。」
☆☆☆
「そして。くまたんが最後の四天王くまっ。わかったくまっ?」
???
「えっちょっと待って。」
ケルベロスなのに三つ首じゃないケロくん。アルラウネで水道管を伝って移動するチャイナ娘ラウネ。どっからどーみても着ぐるみのくまたん。で、三人。
四天王って言ったら、やつは四天王の仲でも最弱…ってやつだよね?
ってことは4人いるはず…つまり、あと他に一人いるはずだよね。
「あと、一人は?どうしたの?」
「勇者にやられちゃったくま…。」
真顔、いや、着ぐるみだからよくわかんないけど、とにかくそんな感じのニュアンスとテンションでいうくまたん。
えっ、何、もしかして、勇者様とかいる系?の世界なの。
「勇者にやられちゃったくま。」
「いやなぜに二回言ったし?」
「大事なことだから二回言ったくまっ。」
でも、ほら、よくあるじゃん。
実はそれは大昔の話で、実はもう引退しててみたいなの。悠々自適ライフ送ってる系では?
「勇者なら、まだ、現役くまよ?」
私の心を見透かしたようにそういうくまたん。
「それに勇者ならきのう、見たくまっ。」
「きのう??」
「城の前の草原にいたくまよ。きのう城壁から見えたくま。焼きマシュマロおいしそーだったくま。『よしっ、明日はいよいよ魔王城だ。いよいよ長い旅も終わりだ。必ずパーティ全員、生還しよう。おお。ええ。まかせて。』とかいってたくま。」
えっ、それってあれじゃん。
最後にみんなで集まって、勇者が最後に魔王を倒してハッピーエンドパターンのやつじゃん。
私の平穏な生活はどこへ?というか魔王な時点でアウチなんだけど…。
しかも、城の前って?
それってアレじゃん。
ラスボス戦の前の休憩的なやつじゃん?
私、めっちゃ危なくない?
というか防衛的にアウトなのでは。
「え?それ大丈夫なの?」
「えっ?魔王様が魔法でなんとかしてくれるんじゃないくまっ?」
しばし流れる沈黙。
「…。」
一瞬、停止する思考回路。
「えっ?」
「くまたん、戦闘力皆無くまよっ?」
「前の魔王様は口から破壊光線出してなんとかしてくれたくまっ。」
「えっそれなに?それどこの怪獣映画?」
「前の魔王様、ドラゴンだったくまっ。」
「どらご…ん。」
まっ、いるよね、ケルベロスやアルラウネいるくらいだし…。
「だから、まおーさまにも口から破壊光線出してなんとかしてほしいくま。」
「いや、できるか‼」
私ドラゴンでもないどころか、元人間なんですが…。
☆☆☆
「まおーさまはどんなまほーが得意くま?」
そんな風に聞かれる私?
そーいえば、女神様にそんなようなモノをもらった気がする…。
「私にもできるのかな?破壊光線。」
「さすがにそれは無理だとおもうくまよ?」
じゃあ、なぜに言ったし…。