第十二話「槍の騎士」
日が差し、小鳥が歌を奏で、丁度良い温度、俺は店の前で大きく息を吸う、今日はとても清々しい朝、昨日はユナとラプラスが仲間になったりと濃い一日だったが、こうしていると心が落ち着く。
だが、昨日のボルギジニアの一言ラプラスに気をつけた方が良い……という発言、どういう事だろうと聞いてみたが、何も教えて貰えなかった、俺自身も考えてみたがまだラプラスと会ってそれほど時間もたっていないし知らないことだらけで、結局分からなかった。
あいつにも何か考えがあるのだろうけど、少しぐらいヒントを教えてくれても良いんじゃないだろうか……それにラプラスもラプラスで仲間なのだから秘密が有るなら教えてくれても良いんじゃないかと思う。
顎に手を乗せ様々な可能性を考えるが、やっぱり何も分からない、もしかしたらセレネの言っていた禍々しいほどの呪いの力と言う奴だろうか。
ドーゴーン!!!!!
「なんだ!?」
考え事をしていると唐突にお店の方から凄まじい音が響き渡る、あまりにうるさかったのでお店の前を通る人達がお店の方を心配そうに見て来る、朝早くと言うのにどんどんと人が集まってくる。
その中にはセレネの件で町のそこら中にいる、イグス王国の聖騎士も複数人に心配そうに此方を見ている。
目立つのはまずいと感じた俺は素早く、お店に入り音の原因へと向かっていく、そこへつくとあまりの散らかりように俺は絶句する。
そこら中が焦げていて、元野菜らしき物が壁に張り付いていたり、床に無残にもグチャグチャで落ちていたり、フライパンなどの料理器具もあらぬ方向に飛んでいる。
そしてその部屋の真ん中にはこのキッチンを滅茶苦茶にしたであろう犯人の女が炭で所々が黒く、ケホケホと席をしながら、無気力に座っている。
「ユナ、お前そんなとこでなにしてんだ」
俺は犯人に声を掛ける、すると犯人は此方に顔を向けるそして、涙目になりながらこっちに飛び込んでくる。
しかし、俺は炭を付けられぬよう手を伸ばしユナの頭を抑えこれ以上近付けないようにする。
「うぅ~サイト~、皆の為に朝ご飯を準備しよう思ったらキッチンが爆発したのです」
「……取りあえず聞くけど、変な物は入れようとしてなかったよな」
「普通に目玉焼きとサラダを作ろうとしただけですからそれ以外の材料は使ってないですよ」
「マジでどうやってそれだけで爆発が起きるんだよ!」
もしもパーティーメンバーで旅に出るとなったら絶対にこいつには絶対に料理はさせない、料理する度に爆発されたら溜まったもんじゃないぞ。
そんな事を考えているとドンドンドンっと外からお店のドアをたたく音が音が聞こえる。
「すみませーん、大丈夫ですか? こちらイグス王国直属騎士のアズールンだ」
やはりさっきの爆発音でかなり騒ぎになっていたらしい、目立たずに過ごしてきたというのに遂に此処まで騎士が来るとは……。
「ままま、まずいです、セレネが存在バレてしまったら大事になってしまいますよね」
「あぁ」
「そうなったらきっとセレネは捕まり拷問されるか、最悪勇者様や軍を連れて討伐されちゃいますよ」
それは困る……だから絶対にセレネの存在はバレてはいけないここは慎重に相手と接し、なるべく怪しまれぬよう追い返すしかない、幸いまだセレネは寝ていて二階にいる、店に上がられなければ姿を見られる事もない。
「ぬぁ~騒がしいの」
目をこすり、あくびと伸びをしながら、紺色の髪を揺らし可愛らしい子供用のパジャマを着て、てとてとと此方にもう一人の少女が近付いてくる。
ラプラスもさっきの爆発で目を覚ましたらしい、あれでまだ起きてこないセレネが異常なのだけれども。
「なんの騒ぎなの?」
「外に騎士が来ているんです」
ユナが端的に詳しい事情を話してくれる、だがそれよりも気になった事があった。
外に騎士が来ていると聞いて一瞬、ラプラスの瞳孔が開いた、それにさっきから手を少しだけ動かしていて落ち着きがなくなっている用に見える。
「ラプラス……お前何か隠していないか?」
「ななな、何の事なの別に何もないの」
早口になったり、動揺がバレバレ過ぎて何か隠しているのがすぐに分かる。
さっきから騎士の事で反応を示していることからその事なんだろうが何をしたんだろうか、まあ考えても分からない直接聞いた方が早いだろう。
「何か騎士が来て何か都合の悪いことがあるのか」
「……」
「サイト、ラプラスに詰めないで下さい、誰だって王国騎士と会いたくない理由の一つや二つありますよ」
「全うに生きてたら普通はねえよ」
「そんなことないですよ。私もこの町に来る前、本国のイグス王国に居たのですがそれはもう大変でしたよ」
「お前は何をしたんだよ」
ラプラスに聞こうと思ったが、急に割はいって来て突然のカミングアウトで気になる部分が多かったのだが、その会話の後、ラプラスが首を縦に振り話し始める。
「私もそんな感じで色々あって顔も割れているからあまり見られたくないの」
「ほら、サイト、私の言った通りだったでしょう」
本当にそんな理由なのか……そういう物なのかそれが普通なのか?
