11 星の天文台
聖アルデバラン王国からさらに北、永久凍土に覆われた万年雪に包まれた大地、北の荒れ地。
ここは大陸で最も北に位置し、魔族領とも人間界とも距離を置く中立国、エリス伯爵領。
誰も近づかない、太古の昔の戦場、北の荒れ地。その中で最も高い古の火山の頂点に作られた街。
「ふむ、東の魔族領が騒がしいようですね。」
大きな望遠鏡が設置されたドーム状の塔の最上階。青いフードを目深にかぶったエルフが遠くの光を見つめながらそうつぶやく。
「エリス伯爵ご報告です。」
「入りなさい。なんですか?」
「どうやら、大陸の中心旧アルデバラン王国跡地を占領していた魔王軍が敗れ去ったとのこと。」
「遂に成し遂げたのですね。」
そういってフードは外すエリス。
黄色のところどころ雪のついたみつあみをが揺れ興味深そうに外の雪の降りしきる大地を見つめる。
「今代の勇者がついにやりましたか。どんな褒章を与えましょうか。わが一族の悲願を達成したのだから、それなりの褒美は必要ですよね。どうしましょうか?あなたなら何を望みますか?世界を見渡す望遠鏡、それとも別の世界へと渡ることのできると言われている手形の一部?それとも…。」
「恐れながら、申し上げますが、どうやら勇者は魔王を打倒したわけではなく、すでにいなかったと聖王国に報告しているそうなのです。」
「まぁ。それは不思議ですね。魔王とて寿命は永遠ではないと聞きますし…。」
首をかしげるエリス。
「でもまぁ、どちらにせよ、魔族がいなくなったのであれば、勇者に褒美をとらせなくては…。」
「伯爵大変です‼」
「なんですか、この喜ばしい時に。」
「外を…。」
「?」
この星見の塔からは北の荒れ地全体を見渡せる。
双眼鏡を渡す研究者。
そこには空から光の粒子が降り注ぎ、凍った大地を少しずつ溶かしていた。
「なんということでしょう。太古の昔に掛けられた魔法が溶けようとしていますわ。」
「今代の勇者はずいぶんと優秀なようですね。エレクトラを派遣した甲斐があったというもの。エレクトラにも褒美をとらせねばなりませんね。」
そういうとエリスは研究者ににこやかにそうほほ笑んだ。
☆☆☆
雪の降りしきる街。
「ちょ、なにこれ、あったかい?雪しか降らないこの国の氷が解けて?大地が見えるわ。これ、土ってやつよね?」
雪の下に見え隠れする黒い土をつまみそうつぶやく青いケープをかぶった少女。
ずっと凍り付き時を止めていた時計が動き出し…。音色を奏でる。
「止まっていた時計塔は動き出すし、えっ何、何、何が起こってるのよ。この国で…。」
「お嬢様そろそろ…。」
白馬の馬車の御者が声をかける。
「わかってるわよ。数日後には聖アストリア王国での茶会でしょ。あーっ、エレクトラは元気にやっているのかしらね?」
ヒヒーん、馬のいななく声。流れていく景色。
空からはきらきらとした光の粒子。
「まるで…、女神様の魔法みたい…。」
雪が解け、馬車の轍がくっきりと残る。
雪解けの始まりだった。




