第十四話「もう一人の自分と神」
ーセレネ視点ー
朝、いつもより少しだけ早く目が覚め、二度寝しようにももう眠気が無い。
下では何か物音がする、言い争っているようだ。
サイトの魔力の他に知らない一人の男の魔力を感じる、男は普通の人間にしては異様な魔力をしていて少し気味が悪い。
「ふぁ~仕方ない私が言ってやるか」
あくびをしながら、ベッドを降りる、足が少しふらふらして動くのが気だるい、ドアを開き、階段をゆっくりと降りていく。
「ふぁ~よく寝れた、サイトおはよう、朝ご飯出来ているか?」
そう言いながら玄関の方を除くと、サイトよりも一回り体が大きく身長も高い男が此方を睨んでいる、やはり妙に気に食わない男だ。
サイトはというと驚きと焦りを顔に浮かべ此方を見てきている、こういうときは大体、私がサイトの望まない事をしたときか、タイミングが悪いときに見せる顔だ、今回の場合はタイミングが悪かったのかも知れない。
そんな事を思っていると、店の奥からドタドタと足音が聞こえ、階段を下りきった瞬間、私の前にユナが必死な表情で現れ、私を担ぎ、店の奥へ一瞬へと連れ去る。
「ユナ、何があったの?」
「静かにしてください」
何も説明されないまま、昨日まではきれいだったのに何故かそこら中焦げ、道具や食材が散らばっている台所へと連れてこられた。
部屋の隅ではラプラスがうずくまっている、色々と言いたいことはあるのだが、一様話は聞こう。
「そろそろ教えてくれても良いんじゃないか?」
「確かにそうですね」
ラプラスの隣へユナは座り、私は二人の話を聞くことにする。
「私が台所を爆発させたのが最初でした」
「ちょっと待て、最初からぶっ飛んでいないか」
「台所を爆発するぐらい時々ありますよ」
「そんなこと……」
昔、ミーニャと一緒に料理したときのことを思い出す。
野菜を華麗に切るミーニャの姿に憧れ、慣れない包丁と呼ばれる短剣を使い、料理をしてみたのだが、まな板が真っ二つに切れたり、火を使った時に火力を間違え、この台所のように悲惨な事になった。
「確かに、時々そんなことにもなるな」
「普通はならないの!」
ラプラスが見下すように見てくる、もしかしたら、私達が異常なのかもしれないが、仕方ないだろう、ろくに料理をしたことが無いのだから……昔は一人で誰もそんな事を教えてくれなかったのだから。
「まあ、取りあえずですね。
そこから騒ぎになりまして、えっと……イグス王国の騎士に目を付けられてしまってですね。
今はサイトが相手をしてくれているのです、セレネも怪しまれたら不味いですよね、なのでここでバレないようにしておきましょう」
「うーん……なら、魔力を私ぐらい抑えないとバレると思うけどな」
「何でですか?」
「さっきあの男を見たときに魔力眼持ちだったんだよ。
私はとっさに魔力をかなり抑えたから魔力はバレていないと思うけど」
あの男やはり、ただ者じゃない、私じゃなきゃ見逃しちゃうね。
それにあの男、後天的に手に入れた魔眼だな……もしかしたらこの異世界にも私の世界にいた魔眼を与える馬鹿と同じ様な奴がいるのかもしれない。
「魔力眼? 私には分かりませんでしたよ」
「当たり前だろう、私のこの透き通る瞳は全てを見透かすんだ」
そういい私は指でまぶたを上げ、自分の眼を見せつける。
「わぁ~、綺麗ですね」
自分では目を見たことが無いが、ミーニャやサイトが、私の目は透き通るような青色で、人形の目のように綺麗と言っていたのを思い出す。
そうほめられると何故か少しだけ気恥ずかしい、頬が赤くなっていないか少し不安だ。
「で、ですが魔力眼の前では魔力を隠しても意味ないですよ、魔力眼……身内に一人いますが、相当正確なのですよ。私も持ってみたかったです」
「それも大丈夫、私は完全に魔力を遮断する事が出来るんだ、それは魔力眼だろうと分からないのだよ。
しかし、その間魔力の流れが私も分からないから、サイトが今どうなっているのか分からない」
魔力を切って無ければ、魔力を感じてサイトとあの男が何をしているのか分かるのだが……まあ仕方ない、こういうときはサイトに任しておけば、大体何とかなる。
余計なことをしていつものように邪魔をしても悪いし、ユナやラプラスの言うとおり大人しくしておくのが良いのかもしれない。
「それにしてもずっとラプラスはガタガタ震えているな」
「うるさいの……私は聖騎士にも顔が割れているの、それに外にいる奴やばい奴なの」
「知り合いなんですか?」
「まあ……顔見知り程度なの……」
目をピョコピョコと逸らしているから、多分嘘なのだろう、分かりやすい。
だが、嘘をつく理由が分からない、やはりラプラスも謎が多い、ただ悪い奴では無いのは分かる。
「アズールンの奴、クールぶってるけれど一番頭がおかしいの、怒ると本当に人を殺そうとするの。
私も数回怒らせて、酷い目に遭ったの、多分あいつは数人は殺ってるの」
「まず、騎士を怒らせるの可笑しくないですか?