そんな訳ないよな……だって顔も割られてるってそれ半分言えば指名手配犯みたいな物だよな、何したんだよこいつら。
「もう俺一人で対応する、お前らは店の奥でじっとしてろ」
「ありがとうなの」
「すみません私のせいで」
音の聞こえるドアの方へと歩いていく。
話しすぎただろうか、少し時間が経って待たせたかもしれない、そう言う部分でも不信に思わせてしまうかもしれないなるべく慎重に話そう。
そう決心し、ドアに手を当て開こうとする瞬間、音と同時に何かが俺の顔の横を何かが通り過ぎ、俺の頬から血が出てくる。
一瞬のことで何が起こったのか理解できなかったが、頭が落ち着き状況を理解しようとする。
目には店のドアを突き破り俺の顔の横に飛んできた槍が見える、攻撃を受けたのだろうか。
槍はドアの向こうに戻されていく。
「あの、王国騎士です開けて貰えませんか」
その声が向こうから聞こえてくる、これをやったのは騎士なのか……。
「返事がないな……もう一発やっておくか?」
俺はそれを聞き恐る恐る、ゆっくりとドアを開くと声の主が姿を表す。
俺よりも背が高く、体格も一回り大きい体をしていて重そうな鎧を着て、手には先程ドアをぶち抜いた槍を持っている。
兜はつけておらず、黒色の髪と目が鋭く、顔は俺の世界で言うダンディーな顔の男性でとてもかっこいいが、さっきの槍の件で体が震えている。
「やっと来たか」
「すみません少しお話をしておりまして」
「そうか、なら良いのだが」
敬語を使い丁寧に会話を始める。
普通に怖い、急にドアを槍で突き破るのだ、怒らせたらどうなるか想像しただけで怖い。
「それで本題に入ろう、先の爆発はなんだ」
「………料理で失敗して爆発したらしいです」
「……バカにしているのか?」
ですよね、普通料理してて爆発するはず無いですよね、でも本当なんですよね。
しかし、男の人はさっきより目を鋭くし、怪訝した目で此方を見てくる。
「この店には誰がいる?」
やはり、怪しんでいるみたいだ、このままだとまずい。
セレネやラプラスの名前を出すか……名前だけなら大丈夫かもしれないけど、此方を不信に思っているからもしかしたら連れてくるように言われるかもしれない。
あいつらには店の奥で大人しくするように言っているし、隠す方が良い。
「ボルギジニアと俺だけですよ。
このお店は有名だしあなたも知ってるんじゃないですか?」
「あぁ、此処は少し売り方は強引だが、この町一番、いや王都でも屈指の石鹸、洗剤屋だ。
俺も来たことがある、店主も気のいい奴だった」
よし、反応が良い、ボルギジニアがしっかりとお仕事をしていて良かった、このまま行けば、無事に帰せるかもしれない。
「そうですよ、ボルギジニアも少しうっかりしてたみたいです。
お騒がせしてすみません」
「まあ、確かにあの店主ならあり得るかもしれないな……此方こそドアを突き破ったり、変に疑ってしまいすまない」
「良いんですよ。此方が悪いのですから」
そう言って、騎士が頭を下げ、後ろを向いて帰ろうとする。
「ふぁ~よく寝れた、サイトおはよう、朝ご飯出来ているか?」
後ろから聞き覚えのある声が聞こえてくる。
俺は後ろを振り返るとセレネがくしゃくしゃなパジャマ姿で階段から下りて来ている。
するとその声を聞いて、足音がドシドシと近付いて来て、ユナがセレネを持ち上げ、口を塞ぎながら店の奥へと素早く入っていく。
「おい、お前、店にはお前と店主だけだと言っていたが、どういう事だ」
声がさっきよりトーンが低く、騎士の方を見ると、鋭い眼光が此方に突き刺さる。
もうすぐ帰りそうだったのに、タイミングが悪かった、完全に此方を怪しんでいる、もうここから言い訳してもどうにもならない。
「家の中に入らして貰う」
そう言い、無理やり俺を押しのけて入ろうとする。
