第九話「天才魔法使い?」
ギルドの食堂スペースで二人の男女が座っている。
いや、俺とセレネだ。
何故、クエストにも行かず座ってるかって?
それはパーティーメンバーを募集し、ここで待っているのだが………。
「来ない!」
セレネがしびれを切らして、立ち上がる。
セレネの気持ちは分かる、もう数時間は座っているかもしれないが誰一人として来ない。
「まあまあ、気長に待ちましょうや」
「サイトはなんでそんなのんびりしていられるんだ!」
まあ、何となくこうなる気がしていた。
辺りを見渡す。
冒険者達が此方をチラチラと見ていたが、此方が目をやると目を逸らされる。
多分だが、一回目のクエストや昨日のクエストでボロボロで帰ってきたせいで、無駄に目立ち、変なイメージを持たれてしまったのだろう。
冒険者達のあの目は哀れみと関わりたくないと言うのが伝わってくる。
セレネはその事に気付いて居ないようだな。
こんなんでは人は集まらない、もしも来るとしたら変わり者か、訳ありの人だろう。
「来ないもんはしゃあない、昨日の傷を癒やしながら待とうか」
「そうか……」
確かにみたい顔をして、席に座り直す。
セレネさんも昨日は疲れただろう、今日くらい休んだって良いと思う。
グ~~
そんな音が聞こえてくる。
そう言えば、朝食を食った後何も口にしていなかったな。
セレネもお腹が空いたのだろう。
「なんか飯でも食うか?
まだ、お昼ご飯食べていなかったよな」
「いいの?」
いつもの元気な声からは想像出来ない、弱々しい声が聞こえてくる。
そんなにお腹が空いていたのだろうか、声がセレネでは無いようだ。
「一週間前から何も食っていないから、もう死にそうですよ」
「何言ってんだ、朝あんだけ食ってただろ……」
セレネの方に振り向くと、そこには茶髪で整った顔が目の前に来る。
「誰!?」
セレネと俺の間に一人の少女が座っていた、見た目はセレネより背が高い高校生位に見える。
茶髪でキラキラとした目、顔はこの世界で多い西洋風の顔では無く日本人の顔立ち、幼く見える。
服装は魔女帽子にローブ姿、手には豆や傷、歴戦の魔術師に見える。
「日本人?」
「にほんじん? 何ですかそれは?」
丁寧な敬語口調だ。
礼儀のある人なのだろう。
日本人だと思ったのだが、違ったか……この世界には色んな顔立ちの人がいるのだな。
「いや、こっちの話だ」
「そうですか」
「いや、ちょっと待て。
どこから現れた? それになに、普通に奢って貰おうとしてるんだよ」
「……」
少女は口を閉じる。
バレたかって顔をしている。
「まあまあ、気にしないで下さい」
「するだろ」
「結局誰なの?」
セレネが口を挟む。
そう、それを聞かなければ話は進まないだろう。
急に俺達の間に入ってきて、平然と飯を奢らそうとする少女が気になり過ぎる。
「私?
私はラトラス・ユナです。ユナって呼んで下さい」
「これはご丁寧に、俺はスズキ・サイトです」
「セレネ・ルシファルトだ」
挨拶をしあう。
この世界は下の名前と上の名前が逆の事が普通なのだが、ユナの方が名前なのか……やはり日本人っぽいけれど、下の名前がしっかりとこの世界の名前だからややこしいな。
「スズキ・サイトですか……ひいおばあちゃんみたいな名前ですね。
まあ、良いですが。
それでは、私はお肉が食べたいです」
「ああ、そうですか。
店主! 何かお肉をって違う!
待て待て、何故まだ奢って貰えると思ってんだ」
「何せお腹が空いているもんでして」
何なんだこの子、ちゃんとしていそうに見えてそんなことないし。
「何か用があるのか?」
「おお!
良く聞いてくれました!
