20 異世界でびるフィッシング
川をひたすら下っていく私たち。
あれから一晩たち、死の谷から出て、川幅もかなり広くなってきた。
下流に近づいてきたってことなのかな。
両脇の景色も崖から、岩へ。
そこからかいくつか川が合流して、見渡す限り水。
とてつもなく広い。
前世でいうアマゾン川みたいなものなのかな。
こんだけ広いと異世界だし、凶悪な生物ぐらい潜んでそうけど…。
どうなんだろう?
「なんかおいしい魚つれんくまかなー。」
そういってエサをつけ、ぽちゃんと釣り針を投げ入れるくまたん。
「魚とかいるのでしょうか。」
穏やかな川の流れを見つめ、そうつぶやくリリア。
「天使様が浄化魔法を放つまでは毒の河川…。とても生き物が棲んでるようには見えませんけど。」
「でもほら、魚棲んでなくても、磁石で釣るやつあるじゃん?」
「いやいや、天使様、しろくまは食いもんにしか興味ありませんから…。でも、エサとか何つけてるんでしょうね?」
「確かに、エサも見方によっては食べ物だし…。くまたんならそのまま餌食べそう。」
私の脳内で繰り広げられる鮭をご満悦で咥えたくまたんの図。
「くま?」
あっ鮭落とした。
♢
「そもそもこの辺にエサになるものあった?」
「一昨日のドラゴンのしっぽ焼の残りとか…ですかね?」
「いや、あれ。気に入って完食してたよ?なんなら私たちの取り皿、リリアの見てないところでベロでなめまわしてた。」
こっそり告げ口する私。
「しろくまー。許すまじですね。あとでお仕置きです。」
新たにこぶしを握り締めたリリアなのでした。
「で、くまたん。釣れそう?」
水面をじっと見つめ、魚影を探しているくまの着ぐるみにそう尋ねる。
「今日はしけてるくま…。」
絶不調みたい。
「くまたん、ちなみに、エサはなに使ってるの?」
「エサくま?」
首をかしげる着ぐるみ。
「これくま。」
餌箱のカンカンから一つそれをつまんで見せる。
「そのカンカンはどこで?」
「さっき釣れたくま。」
うん、現地調達。
そしてくまたんが詰まんでその着ぐるみの手に乗せたもの。
なんですかそれ。
「うーん。それなに?なんかソレ、モザイク入ってない?あとたまになんか動いてるし…。」
ところどころモザイクの入ったものがうにゃうにゃと動いている。
「なんかきもい奴なのはわかるけど。」
ムシ?
なんかたまに変な汁飛ばしてうんすごくキモイ。
そんなもんどこで?
「冒険初日に自重で押しつぶれたワームだったものくま?」
「…。」
「しろくま。アレ持ってきたんですか?」
「そうくま。マジックバックに入れて持ってきたから鮮度抜群くま。」
まさかのアレかい。確かにエサにはもってこいかもしれないけど…。ていうか、いつのまに回収してたの?
「というかくまたんのマジックバックに食料入れてなかったよね?大丈夫?」
「天使様、食料は全部私が管理してますのでご安心を。」
「くまたんが持ち歩いてるのはおもちゃだけくま。」
え?それはそれでどうなの?
「でも、おかしいくま。こんだけ、生きが良ければ絶対釣れるくまなのに?ほら、まおーさま、みるくま。まだうごいてるくま。」
着ぐるみの手に乗せて、ワームの一部だったものがびゅくびゅくうごくさまを私に見せる。
いや、きもい。そして、なんかまた、変な緑の汁出てる。その着ぐるみちゃんと洗えよ。
リリアと顔を見合わせ、頷く私。
手洗い、うがい、全身洗い。
冒険が終わったら着ぐるみ強制洗濯決定である。
「なんで釣れないくまね?」
たまにピュッと緑色の液体を出したり、ぴょこっと動くそれを器用につまみながら、首をかしげるくまたん。そしてモザイクも一緒に動くからなおさら、すごい絵づらに。
「くまっ?」
突如、ぴくッと動く釣り竿、のびていくリール。
「なんか、かかったくまっ‼」
おおはしゃぎし、真剣な表情で釣り竿に向かうくまたん。
「さてはサーモンくまね…。」
やっぱ、鮭なのね。
「今晩の晩御飯の足しにしてやるくま―。」
ぴくッと沈む浮き。
「くままままっままああまままあまあままあ。引いてるくま。大物がかかったくま。くままああああああ。」
すごい勢いで竿を引くくまたん。
「大物?」
私たちはいやそんなわけないじゃんといった表情でくまたんを見つめる。
だってこの川さっきまで汚れてたし…。そもそも、生き物いるの生きれるの?状態だったし…。
「くままあああぁああああああああああああああぁあああ。」
だけどその認識はすぐに改められることになった。
大きな魚影が川底に見えたから。
「くうううううううっままままあっま。引き込まれるくまああああぁあぁあ。まおーさまひっぱってくまぁぁぁっぁぁぁl…。」
釣り竿に体を持ってかれそうになっているくまたん。
「わかった。」
リリアと二人でくまたんの釣り竿を持って引っ張る。
だってこのままじゃ筏が転覆しかけない。
そのぐらい強い力で引っ張られている…。必死に釣竿を抑える私たち。
「にしても、何を引っ掛けてんですかね…。」
「鮫とかじゃないといいんだけど…。」
異世界特有の巨大化したサメのモンスターですとか言われても困る。
「クラーケンですかね?」
「それ?川にいるの?」
「たまに。」
異世界すげぇな。
「力合わせて引っ張るよ。」
「せーのっ。」
「くままままぁぁぁああっままままままあああぁっぁぁぁぁl。」
くまたんお盛大な雄たけび。
ばしゃん。水面を打つ、大きな水しぶき。
獲物が逃げようと、水面で暴れる。
筏の下に入り込もうとしたり、激しく動いてみたり。
「しっかり押さえるくまっー。」
波しぶきで揺れる筏。
一体何を吊り上げようとしているのだろう。
まさか本当にクラーケン?
そして私たちは勝った。
ひときわ大きな水しぶきとともに…。
「くまままままあああああぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっぁぁまままあああああああっぁぁl。」
くまたんの渾身の一撃によって獲物はついに筏の上にその身を上げるのだった。




