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パチパチと薪が燃え、弾ける音が響く。
すっかり闇に覆われた空には月も星も分厚い雲に隠れているのか、全く見当たらない。
頼りない灯りを取り囲むように俺達は腰を下ろし、闇に隠れている巨城を見つめていた。
目の前にある城は世界の敵対者である魔王が住む建物だ。
俺達は、いや俺は勇者パーティーに所属する盾役を担っている。
長い旅を経て、ようやく魔王が住む城の前まで辿り着くことができた。
様々な出会いと別れがあったが、もうすぐ魔王討伐ができる。
これでやっと俺の役目も終わるってもんだ。
「シン、動きはありましたか?」
そんな危険な場所で勇者パーティーは最後の戦いの準備を進めていた。
俺はそんなみんなを守るために見張り役をしていると、聖女であるブロンズの長い髪を持つ少女が声をかけてくる。
俺は白いローブに身を包んだ彼女の顔を一度見てから微笑み、また魔王城へ顔を向けた。
「いや、怪しい動きはないな。それより準備は整ったのか? エレナ」
「シンさんのおかげで。それにしても、みんなひどいですね。一番身体を休めさせて準備しないといけないシンさんを見張り役にするなんて」
「勇者アランと俺は対立するからな。まあ、そういう役目を請け負ったというのもあるけど」
「だけど、肝心な時にシンさんが倒れたら大変ですよ?」
「そうならないようにするためにエレナがいるよ」
俺がそう言葉を返すと、エレナは不機嫌そうに口をすぼめた。
実際に彼女はこのパーティーの要である回復役だ。
俺よりも重要視しなければならない存在でもある。
だから、こんなところで油を売っていてはいけないと俺は考えてしまう。
「いよいよですね」
「ああ、良かれ悪かれやっと終わる」
「悪いのはダメですよ」
「そうだな」
他愛もない会話。
それはこの旅であまりなかった何の変哲もない言葉の紡ぎ。
だけどそれが俺にとって宝物だった。
だから、どんな結果であれ終わるのだったら俺はそれで満足していただろう。
しかし、人生とは何が起きるかわからない。
それは魔王討伐でも同じことが言えたのだった。