私はメンバー募集を見てやってきたんですよ」
メンバー募集……この子が?
姿は魔術師だが、こんな女の子が冒険者?
来るところを間違えていないだろうか。
「採用」
セレネが前に出てきて、親指を立ててそう言う。
採用早くないか?
まだ、名前ぐらいしか聞いていないのだが。
俺はセレネを掴み、ユナに聞こえないように、小さい声でひそひそと話す。
「おい、勝手に採用にしたけど、あの子で良いのか?」
「せっかく、来たんだよ?
ここで逃したら、もう人が来ないかもしれないよ?」
「それはそうかもしれないが……危険なんじゃないか?」
セレネと一緒にユナの姿を見る。
とても戦えそうには見えない、本当にこんな少女入れて良いのだろうか。
この先、魔王討伐を目標に頑張るのについて来れるのだろうか。
「おい、今こんな子大丈夫か? みたいな顔をしましたね」
「うん」
「うんじゃない! 私はこう見えて天才だし、強いんですよ」
「そうなのか?」
ユナは杖を前に持ってくる。
そして、それをカッコ良く振り回す、とても様になっている。
中二病の俺が何度もピョコピョコと出てきそうになった。
「じゃあさ、一緒にクエスト受けてみならいいじゃない?」
セレネが口を挟む。
確かにそうすれば、こいつの実力を確認する事が出来る。
「そうするか」
「良いですよ! 私の力を見せてやります!」
ーーー
昨日と同じ様に黒い爆弾型の魔物が平野を覆い隠している。
爆弾魔である、昨日かなり倒したと思ったのだが……全然数が減っていない。
「わー、相変わらずキモイな……」
セレネが見渡している。
「おい、近付きすぎると襲われるぞ」
「大丈夫大丈夫、私が魔力を操るのが得意なのを忘れたのか?
魔力を極限まで抑える事だって出来るのだよ。
まあ、魔力を抑えないと殆どの生物は私の周りで生きられないから、いつも抑えてるけどね」
ドヤ顔で此方を見てくる。
何とも殴りたくなる顔なのだろうか、やかましいな。
「本当なのですか? あまり信じられませんね。
魔力から生まれた魔族ですら、魔力を完全に抑える事が出来ないのに普通の人間、ましては常に魔力を抑えることなど、不可能に近いですよ」
俺の後ろでユナはそう言う。
さっきまで「私の力を見せてやる!」とか言ってたのに何故俺の後ろにいるのだろうか……不安しかない。
セレネが俺に近付いてくる。
いや、俺ではなく俺の後ろのユナにだ。
すると突然ユナにデコピンして、手を腰に当てて仁王立ちで此方に喋りかける。
「私は魔王だ。不可能なんてないのだよ」
「ま……おう?」
ユナは目を見開き、セレネを見渡す。
まあ、そういう反応になるよな……俺も時々こいつが魔王であることを忘れかけるのだ。
「何を言ってるんですか……私もそういうお年頃ですが、流石に魔王は騙りませんよ」
可哀想な物を見る目でセレネを見ている。
どうやら、信じてもらえなかったらしい……。
ユナはセレネの肩をポンポンと叩きながら「あまり、そういう妄想はしない方が良いですよ」と言っている。
「わ、私本当に魔王だもん」
「そうですね。魔王ですね。よしよし」
……嫌な予感がする。
セレネは体を震わせる、相当応えたのだろう。
「バカにしたな………フッフッフッそうか。
信じないか、信じないのなら仕方ない、私の力を見せてやろう」
「おい、セレネお前なにする気だ」
次の瞬間、重い何かが体中に乗っかるのが分かる。
力を抜いたら、崩れてしまいそうだ。
後ろにいた、ユナは膝に手をかけ、体から汗が滴り落ちている。
何なんだこの感覚、今まで体験したことのない、呼吸が乱れる、足が震える、汗が止まらない。
セレネの方を見る。
「なっ……」
どうしてそうなったのか、理由は明確であった。
セレネの体から黒い何かが出ている、その黒い何かががうねり巻き付いている。
後ろには黒い物が集まり、セレネの数十倍の大きさもある化け物を生み出している。
「どうだ? これが私の魔力の一部だぞ? 信じる気になったか?」
「し、信じます、信じますから早く閉まって……うっ、げぇ」
ユナが盛大に吐く。
あれはさっき奢ったお昼ご飯だろうか……勿体ない。
「そうか」
一瞬で黒いものがセレネの体へと戻っていく。
体が軽くなり、苦しくなくなる。
ユナは腰を落とし座りこむ、よく見ると下半身が濡れている……。
「うぅ……この年でお漏らしなんて………」
涙目で下を向いている。
可哀想な筈なんだが……何故か、心の底からセレネに感謝している。
ドドドドド!!!
