2 えっ?聞いてませんけど?
バサバサバサッ。たくさんのナニカノ羽音。
なんだか…やけに騒がしい。
「ま○うfsれw…。ま!」
誰かが…。誰かを呼ぶ声。
そしてぐわんぐわん揺れる私の脳内回路。
というか、私、めちゃめちゃ揺さぶられてる?
「まーーーさま、まーーさーーま。」
綴じた瞼をを開ければ…そこは、またもや知らない天井。
しかも、今度は真っ白じゃなくて真っ黒。なんだろう、さっきの女神様の部屋とは真逆の真っ暗で廃退的な空間。
鉄格子の窓に、赤い月。天蓋付きの血の染みたような真っ赤なベッド。
「まおーさまっ。まおーさまっ。まおーさまっ。」
と、私?を呼ぶ女の子の声。
ぼやけた、視界が徐々にはっきりとしていく。ただ視界に入るのは、女の子ではなく、頭から真っ赤な角をはやした真っ黒な熊の着ぐるみだけ。
「まさか、このぬいぐるみじゃないよね。」
なんだかクマっぽい。耳を触る私。
「ふぇえ?」
「え?」
「よかったくまっ。目がさめたくまっ。」
「くまっ?」
目が覚めた私を待っていたのは全身真っ黒の着ぐるみのクマ。しかも、しゃべるタイプ。で、美少女ボイス。語尾にはクマ。いや、属性、てんこ盛り過ぎない?
よく見れば、口には鋭い歯。吸い込まれそうな目。真っ黒な体と頭についてる耳と角。
いやっ、一体どこからそんなかわいい声を?
「まおーさま?まおーさま?きぐるみがしゃべるのはおかしいくまっ?」
くぴっと首をかしげるくまたん(仮)。
「いや。かわいいなお前。」
まっ、ゆるキャラにはいそうな見た目だよね。歯は鋭いけど。
まあ、今どきこういうのもありなのかな、中の人もいないし(いないよね?)そういうことにしておこう。
わしゃ、わしゃ、毛並みを撫でてやる私。
「うー。よしーよしー。」
「ううっ、まおーさま。くすぐったいくまっ。」
って、まおーさま?
まおーってあれだよね。勇者じゃない方の。
よく異世界物で出てくる方の。アレ。
「ね?くまたん。さっきから私のことまおーさまって呼んでるけど…。」
「くまたん!それが新しいなまえくまっ?」
別の単語に反応するくまたん。ほっぺたに手を当て、お尻をふり、ふり、ふりふりふり。
「いや、かわいいなお前。」
「前のまおーさまのなまえもよかったけどこっちもいいくまー。」
「ちなみに前のなまえは?」
「あっくま、くまっ。」
あっくま→あっ、くま→あっ、クマ→悪魔。
私の頭の中で展開される、くだらん親父ギャグ。なんて安直な…。
こんなかわいい子にそんな名前つけるなんてどうかしてるわ。こんなにモフモフなのに…。
よし、今度、見つけたら問い詰めよう!
今後のToDoに追加、追加っと。
「まおーさまっ。難しい顔してどうしたくまっ?」
あっそうだ。くまたんが可愛すぎて忘れてたけど。
今思いっきり話をそらされたのだ。
面白すぎて吹っ飛んでたけど…。
待ってろ、先代のなんちゃら。
「ところで、そのまおーさまっていうのは…。」
360度ぐらいずれていた話題を元のレールへと軌道修正する私。
社会人として長年、わけのわからんものと殴り合ってきた私にはこれくらい余裕なのだ。えっへん。
「あっ、まおーさま気づいてないくまっ?」
といって、どこからかおおっきな姿見をとりだすくまたん。
「いや、いま、どっから出した‼」
いや、気のせいだよね?だってそれは青だぬき様の専売特許。
いやまさかね…。
「これをみるくまっ。」
そういってこちらへ鏡を見せてくるくまくま。
あっ、間違えたくまたん。
「ってこれが私?」
「いや、わたしってすっごく、美人。知ってた。」
「いや、自分でいうなよ、くま。」
白い真っ白な髪に片翼の真っ黒な翼。ルビーみたいに真っ赤な瞳に見るモノを惑わす漆黒のドレス。
ふふっ。鏡の中の虚像が不敵に笑う。まさに傾国の美女的なアレである。
あっ、つまりはあれね?
悪役令嬢的なやつね?
「王子を呼んできなさい?」
「いやなにいってるくま?ここは魔王城。城主はだいだい、女性くまよ?そもそも、この国に王子なんかいないくまっ。あっ、オークとかゴブリンの王子なら知り合いにいるくまよ。オークプリンスとゴブリンプリンス。まおーさまっ、そういう口もいけるタイプだったくま?」
「コレ連絡先くまっ。」
と、またもや、お腹をもぞもぞさせるくまたん。何枚かの写真を取り出す。
「あっ、ごめん無理だわっ。」
写真(モザイク入り)をみてそっこー返す私。
冠をつけたでっぷり太ったオークに冠をつけたミイラのように干からびたゴブリン。
裏には愛してます♡結婚しましょうの文字。
せめて、人間タイプであってほしい…。
「あっそうくまよね。くまたんもいらないくまっ。」
びりびりに八つ裂きにされ、ぽいっとその辺のゴミ箱に捨てられるオークたち。
「やっぱり種族の壁は超えられないくま…?」