本当にラプラスは何で目を付けられたんですよ、普通生きていたらそんな事無いはずですよ」
「騎士といざこざのあったユナには言われたくないの!」
ユナは完全に論破され、口をつぐむ。
私も魔王とバレちゃいけないから、騎士とは関わりたくないけれど、二人とも本当に何をしたのだろうか……私が仲間にしようとサイトに言ったのだが、もしかしたらやべえパーティーになってしまったかもしれない。
「こーら、お尋ね者の二人とも落ち着いて」
「わ、私のは騎士の勘違いでなってしまっただけですよ、私は何もしてません」
「犯罪者は皆、そういうの」
「本当ですって」
「一緒の仲間なの」
そう言いラプラスが親指を立て、グッドポーズをユナへと向ける。
そんなユナはというとほっぺを膨らませ、怒っているが、全然怖くないので意味は無い。
だが、良かった、ラプラスの震えもなくなり、何だかんだ言って二人とも笑っているので、仲が良さそうだ。
後はサイトが来るのを待つだけだ、早く戻って来て欲しい。
昨日あったばっかだってのに、もうこんなに親しげに喋っている、サイトにも見せてあげたい。
早く元の世界に帰って、こういう笑顔がそこら中にある世界を創りたいな……そして、彼女が悲しまず、誰かを傷付けなくて良いようするために。
「ぐあ"あ"あ"あ"あ"!!!!」
遠くからそんな声が此方まで聞こえてくる。
先程から何か少しずつ音が聞こえていたが、これほどまでの大きさでは無かったのであまり気にならなかった。
叫び声で、すぐに誰かは分からなかったけれど、聞き覚えのあるだと、気付き誰の叫び声か頭の中に一人の人物が思い浮かぶ。
「これって……サイトの声ですかね?」
「……そうなの」
自分が言う前に二人に言われてしまった。
私と同じ様に少しの不安を抱いているようだった、先程までの和んだ雰囲気はここにはない。
外がどうなっているか、分からず、それなのに突然のサイトの叫び声、なにが起こっているのか想像が付かいのだから仕方ないのだろう。
「外に出ないか」
「ですが、サイトに隠れていろと言われています、今行ったらサイトの迷惑にーー」
「それでも私は行きたい……嫌な感じがするんだ、私の脳がもしもを想像する度に心がもやもやするんだ」
「………」
こういう時、私の予感は大体的中する……早くサイトの所に行きたいという気持ちが湧いてくる、それで例えサイトの迷惑に掛かろうとも私はこの不安を取り除きたい。
「私も行くの」
「ラプラスもですか……」
「ユナも本当は今すぐ行きたいんだろ、行こう」
ユナは頭を縦に振り、私達は立ち上がり、玄関へと向かう。
その時に雷のような音が聞こえ、外からはボルギジニアが大声で何かを言っている。
サイトと一緒にボルギジニアが付いていてくれたのを知ると、少しの安心が私の中に広がる。
ボルギジニアは強い、それは一緒に暮らしていて痛いほど知っている、そんなボルギジニアが付いているのだから大丈夫だと思う。
私の予感は外れてくれたのだと思った……しかし外に出るとどういう状況なのか全く理解が出来なくなった。
「サイト、大丈夫だからな今助けてやるからな」
お店の玄関の前では、ボロボロになったドアが散らばっており、店を出て数メートル先に階段を降りたときに見た男が折れた槍と一緒に倒れていた。
そして、出てすぐに右のお店の壁にはボルギジニアが少し大きな声で何かを言っている。
そんな事より、一番気になった事……ボルギジニアの前にいる人物、床に赤い血が広がり、右腕と左肩には槍で開けられたであろう穴がある。
目は閉じ、髪の色が何故か少し薄れ、焦げ茶色になり、意識を完全に失ったサイトの姿が目に映った。
まだ息はあるようだが、このままいけば間違いなく出血で死んでしまうだろう。
何でこうなっているんだ……いつこうなった?
どういう状況なんだ?
頭が混乱する、さっきまで見たサイトはこんなにはなっていなかった……あの男が何かをしたのか?