地面が揺れ、大きな音を立てている。
「じ、地震?」
「……これは、まさか」
ユナがある方向を向く、俺もそれに合わせてそちらを見る。
少し離れていた所にいた、爆弾魔達が一斉に此方に向かって来ているのが分かった。
「ま、魔力を出し過ぎた?」
「何やってんだよ」
多分だが、セレネの魔力に反応して此方に気付いたのだろう、魔眼を持たない俺ですら、魔力が見えたのだ、魔物が気付かない筈がない。
クソ、見るだけでもこの前の何倍もの数が此方に向かって来ている、無理だ……これは相手に出来ない。
「い、一旦逃げるぞ」
「う、うん」
体に魔力が流れ出す、それを足へと移し替え地面を踏み込み、普通では出ないスピードで走り出す。
魔力が少ないから、あまり魔力を使いたく無いのだが、流石にあの数を魔力無しで巻ける気がしないので仕方ない。
セレネも俺に着いてきている。
これなら逃げ切れるだろう、危なかった……あんなの本当に死んでしまう。
何か忘れている気がする……。
「ま、待って下さい~、ハアハア」
声のする方へと振り返ると、ユナが両手でしっかりと杖を持ち、走ってきているが、とても遅い。
「ユナ、足に魔力を送って早く来い」
「そんな事言われましても……」
そう言い困った顔をする。
出来ないのだろうか? その可能性はある、魔術師は前線で戦うわけではない、後衛で魔法を打つのが基本、滅多に魔力を体に送る事など無いのだ。
練習しないと、魔力を操作するのは難しい、出来なくても仕方ないだろう。
なら、どうする?
ユナの今のスピードならいつか追い付かれてしまう……。
「セレネ……ユナの元へ戻って援護に向かう、危なかったら魔法を使ってくれ」
セレネの方を見ると、笑顔で此方を見ていた。
何だろうか……ニヤニヤしやがって、可愛いからまあいいが。
「サイトなら、そうすると思ったよ」
「お、俺がそんなに仲間を裏切れない善人だと思ったら大間違いだぞ。
ぜ、全然死にそうになったらお前らを置いて逃げるんだからな!」
「はいはい」
何故か、体が暑い……こいつ急に変な事言いやがって、俺は本当にそんな善人ではないのに。
Uターンを始め、ユナに走り始める。
どんどん迫って来ているので俺は急いで詠唱を始める。
『魔力は天と地をひっくり返し、我らに多大なる力を与えん ウォーターボール』
爆弾魔へと思いっきりウォーターボールを飛ばす、昨日と同じ作戦ではやはりきついだろうが今日は、ユナがいる。
ユナの前へ出る、そして指示を出す。
「ユナ、俺が少しの間あいつ等を抑えるから、一番威力のある魔法をぶっ放せ!
