第十話「魔法の使えぬ魔術師」
杖を振り回し、爆弾魔をぶっ飛ばして行く。
「魔法を使わずに力だけであれをやってるんだよな……」
真っ二つにしたり、ただの怪物なのかもしれない。
ある程度蹴散らすとまた此方に来て、一緒に走り出す。
それを繰り返して行く内にユナは体力が無くなって行ってるのか、雑に上下に杖を降り始める。
「ユナ! 衝撃を与えると」
「え?」
さっきは縦に攻撃したときは爆弾魔をぺちゃんこにしたが、今回は体力が少なくなり完全に潰しきれなかった。
爆弾魔は黒色が色を換え始める、あれは昨日みた……。
昨日とは違い辺りに沢山の爆弾魔がいるこれはまずい。
「セレネ!」
俺は思わず助けを呼ぶ、魔力を使えばまた、貯めるのに時間が掛かってしまう。
でも仕方ない今回は俺達の負けだ。
セレネは何処からか現れる、いや気付かなかっただけで、ずっと俺達を見守ってくれていたのだろう。
上に手を向けて下へと下ろす。
次の瞬間、上から大量の水が降ってくる、ここは地上の筈なのに海のように当たりを埋め尽くす。
ドーン!!
水の中で爆弾魔が爆発する、それが他の爆弾魔に衝撃を与え連鎖し爆発していく、此方にも爆風が来るが、水のお陰で大したことない。
やっぱりセレネは凄い、大量に水が出てきたから上級魔法かと思ったが、よくみるとこれは大きいウォーターボールだ。
なるべく魔力消費の少ない初級魔法に魔力を多めに与え、量を増やしたのだろう。
ウォーターボール位なら、魔力消費量もインフェルノや上級魔法より少ない、セレネの魔力量なら雀の涙ほどぐらいしか減っていないだろう。
無詠唱でこれは凄いな。
魔王様、初級魔法でもやりすぎです。
ーーー
爆弾魔は全て爆発してしまったが、水のお陰で辺りは被害を受けなかった。
「私に任せればこんなものなのだ!」
セレネは今、全てをやり切り寝っ転がってやすんでいる。
あいつは一人でも大丈夫だろうと思い、俺は歩き少し離れたユナの所へと行く。
ユナは体育座りをして、セレネのウォーターボールで出来た水溜まりに移った顔を見ている。
その顔は何だが、暗い顔だ。
俺がユナの隣へと座るとユナが話し始める。
「ずっと邪魔してしまいましたね」
「俺はユナにーー」
「慰めなくていいですよ。
私が逃げ遅れたから爆弾魔と戦うことになったり。
私が爆弾魔に下手に攻撃したせいで、起爆させてしまい魔力の回復が遅いから魔力を使わないようにしていると聞いたのにセレネに魔力を使わせてしまったりと………」
声が震えていく……。
水溜まりからユナの顔を覗くと涙を流しているのが見える。
「本当にごめんなさい」
「こんなのでは、パーティーメンバーに入れて貰えませんよね。
分かっていたんですよ、魔法が使えない魔術師が欲しいパーティーなんて誰一人いないんです」
鼻をすすり、顔をうずくめる。
俺は人と関わることを避けてきた俺にはこういう時どうしてあげるべきか、なんて言って上げたら良いのか分からない……。
「本当はこんな筈じゃ無かったんですよ」
顔を上げ、顔の涙を拭う。
そして、震えている声で話し始める。
「私、親を魔王に殺されたんですよ……」
突然、そう告げられ頭の中が混乱する。
だが、ユナは話を止めず続きを話し始める。
ーユナの過去ー
私は元々あまり知られていない小さな村にお父さん、お母さんと三人で仲良く暮らしていた。
村は昔から変わった伝統があり、年に一度お祭りをする。
それぐらいしかない村だけど、不満はなかった。
このままいつまでも平和で楽しく、お父さんお母さんと暮らして、結婚して子供も作ったりして幸せな家庭を築くと思っていた。
だけど私が十二の時、それは起こった。
「お母さん、行ってきます!」
お昼過ぎ、村の中では少し大きめの家の庭を走り、垣根を越えて外へと出る。
「行ってらっしゃい、ユナ」
庭のお花をいじっていたお母さんが返事をしてくれる。
「うん!」
今日は年に一度のお祭りで、私のひいおじいちゃんが関係している祭りらしく毎年この時期お父さんは忙しい。
ひいおじいちゃんには会った事がないが、ひいおばあちゃんには数回あった事がある、いつ見てもとても若々しく可愛い、よくひいおじいちゃんを凄かったと言う。
村の人もそう言う、だからとても凄い人なのだろう。
私は今年で十二歳、今年からお父さんの提案で山からお祭りに使う素材の回収を取ってくる事になった、お祭りの事はよくわからないが、お父さんが初めて私に何かを託してくれたので私はとてもやる気で山へと登った。
「えっと……山の山頂にある筈なんだけど………」
山へと登っていくと、灰色の何かがあるのが見えてくる。
最初は何かと不思議に思ったが、登って行く内に何か分かった、それはお墓であった。
様々なお供え物が置かれている事から、とても村の人々に愛されているのが分かる。
その人物は私のひいおじいちゃんだ。
此処でもいるようだ。
「一様、手を合わせるか……」
手を合わせて、立ち上がる。
確か、お父さんが言ってたのはこの後ろにある花だったっけ……。
墓の後ろを見ると、白い綺麗な花が大量に生えていた。
見とれているとあるものが目に入る。
花の真ん中に何か石で出来た箱があることに気がつき、それに近付き始める。
その箱は光、私は何故か手伸びそれを触ると突然目の前に、一冊の本が出てくる。
本には、持ち手があり、手を盾のようにはめられる形になっていた。
本は読むものなのに何故持ち手が付いているのだろう、これを盾にして戦っていたのだろうか、不思議なのだが、目が離せない。
すると、勝手に本が開き始め、あるページで止まる。
何だろう……気になって本の中に顔を覗かせる。
『膨大なる力よ、全ての事象を掌握し、この世を覆い尽くし、かのものを滅ぼす偉大なる真紅の魔力を我に与えよ』
頭の中にその文字が刻まれる、覚えたかった訳ではないだが……勝手に入り、頭の中から抜けない。
パタン!
