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2/6

◆1◆

「何しているんだ! 早くエレナを守れ!」

「やってるよ!」


 想定外のことが起きた。

 魔王討伐のために城へ乗り込んだ俺達は、待ち受けていたモンスターを難なくなぎ倒し進んだ。


 順調に魔王が待つ謁見の間までやってきたのだが、相手はなかなかに狡猾なトラップを仕掛けていた。

 それは後衛殺しと呼ばれる【魔封じの陣】だ。


 踏んだら一日は魔法が使えなくなる極悪トラップであり、攻撃どころか回復魔法も使えなくなるという代物である。


 まさか魔王がそんなトラップを仕掛けているとは思っていなかった俺達は完全に不意を突かれ、一気に劣勢に立たされてしまう。

 しかももう一人の後衛である魔法使いも一緒に魔法を封じられるというオマケつきだ。


 これでは戦いどころの話じゃない。


「撤退するぞ、アレン!」

「何を言ってんだ! ここまで来て尻尾を巻いて逃げろってか?」

「エレナもカインズも魔法が使えないんだ。それとも前衛だけで魔王を倒せるって考えているのか!?」


 俺の言葉にアレンは苦々しく歯を食いしばる。

 こうなった以上、体制を整えてまた戦いに挑んだほうがいい。


 俺はそんな意図を持って進言をするが、アレンはえらく気に入らないようだった。


「ならお前は下がってろ! 俺が魔王をやる!」

「バカ言うな、アレン! 下がれ!」

「俺は勇者だ。俺の辞書に、逃げるなんて言葉はない!」


 アレンが考えなしに突撃する。

 俺は止めようとしたが、それよりも早く魔王が動き出す。


 飛びかかってきたアレンを魔王は俺達の背丈よりも大きな大剣を使い、攻撃を受け止める。

 アレンは勇者の力を使い、魔王を押し込もうとするがあっさりと払い飛ばされた。


 地面に叩きつけられ、無様に転がるアレンは俺の前で止まる。

 痛そうにうめき声を上げており、俺はその姿に顔を険しくさせてしまった。


「エレナ、カインズ。逃げるぞ!」

「で、でも!」

「俺が殿を務める。このバカを連れて撤退しろ!」


 魔王はアレンにトドメを刺すために大剣を振りかぶる。

 俺は盾を構え、迫ってきた刃をどうにか受け止めてみせた。


「エレナ、逃げるぞ」

「でも、シンが!」

「早く逃げたほうがシンは安心する」


 カインズの説得を受け、エレナはアレンを連れ撤退していく。

 ったく、これだから貴族の女の子というのは。


 さて、もう少し時間を稼がないとな。

 せめてエレナ達が魔王城を出るまで粘らないと。


 そんなこんなと考えていると魔王の大剣が迫ってきていた。

 盾の防御が間に合わないと咄嗟に判断した俺は剣で刃を受け、そのまま軌道を逸らしつつ攻撃を流した。


 間一髪というところだ。

 だが、今の一撃で剣が使い物にならなくなってしまった。


 それに、なんだか右手が痛い。

 どうにか攻撃を受け流したとはいえ魔王の強烈な一撃だ。

 手を痛めても不思議ではない。


〈お前、いいな〉


 そんな俺の様子を見ていた魔王が口を開いた。

 俺は警戒心を高め、盾を構える。

 できれば剣を使ってダメージを与えたいところだが、それは贅沢なことだろう。

 なんせ剣はもう使い物にならないからな。


 そんなことを考えていると魔王は思いもしない言葉を口にした。


〈今まで戦ってきた勇者よりも勇者らしい。名前を教えろ〉

「ハァ?」

〈いや、いい……そうか、シンというのか。お前は実にいい〉


 こいつ、なんで俺の名前を。

 いや、それよりも今まで戦ってきた勇者よりも勇者らしいってどういうことだよ。


 魔王は確か、勇者に倒されると魂すら砕かれるって話だったよな。

 歴代の魔王は歴代の勇者に倒されてきたんだ。

 もし転生していたとしても、その時の記憶なんてないはずだぞ。


「褒めてくれてありがとよ。だけど、そっちに寝返る気はないんでね」

〈お前には夢があるようだな。なるほど、それはいい夢だ〉

「話を聞いてるのか、おい?」

〈クククッ、ならばその夢が叶うようにしてやろう〉


 魔王が高々と大剣をかざすと、途端に禍々しい闇が刃に集まり始めた。

 明らかにヤバそうな攻撃だ。

 できれば躱したいところだけど、そんな余裕はないかもな。


 俺は盾を構え、攻撃に備えると魔王はニヤリと笑みを浮かべる。

 途端に剣を握っていられないほど右手の痛みが激しくなった。


〈我からのプレゼントだ。しっかり受け取れ〉


 くそ、なんだこれ。

 痛みで集中ができない。


 俺は思わず奥歯を噛みながらもどうにか剣を握り、持ち上げようとする。

 だが、剣に触れた瞬間、なぜだかわからないがボロ切れのように朽ち果ててしまった。


「なっ」


 何が起きたかわからず、俺は絶句しながら右手に目を向けるとそこには小さくも美しい玉がある。

 あまりの出来事に混乱していると、魔王の大剣が容赦なく俺に迫っていた。


 咄嗟に防御をするが、盾は簡単に弾き飛ばされた。

 仰け反り、無防備になったところで刃が右手へ迫る。


 そして、容赦ない一撃で右手が斬り飛ばされた。


「う、あっ」


 致命的な一撃だ。

 身体が真っ二つにならなかったことが奇跡的と思えるが、それでもダメージが大きく立つことができない。


 くそ、俺の人生はここまでか。

 情けない終わり方だな……


 俺は何もかも諦め、魔王にトドメが刺されるのを待った。

 だが、いくら待っても魔王からの攻撃はない。


 不思議に思い、魔王に目を向けてみるとそこには切り飛ばされた右手を持つ姿があった。


〈合格だ。この右手に力をやろう。お前にとっては厄介な力だ。だが、使いこなせば夢が叶うだろう〉


 そういって魔王は俺の右手に力を込めていく。

 どんどんと、どんどんと黒く染まっていくそれを見つめていると魔王は笑った。


〈今度は違う形で相まみえたいぞ、シンよ〉


 その言葉を耳にした時、俺の意識はプッツリと切れたのだった。

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