なるべく、広範囲の奴が良い、でも早くしてくれよ、あの量だ十数秒なら耐えられるがそれが限界だ」
「わ、分かりました」
ユナも爆弾魔の方へと向き直り、杖を右手で持ち構える。
準備が出来たのを見て、俺は爆弾魔の動きを止めるために地面に手をつけ、もう一度詠唱を始める。
『魔力は天と地をひっくり返し、我らに多大なる力を与えん ウォール」
小さめな岩の壁を作る。
土魔法は初級でも使える技が多い、火魔法や水魔法のように何も無いところから作るのではなく手に地面をつけそれをいじる事が出来るので少ない魔力で壁を立てる事だって出来る。
なるべく障害物を置く事で時間を稼ぐ。
『魔力は天と地をひっくり返し、我らに多大なる力を与えん フリーズ』
後は昨日と同じ、ウォーターボールと、フリーズを繰り返し打ち、身動きを止めていく。
壁のお陰で少しは抑えられているが徐々に一匹一匹と壁を越えてきている。
これだともう長くは保たないだろう。
ユナの方を確認すると、俺は目を疑った。
セレネがインフェルノを打つ前に魔力が見えたように、ユナの周りにも魔力が渦巻いて見える。
自分の事を天才で強いと言っていたが、嘘では無かったらしい。
『膨大なる力よ、全ての事象を掌握し、この世を覆い尽くし、かのものを滅ぼす偉大なる真紅の魔力を我に与えよーー』
詠唱が終わりかけている。
よし、何とか耐えきった、ユナぶちかませ。
だが、その後ユナは黙り込み、魔力が飛んでいるようには見えない。
どういうことだ?
「おい、ユナ早くしてくれ」
「……」
返事が無い何故だろうか……。
そう思っていると何かの衝撃音が聞こえてくる。
俺は其方を見ると、先程立てた壁が爆弾魔の数の暴力で崩壊していくのが見える。
まずい、もう耐えられない。
だが、ユナは一向に動かない、本当に何をしているんだ。
流石にもう引かないとやばい。
「ユナ、下がらないとまずいぞ」
俺はそう言い、ユナの横を通り逃げようとする。
爆弾魔はジャンプして此方に着こうとしている。
流石にここから走っても爆発に巻き込まれる、そう思った瞬間、ユナの杖が動く。
横に思いっ切り振り回した。
すると、一斉に飛びかかってきた爆弾魔が体が横に真っ二つになり、ボトンと音を立てて落ちる。
「何が起きた?」
驚きで声が出ない。
風魔法で真っ二つにしたのだろうか……いや、風なんて何一つ起こっていなかった。
では、何だ……どんな魔法を使ったんだ?
爆弾魔は仲間が真っ二つになっても歩みを止めない、だが、その度にユナが右左と杖を素早く動かしまた真っ二つになる。
このままやり切れるだろうか……いや徐々に爆弾魔が押しつつある。
それをユナも思ったのかさっきとは全然違うスピードで俺の方へと来る。
そして一緒に走る。
「サイト、すみません先程は無視してしまい、集中していました」
「良いよ。そんな事より今の魔法なんだよ」
「魔法……?」
首を傾げて此方を見てくる。
何か不思議な事を言っただろうか。
そう思っていると、後ろから付いて来た一匹の爆弾魔が此方に飛んでくる。
ユナはそれをもう一度杖を縦に振り、真っ二つに……なっていない。
爆弾魔は地面にめり込んだ状態になった、その上にはユナの杖が乗っている……。
もしかして……。
ユナは後ろに振り向き、杖をさっきより思いっきり横に振る、次の瞬間此方にも風が伝わり、音を鳴らし爆弾魔達をぶっ飛ばす。
「………」
ずっと魔法だと思っていた……これは魔法でも何でもねえ、ただ杖を思いっきり振って攻撃しているだけだ。
杖だけで爆弾魔を真っ二つにしていたんだ……本当にこの世界どうなってんだ………。
ユナは杖を肩に掛けて、仁王立ちをする。
俺はそれをただただ見つめていた。