それだけ終わると本は閉じ、石の中へと消えていく。
何だったのだろうか……まあ、知らなくても困らないか。
私は花を幾つか積むと私は山を降り始める。
山に登るのに少し時間を掛けてしまい日が赤く、落ち始めている。
早く帰らないと、お祭りに遅れてしまう。
山頂から村が一望出来るのだが、もう祭りの光がつき始めている。
「急ごう!」
花畑から出て墓の横を通り過ぎ、山を下ろうとした瞬間。
ドゴーーンン!!!!
凄まじい音と、光を発する。
「!?」
村の方を見ると、村の三分の一が吹き飛び、残った家や建物は火で燃え煙を出す。
何だこれ……夢でも見ているのだろうか、きっとこれは悪夢だ、そうに決まっている……。
私は足が動き始める、走り始める、戻ったら危険なのは分かっている、だけど、止まらなかった。
山の中道は険しく何度も転び、服が汚れ、かすり傷が出来き、膝から血が出ようと足は止まらなかった、ただ親の無事を祈り。
家に着くとお昼の時には想像できなかった景色が広がる。
お母さんの大事にしていた花は燃え、家は潰れ屋根が地面に着いている。
この時間だとお母さんが家にいつもいた筈……。
「お母さん!」
崩れた石の垣根を乗り越えて、家へと向かう。
お母さんの名前を呼びながら、木をかき分けて居ないことを確認しようとする。
「おか……あさ…ん………」
家の奥のキッチンの瓦礫を退けると、そこからは今日私が家を出てから作ったであろうグチャグチャになった晩ご飯があった。
そしてその奥には……下半身が丸々家に潰され上半身だけのお母さんがいた、出血が酷すぎたのだろう。
私は気持ち悪くなり吐く。
息が荒くなり、目が涙で前が見えなくなる。
お母さんが晩御飯を作って自分の帰りを待っていたのが想像できる。
あんなに笑顔の耐えなかったお母さんが……今は………。
「オエ~、う゛ぅ」
どうしてこんな事になったんだ……何でだ?
何で何で何で……。
そう思っていると物音が聞こえてくる、言い争ったような声と何か分からない変な音が。
人が生きている、そう思った時私は、すぐにそこに走り出した。
そこにお父さんがいると思った。
お祭り会場の村の中心部分であった、そこには村の人達が何人も血だらけで倒れていた、どれもピクリとも動かない……。
だが、一番目が行ったのはその奥に立っている人物であった。
「お前は何が目的なんだ!」
お父さんが防具を着て杖を持っている。
あの杖はいつも私に「これは俺の宝物なんだ、お前のひいおじいちゃんが作った杖なんだ」と自慢していた杖だ。
そんなお父さんの前には一人の背の高い男が立っていた、そいつは背中に黒い翼を持ち、灰色の髪をして、目が鋭く、見ているだけで体が震えた。
お父さんと声を上げたいのに喉が開かない、体が動かない。
「ふん……もう残っているのは貴様だけのようだな、『不運』の孫か俺の攻撃を耐えただけはある。
だが、この程度か……奴は弱かったし、不運であった……しかし何奴よりも諦めず強かった」
残っているのは、お父さんだけ……昨日まで子ども達が鬼ごっこをしたり、大人達がいつも他愛ない話をする平和な村だったのに、今では誰もいない……。
「奴の名誉に掛けて魔王、ウリエルが全力を尽くし貴様を殺す」
「魔王!?」
お父さんが目を見開き、顔から汗を出し体が小刻みに震える。
『魔神門』
男が手をうねらせる度に黒い何かが大きくなっていく。
空気が物凄い勢いでそこに吸い込まれていく、肌で感じる何かが起きる。
お母さんを失った時の事が頭の中に浮かぶ、その瞬間体が動いた、お父さんを失いたくない思いが私の体を動かせた。
「お父さん!!」
「ユナ!?」
お父さんの元へ走り、飛び込み抱きつく。
お父さんの熱を感じる、生きている事を実感する。
「お父さん……お母さんが………」
目から涙が溢れ出す。
「ユナ無事だったのか。
すまないお父さん、村を守りきれなかった。
ユナを泣かせてしまったね……」