そんな疑問が頭を埋め尽くし、私が動けず立ち尽くしていると、私の後ろから二人が出てきて、サイトの方へと近付いていく。
「サイト!」
「大丈夫なの?」
「お前達……すまない俺が居ながらこんな事になって」
「生きているの?」
「まだ息はある」
「なら私に任せるの」
ラプラスが昨日ユナにしたように手から緑色の光を出し、サイトに触れる。
治癒しているのは分かるのに、私の不安ともやもやは一向に消えない……それどころか徐々にそれが大きくなって来ている。
「ハアハアハア」
息が荒くなる、もやもやが自分を覆っていく、苦しい。
ゆっくり歩みを始める、自分の意志とは反して勝手に動く、自分が体を動かしていないのに体が動く。
この感覚、時々寝ているときの夢に似ている……。
私は時々、別の人格の夢を見る、その人格は私よりも口が悪く、気性も荒い、私とは似たようで似ていない別人……だというのに、私よりも私の体を使いこなし、私が会った誰よりも強く、冷徹非道で人を殺すのをいとわないそんな人物。
最近だと、何故かサイトが私が寝ている間に私のパンツを見て、それを彼女が注意するいや、ほぼ脅す様な夢、現実で本当に起こったのではないかと思うほど鮮明な夢。
(あなたは誰なの……)
体は動かず、今にも意識が飛びそうな中、私は心の中でそう問いかける。
しかし、返答は帰ってこない、私と会話をする気など無いのかもしれない……いつもそう夢の中で呼ぶときも無視をされる。
(あなたはもしかして彼女なの?)
そう呼んだ瞬間、目の前に私と瓜二つの顔をした少女が見える、私と違う所が有るとすれば、漆黒の髪の毛はサラサラしており、目は炎のように真っ赤でとても美しい。
初めて、その姿を見て確信した……やはり私の中にまだ彼女がいると。
(眠っておれ)
そう彼女が言った瞬間に彼女の姿は無くなり、辺りは真っ暗になる。
しかし心の底が燃え上がるほどに怒りがこみ上げる、多分だがこれは彼女の感情だろう……。
もう、こうなったら、私に体の主導権は無い……それにもう私も限界みたいだな、どんどんと意識が薄れていく。
話に聞いていたとおりの人物だ、いつもは口が悪く、心が無いような人物に見えるが、仲間や人が傷つくのを嫌い、やり方は間違っているけれど、人が悲しまぬ為に人を殺すことを厭わない、優しい人。
あぁ……多分彼女は人を殺す、私がサイトを守れなかったから彼女を起こしてしまったんだ……もう彼女が人を殺さないように私が要るのに……。
(ごめんな…さ…い………)
目が閉じ、完全に意識がなくなる。
ーサイト視点ー
俺の意識がハッキリとして来る、そして目を開けると、辺りは真っ白な空間でそれがどこまでも続いている場所にいた。
「ここは……そう言えば、俺、あの騎士に槍を投げられて……そっか死んだのか」
自分の今なっている状態を理解する。
あの状態から目覚めて辺りは真っ白の空間、確実に死んだのだろう、だとすればここは天国なのかもしれない。
「思ったよりも天国って何もなくて、暇だな」
「何もなくてすまなかったね、これでも神聖な場所なのだよ」
「うわぁ!?」
先程まで何もなかったのに、突然、後ろから女の人の声が聞こえ、驚きでつい変な声が漏れてしまう。
俺は素早く後ろを向き、もしかしたら怪しい人物かもしれないので、武器は無いけれど、拳を握り締め、構える。
「ミタマくんも大概だけど、君達は神様に対しての礼儀がないよね」
その、女性は白い髪を持ち、水色の目、白い肌、そしてとても大きなお胸をしており、セレネに負けず劣らずの美しさで、神聖な服を着て、何ともまあ神々しい姿をしている。
しかし、そんな事よりもその女性は自らを神様と名乗っていることが気になる。
「説明ありがとう、自称、神と言う訳ではないよ」
「なっ!? 心が読めるのか!」
「まあね、神様ですから」
何なんだ、もしかして本当に神様なのか……。
だとしたら、何故俺の前に、表れたのだろうか。
「君は本当に頭の中でよく考えるね、まあそう変に考えなくていい後からじっくりと説明してあげるよ。
私も君とじっくりと話してみたかったんだよ」
「そうですか……」
光の発する椅子のようなものに優雅に座り、ずっと此方を笑顔で見て来て、此方の緊張を解こうとしてくれているのが伝わる。
何も悪意も無さそうだし、本当に俺と話したいだけなのかもしれない、俺は肩の荷を落とす。
「それじゃあ自己紹介と行こうか」
女性は立ち上がり、お行儀よく、貴族のようなお辞儀をする。
「私の名前はアマテラス、これからよろしく」
そう言い、今までで一番の笑顔を見せる。
それとは逆に俺はその名前を聞き、顔から驚きが隠せず、かなり動揺している。
何故なら、その名は日本の神様の名前である。