まずい、しっかりと調べられたらセレネの存在がバレてしまう……。
さっきのユナの言っていたことを思い出す、セレネが討伐される……。
「辞めて下さい」
そう思うと俺は騎士が無理やり入ろうとするのを止める、道を塞ぎ男の前に立つ。
「邪魔をするのか?」
「ここは通さない」
「そうか」
男は動きを止めて、此方を睨みつけてくるが、俺はここを通さない。
すると、男の手が動き始めるのに気がつく、手には先程の槍を持っている、そう見ると、俺は咄嗟にしゃがむ。
ドーン!
男が槍を豪快に横に振り、玄関の壁が吹き飛ぶ。
俺ごと真っ二つにしようとしたのだろう、ドアを貫いた時、槍に注意が行っていて良かった、もしもあれがなかったら俺は油断して今ので死んでいただろう。
俺は大きく槍を振りかざした、時にできた隙を見て、一気に男に詰め胴体に手を触れる。
『魔力は天と地をひっくり返し、我らに多大なる力を与えん ウィンドボール』
ゼロ距離で風魔法を使い男を店の外へと吹き飛ばし、俺も外へと出る。
男は吹き飛ばされたが、槍を地面に突き刺しながら綺麗に着地し、此方に槍を構える。
「それは俺と戦うということで良いな」
「こっちが何もしなくても殺すつもりだっただろ」
「ふん」
地面を思いっ切り蹴り、素早く此方に近付いてくる。
とても早い、ギリギリ姿を追えているが、勝てるか分からない、単純な力なら俺より全然強い。
俺は地面に手をつける。
『魔力は天と地をひっくり返し、我らに多大なる力を与えん ウォール』
男より少し大きい壁を足元に作り相手の攻撃を避ける。
「ちっ! 魔術師なのか?」
『魔力は天と地をひっくり返し、我らに多大なる力を与えん ウォーターボール』
壁の上からウォーターボールを当てるが、全く効いて居なさそうだ、まあ、水を固めた物を飛ばしただけではあの鎧を傷つけることすら叶わないよな。
俺がもう少し魔力を持っていれば、中級魔法を使えたのだろうけど、これが世界の不条理だよ。
「さっきから小賢しい」
壁に向かって槍を思いっきり振り回す、すると壁は簡単に崩れる。
やはり初級魔法では地面もそこまでの強度は無い。
「クソ、滅茶苦茶じゃねえか」
壁が崩れ、体勢を崩し、軽く肩を地面に打ちつける、しかし、相手は止まらず、地面に倒れている俺に向かい槍を突き刺そうとする。
俺は体を転がし、避けようとするが腕に少しかすり血が出てくる、だが、素早く立ち上がり相手と向かい合わせになる。
「ぼろぼろではないか、諦めろ」
「確かに俺の攻撃はあんたには効かない」
「分かったなら大人しく店の中をーーー」
「だが、断る」
「殺す」
ここでは向こうのネタは通じないか……でも本当にこんな事してる余裕が無いのだけど、まずいなどうしよう、本当に俺殺されるんじゃ無いだろうか。
まだ一つ手はあるが、壁も壊されて実行するのが難しくなってしまった、それに片腕は傷ついて動かしにくい、どうにかして発動の隙を作りたい。
男は一直線に近付き、此方に槍を突く、俺はそれをかわし腰に掛けていた短剣を鞘付きで抜き、男に振りかざす。
しかし、それに反応して槍で軽く弾く、そして追撃で槍を連続に突いて来るが、それを全て避けていく。
「上手く避けるな」
俺は何度もボルギジニアに稽古を付けて貰ったんだ、カッコ良く無いけど避けるのだけは異様に上手かったからな、あいつの攻撃に比べれば簡単に避けれる、だが、避けているだけではいつかへまがでるし勝てない、やるなら早めに片を付けよう。
素早く、槍を突くのを止めると、今度は大振りで槍を振り回そうする瞬間、ここだと思い、俺は鞘から短剣の刃を出す。
腕と短剣に魔力を行き渡るのを感じる、そして、俺は今まで以上に力を入れ、短剣を槍めがけて振りかざす。
「おら!」
ガキン!!!