お父さんも膝を地面に着け私を強く抱きしめる、お父さんはよく見ると体中ボロボロで所々血が出ている、無理して立っていたのだ。
「子供が居たのか、まあもう関係ないがな」
男が此方を強い目で睨み付けている。
怖い、この後私達はどうなってしまうんだろう。
「ユナ……お父さんのお願いを最後に聞いてくれないか?」
「な、なに?」
「生きろ、最後まで諦めず、生き続けるんだ」
お父さんはそう言い、立ち上がり私に大事と言っていた杖を突然渡す。
「お父さん?」
「ユナを守ってくれ」
「え?」
お父さんは私の肩に手を触れる。
次の瞬間、私の体が後ろへと吹き飛ぶ、何が起こったのか理解出来ない。
お父さんが離れていく、いや私が離れている、お父さんと一緒に居たいのに不思議な力が私をお父さんから引き離す。
「風の魔法石と無詠唱で簡単な転移魔法を使ったか、逃がす筈がないだろう」
手を此方に向け、男も無詠唱で黒炎を飛ばしてくる。
ドン!
その音が響き渡る。
……あれ?
生きている、何故だろうと不思議に思っていると、杖が青色に光輝いているのに気付く、守ってくれたのだ。
男は私が生きている事に気付かず、お父さんに意識を戻す。
「小賢しい真似を、もう終わりにしよう」
「そうだな」
「言い残す事はあるか?」
「お前を必ず、殺すものが現れる。
その者はこの世界を大きく変える、お前の野望は叶わない」
「戯れ言が」
男は先程作った、黒い物をお父さんの向ける。
やめて、やめて、やめて。
「さらばだ」
『開門』
黒い何かがお父さんを私の家を村を覆い尽くす。
全てが消えた。
その事にはお構いなしに、お父さんの魔法は私を村から離していく。
私は全てを失った。
ーサイト視点ー
ユナからそんな重たい話を聞かされる。
「その後は大変だったんですよ。
色々あってこの町に着いてからはお金を稼ぐ為、冒険者を始めたんですが、一人では限界があったんです。
それで仲間を集めようと思ったんですが、やはり私みたいな魔法の使えない魔術師など要らないみたいで、お金も無くなってご飯もろくに食べられず困ってたんですよ。
そんな時サイトのパーティー募集を見つけたんです。
でもやっぱりサイトもこんな魔術師なんかよりも普通魔術師が良いですよね……」
ユナがご飯を奢って貰おうとしたのは、食べるものすら無かったからなんだな……。
セレネが両親を殺した訳では無いが、同じ魔王と聞いたときどんな気持ちだったのだろうか。
「おっと……つまらない話を聞かせてしまいましたね、そろそろギルドに帰りますか」
ユナは会った時のような明るい声でそんな事を言い立ち上がる。
そして、杖をしっかり握り、町へと歩き出す。
その姿は少し暗い。
「ユナ!」
「急に大きな声を出してどうしたんですかサイト」
「お前が必要だ」
「え?」
ユナは振り返ると、涙が流れていた。
本当は辛かっただろう、誰も頼れる人なんて居なくて、ひとりで溜め込んで、でも他の人に心配されないように強がって。
一人の辛さは分かっているつもりだ。
俺だって、前の世界ではひとりだった、誰も俺に何か期待してなかった、誰も俺を分かってくれなかった、そして俺は引きこもった。
一人は楽だけど、孤独は辛い、それが続く度にこのままだと駄目だと分かっているのに行動に移せない、誰かに助けて欲しかった……そんな俺が異世界に転移して、何故同じ立場にいる人間を見捨てられようか。
「一緒に魔王を倒してくれないか」
「私なんかで良いですか?」
目が見開かれ、震えた声で聞いてくる。
「俺達にはお前が必要だ」
「私はあまり魔力を使えないし、サイトは強いとは言えない、私達にはユナが必要なんだよ」
突然セレネがそう言う。
ユナから大粒の涙が流れ、泣き崩れる。
「ありがとう、本当にありがとう」
俺はこいつの辛さを頑張りを全部知っている訳では無い、でもこいつのボロボロのローブ、豆のある手が今までの事を物語っている。
それをむげにはしたくない。
俺達のパーティーに魔法の使えない前衛の魔術が加わった。




