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◆2◆

 目が覚めた俺が最初に見たのは、安心したように笑うエレナの顔。

 すごく泣いていたのか、顔がグチャグチャだ。


「よぉ、エレナ。俺は、生きてるのか?」

「はい。しっかりと生きてます」


 生きている。

 身体の節々が痛いが生きている。

 魔王に殺されかけたのに、俺は生きている。


 なんで生きているんだろうか。

 トドメを刺されてもおかしくなかったってのに。


 あの時、俺は魔王にやられ、右腕を斬り飛ばされて――


 そういえば俺の右腕はどうなったんだ?

 確か、魔王が俺の右腕に何かをしてたはず……


 俺は思い出したかのように右手を見ると、そこにはちゃんと右手があった。

 だが、それは俺が知っている右手ではない。


 美しい青と緑の宝石があしらわれている篭手がはめられていて少しわかりにくくなっているがこの右手は真っ黒だ。


 まるで禍々しい闇に飲み込まれ、深淵よりも深い黒に支配されたような右手だった。


「なっ!」


 これはなんだ、と思わず叫びそうになった。

 パニックを起こしかけた俺を見て、エレナが抱きしめてくれる。

 彼女は「大丈夫、大丈夫です」と告げ、俺が落ち着いたところで右手について教えてくれた。


「この右手は呪われてます」

「呪われてる? え、まさか魔王にやられた影響か?」

「はい。とても強力な呪いです。ですから、迂闊に右手を使わないほうがいいです」

「使うなって。こっちは利き手なんだが」


 俺の言葉を聞いたエレナが右手について詳しく説明しようとした瞬間、部屋の扉が開いた。

 そこにはカインズがおり、俺の顔を見て一瞬だけ安心したような笑顔を見せるがすぐに困ったような表情に変わってしまう。


 なんだか複雑な顔をしている。

 どうしてそんな顔をしたのか。

 その答えをカインズはすぐに教えてくれた。


「シン、生きていてくれて嬉しいよ」

「俺は結構しぶといんでね。それよりアレンは?」

「あいつなら一人でギルドへ行ったよ」

「ギルドへ? なんで?」


「新しいパーティーを作るためだ」


 一瞬、言葉の意味が理解できなかった。

 しかし、その一瞬がすぎて俺はなるほど、そういうことかと納得する。


 魔王討伐でアレンは手柄を立てられなかった。

 それどころか俺の言葉を聞かず、無謀に挑んで簡単に魔王にのされるという情けない姿を見せてしまった。


 情けない姿だった。

 近くで見ていた俺ですらそう感じたんだからな。

 おそらくあいつなりにプライドが傷ついたんだろう。


 そして、俺達はあいつの方針に背いた。

 それはあいつにとって気に入らないことだっただろう。


 だから、俺達は勇者パーティーをクビになった。

 つまり、あいつとの縁はこれでおしまいってやつだ。


「そうか。そりゃよかったよ」

「悔しくないのか?」

「気持ちがない訳じゃないが、スッキリしたよ」


 ま、あいつはあいつで魔王討伐を頑張るんだろう。

 なら縁が切れた俺達はそんなことあまり考えないで、これからどう生きるかってことに頭を使ったほうがいい。


 しかし、どうしたものか。

 右手が呪われてしまったし、冒険者として活動するのは難しいかもしれない。

 そもそもパーティーに入れてくれるのかもわからないな。


 俺が頭を悩ませていると、静かに見守っていたエレナが「あのっ」と声をかけてきた。


「シンさん、その、よろしければ私の手伝いをしてくれませんか?」

「手伝い?」

「はい。実は前々から友達に仕事を手伝って欲しいって言われてて。もしよかったらその手伝いをしてほしくて」


 なんだかわからないが、彼女は頬を赤らめてモジモジしている。

 まあ、悪い話じゃないし手伝ってもいいんだが。


「いいけど、俺の右手って呪われてるんだろ? 仕事の邪魔をしちゃうんじゃないか?」

「だ、大丈夫です。だってその、右手は私が作った【封じの篭手】でどうにかなってますし」

「そうなの?」

「はい、できる限り抑えている形ではありますけど」


 さすがは聖女ってことかな。

 それなら仕事の手伝いもできるだろう。


「それに、その右手の呪いはもしかすると有用かもしれませんし」

「有用? それはどういうことだ?」


 俺の問いかけに彼女はまっすぐに向き合うと、真剣な顔でこう答えた。


「右手にかけられた呪い――それは【触れた存在からスキルを奪い取る】というマイナススキルです」


 それは、とんでもない呪いだった。

 人からは邪険にされてもおかしくないマイナススキルでもある。


 だが、このとんでもない呪いによって俺の運命は変わることになった。


 ここから俺の第二の人生が始まる。

 叶えられなかった夢を追いかけるという新しい人生の始まりだ。

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