鉄と鉄が交わり、物凄い音と火花が散る。
相手の槍が弾かれ、体勢が崩れ、隙が生じる、俺は短剣を持っている手とは逆の手を伸ばし、男へと向ける、全てのコンディションが揃った、一気に体中に魔力を巡らせる。
俺の一番得意な魔法、一番無駄なく魔力を使え、最も威力を出せる魔法、一日に一回しか打てないが、俺が唯一使える"中級魔法゛今ある魔力を全て使ってでも決めきる。
『魔力は天と地をひっくり返し、理さえも凌駕する そして我らに莫大な力を与えん サンダーボルト!』
手が電気を帯びると同時に、物凄い音をあげ、雷が手から放出され、騎士へと直撃する、するとさっき当てたウォーターボールでびしょ濡れにしていたことで鎧を貫通し男の体中に電気が走る。
「ぐぁあああ!!!」
男は感電した事で体を震わせながら、バタンと音を立てて倒れる、死んではいないだろう。
「はぁはぁ、勝てたのか?」
頭がクラッとし、膝をつく、魔力切れを起こすと力が入らないこうなると数分は体が動かない、少し休憩したらセレネ達の所に戻ろう。
「舐めやがって……力が入らねえ」
「!?」
男が槍を地面に突き刺し、辛そうにゆっくりと立ち上がる。
あの攻撃を直撃で受けたのにまだこいつは動けるのか……どんだけタフなんだよ。
「槍を弾かれた時に、がむしゃらに魔力を体内に流していて良かった」
魔力による身体強化でダメージを抑えたのか……あれほどの攻撃を防げる魔力を体中に送るとなったら相当な魔力量が必要だろう、なのに魔力切れを起こしていない……本当にこいつは強い、俺じゃあ勝てない。
「もう、終わりにしよう」
俺の首の横に槍を持って来る。
肌で感じる、これは本当に死ぬ、避けたいけれど魔力切れで動かない。
「お前の戦い方は面白かったぞ」
「じゃあ殺すのは辞めて貰えたりは」
男はにっこりと笑う。
「だが、断る」
「ですよね」
男はゆっくり槍を上げ、思いっ切り振りかざす。
クソ、体動け、せっかく仲間も出来て、これからだって時に、こんな死に方……。
「お店の前での戦闘は止めて頂けますか?」
その声が聞こえると、俺の首の横、ギリギリで槍が止まる。
俺はその声に聞き覚えがある、元魔王幹部にして、俺の師匠である人物、そうボルギジニアである。
ボルギジニアはセレネと戦っていたときに使っていた剣を持ち、俺の横にある槍を軽く弾く、次の瞬間俺の視界が変わる。
「なっ!?」
先程まで男が目の前に立っていたのに、店の壁に位置が変わる、もしかして今の一瞬でボルギジニアが移動させたのだろうか。
そんなボルギジニアは俺の前に立っている、そして笑い声を上げる。
「フフフフ、お引き取りを願います。
聞かぬのなら、いくらでもお相手して差し上げますが」
そう言い、歩きながら騎士へと近付き、余裕そうに笑いながら剣を構える。
その姿はいつものボルギジニアからは想像が出来ないほど禍々しく、魔王幹部としての風格が滲み出ていた。




