◆5◆
ひと仕事を終え休んでいると魔王の遣いだと言い放った黒猫と俺は出会う。
そいつの指南で雑草からスキル玉【回復(微)】を生み出した俺はなぜかクレアに腕を引かれていた。
なんでもスキル玉を生み出すのは大変珍しいようで、そのことを知ったクレアはなかなかにあくどい、いやとてもいい笑顔を浮かべて俺を引っ張っていく。
一体どうしてそんな素敵な笑顔を見せてくれるのだろうか。
確か商売になるとか言っていたが……
そんなこんなと考えつつ店の中へ連れてこられた俺は、せっせと品出し作業をしていたエレナと一緒にこんな話を切り出された。
「大儲けするぞ!」
訂正、何の前触れもなくとんでもないことを言われて俺達は混乱した。
「クレアさん、申し訳ありませんが順序立てて説明してくれませんか?」
「おっと、アタシとしたことが! 未来の大金に目がくらんでしまったぜ」
「その未来の大金を掴むために俺達にしっかりとした説明をしてくれ。じゃないとどうして大儲けの話が出たのか全くわからないんだが?」
俺とエレナの指摘もあり、気を取り直してクレアは一度咳払いをして説明を始めた。
「まず、シンの右手。それとても有用なものだってわかった」
「有用、ですか? 危険ですから封印しているものなんですが」
「普通に生活する分には厄介極まりないかもね。でも、その右手の呪いを利用すれば簡単にスキル玉が作れちゃうんでしょ? なら利用するのが一番だよ」
「そう言われてもなぁ。大体どういう風に利用するんだ?」
「二人共、武器のスキルはどうやってつくか知っている?」
クレアの唐突な問いかけ。
俺は当然のように首を横に振り、エレナも続くようにわからないと返答した。
まあ、俺達は冒険者だが武器作製については素人みたいなものだ。
知っているほうがおかしい。
「にししっ。答えは簡単だよ。武器のスキルはスキル玉をつけることによって備わるんだ」
「そうなんですか?」
「一般的にはね。極稀に一から作ってスキル玉なしにスキルをつけちゃう凄腕もいるけど、それは一握りの天才しかいないかな」
「へぇー、そうなんだ」
なんでもその場合、とんでもないスキルが備わることが多いそうだ。
いわゆる伝説級の武器に相当するどかどうとか。
元々冒険者として活動していたから、そういう武器に出会ってみたいものだ。
「それで、武器のスキルにはスキル玉が必要だってことはわかったがお前は俺に何をさせるつもりだ?」
「考えている商売は二つ。一つは右手の呪いを利用してスキル玉を安定供給させて商売すること。実はスキル玉って滅多に手に入らない代物なんだ。そうだね、鍛冶屋なら喉から手が出るほど欲しいって言っておけばいいかな」
なるほど、滅多に手に入らないからスキル玉自体を売買する業者はいないってことか。
それなら呪いを利用してスキル玉を生み出せる俺なら競争相手がいなくて一人勝ちできるって話なんだな。
「どのくらいの範囲で利用できるかわからないけど、それ次第じゃ大儲けも夢じゃないってこと。だから悪い話じゃないと思うよ」
「そうだな、確かに悪い話じゃない」
もしモンスターにも利用できるならとんでもないことになるだろう。
クレアの言う通り、大儲けができそうだ。
ただ、それを踏まえたうえでもう一つの案が気になる。
「もう一つの考えている商売ってのはなんだ?」
「気になる? 気になるよね? あ、でもこれは結構コストもかかるし大変だと思うけど聞きたい?」
「もったいぶらないで教えろ」
「にししっ、じゃあもう一つの商売についていうね――それはシンがオーダーメイドで武器を作っちゃうってものだよ」
オーダーメイドで、武器を作る?
この俺がぁっ?
「あー、なるほど。それはすごいことになりそうですね」
クレアの発言を聞き、何かを察したエレナがとても納得した様子を見せる。
なぜ納得しているのかツッコミたいが、まずはクレアにいろいろ説明してもらおう。
「あのな、俺は元冒険者だぞ。武器は使いはしたが作ったことがない」
「一から作れなんて言わないよ。そうだね、スロットの話を覚えてる?」
「ああ。スキルを与えるには必要なんだろ」
「シンの商売はそれを利用するんだよ」
あー、なるほど。そういうことか。
俺は何となくクレアが言おうとしていることに気づいた。
素人の俺が鍛冶屋のマネなんてしても一から武器を作るなんて無理な話だ。
だが、スキル玉とスロットを利用すれば一般的な剣でも世界で唯一無二の武器に仕上げることができる。
つまり――
「なるほど、呪いでスキル玉を生み出せるからこそ依頼者の望みに沿った武器を生み出せるってことか」
「ご名答! その通りだよ」
依頼者が望む通りのスキルを組み合わせ、提供することができる。
もし強い武器が必要であれば、その分コストがかかるってことか。
それは確かに大変だ。
だが、オーダーメイド制にするならそのぐらい必要なことだろう。
何より、結構やりがいがあって楽しそうだ。
「結構いいこと考えつくじゃないか」
「にししっ。よくエレナから言われるよ。それで、どっちをやる?」
「俺的にはオーダーメイド制がやりたいな。だけどコストのことも考えるなら、二つともってところかな」
「よしよし、じゃあそういう方向性で進めるよ。エレナ、何か意見や異議はある?」
「いえ。もし何かいうならやってからになりますよ」
「よぉ〜し、じゃあアタシはアタシで準備を始めるよ。そうだね、シンはその右手について理解度を深めておいて」
ひゃっほ〜い、と非常に楽しそうな声を上げてクレアが飛び跳ねていく。
よっぽどこの商売を有望視しているんだな。
「行っちゃいましたね」
「そうだな」
「あの、これからどうします?」
「どうするも何も、あいつの言う通りにやるしかないだろ」
右手の理解度を深めるか。
今のところ、モンスターとかに使ったことがないからな。
それにどれほどこの呪いが強力なのかも確認しておきたい。
「右手を試してみるか」
こうして俺は新たな商売を始めるためにも右手の呪いの確認を始める。
まさか冒険者を引退したにも関わらず、また同じような活動を始めることになるとは。
そう思いつつも心を躍らせながら装備を整え、町の外へ出たのだった。