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突撃!オリーブのおうち

今回はいつもよりちょっと長めです。

 僕はオリーブの運転するエアカーに乗り、空の旅を満喫していた。飛行機でもないのに空を飛ぶなんて、本当にSFの世界のようだ。

 窓からは綺麗な街並みが見える。僕が住んでた東京と似ているが、それと比べるとごちゃごちゃ感がない。現実の北海道もこんな感じなのかな。


「コーちゃん、もしかしてエアカーに乗るのは初めて?」

「え?」

「だって、さっきからずっと窓から見える景色ばかり見てるんだもん」


 そりゃそうだ、僕のいた世界ではエアカーなんてある訳ないんだから。僕はそんな事を思いながら顔を正面に向ける。

 車の中にはカーナビに似た機械が搭載されてある。これを使い、オリーブが住んでいる家までルート案内してくれるそうだ。


「今日は色々あったなぁ。トヨヒラガワでお散歩してたらコーちゃんに会って、病院へ行く途中にアンドロイドと戦って…。いつもよりちょっと疲れたかも」


 オリーブはエアカーを運転しながらそう呟いていた。…ガイノイドでも疲れる時はあるのだろうか。エネルギーを定期的に補給していれば長時間働いても大丈夫そうなイメージがあるけど。あ、それを言うなら人間だってほぼ同じか。


「そう言えば、コーちゃんって最初からメモリーが壊れていなかったんだよね?じゃあこの場所の事とか本当に知らないの?」


 これまた痛い所を突くなぁ…。この子に悪気はないというのは知ってるけど。これ以上ごまかし続けるのも苦しいし、正直に言うしかないか。


「あ、ああ…。この場所の事は本当に何も知らないんだ」

「ふーん、そうなんだ。…もしかしてコーちゃん、『外から来た者』だったりする?」

「外から来た者?」

「うん。昔ね、こんな話を聞いた事があるの。「この世界には島に住む者と、ここじゃない外から来た者の二つの種族がいる」って。それからね、こんな言い伝えも聞いた事があるんだ。「もしこの島に外から来た者が舞い降りた時、世界は大きな変化を迎えるであろう」って話」


 島というのは、この『ホッカイ』の事を指しているんだろう。それに島から来た者が現れた時、世界は大きな変化を迎える――というのが気になるな。


「大きな変化って、具体的にどういう事なんだ?」

「うーん、そこまでは言ってなかったかなぁ。あくまで言い伝えだからね。…でも、もしコーちゃんがその『外から来た者』とかだったらあたし驚いちゃうよ」


 具体的に何が起きるかまでは分からない、って事か。オリーブも言ってたが、あくまで言い伝えだ。鵜吞みにするのは良くないだろう。

 ――ふと、僕はあの男の事を思い出した。僕をこの世界へ無理矢理連れていった、あの悪そうな声をした男だ。まだこの世界であいつに会ってないけど何者なんだ?あの男は僕の事を探していたみたいだし、そのうち自分から僕の元へやって来る…なんて事はないかな。


「…あ!そろそろあたしのお家に着くよ」


 そうこうしているうちに、オリーブの家が近づいてきたようだ。エアカーは目的地に近づくとゆっくりと下降していく。マンションや一軒家、ビルなどがあちこちにあるごく普通の場所だ。


「ここがあたしの住んでる『ソーエン』って町だよ。ここにある緑地はあたしのお気に入りの場所なの」


 オリーブは僕にそう説明をする。大きなマンションの向かい側に、その緑地はあった。緑地というだけあって緑豊かな場所で静かな雰囲気を出している。昔、僕が小さい頃に母さんとよく言ってた大きな公園を思い出した。

 エアカーは緑地の向かい側にあるマンションの駐車場へと降りていく。どうやら彼女はこのデカいマンションに住んでいるようだ。一軒家に住んでる僕からすればちょっと贅沢かも…。


「…はい、とうちゃーく!」


 車を駐車場に着陸させ、僕とオリーブはエアカーから出た。少しの時間だったけど快適な空の旅を送れたな。


「今日はちょっと遅くなっちゃった。あの子、心配してないかなぁ」

「あの子?」

「うん、あたしのお家で一緒に住んでるお友達の事だよ。あの子はあたしの代わりにお家で色んな事をしてくれるの。ご飯を作ったり服のお洗濯をしたり、あとはお風呂の準備とかもね」

「…その友達、まるで母さんみたいだな」

「うん!とても優しい子だから、コーちゃんもきっと仲良くなれるよ」


 どんな子なんだろう、楽しみだなぁ。僕は期待を胸に膨らませながらオリーブと一緒にマンションの中へ入っていく。マンションは12階建てくらいある大きなマンションで、どこか高級感のある作りだ。それは入口から十分伝わってくる。

 マンションのエントランスに入ると、オリーブは壁に飾ってある機械に手をかざす。オリーブが言うには、この機械は生体認証で正しく読み取る事が出来れば扉が開く仕組みのようだ。実にハイテク。

 正常に認識され扉が開かれると、僕とオリーブはエレベーターに乗る。オリーブは5のボタンを押した。どうやら彼女は5階に住んでいるようだ。


「…はい!ここがあたしのお部屋だよ」


 5階に到着し、オリーブが住む部屋の玄関へ近づく。オリーブはインターホンを押した。


『はーい』

「あ、コガネちゃん!あたしだよ、オリーブ!」

『あっ、お帰りなさい。オリーブちゃん』


 インターホンから優し気な少女の声が聞こえてくる。どうやらこの子がオリーブの言ってたお友達のようだ。

 少し待つと、玄関の扉が開きそこから一人の少女が現れた。


「オリーブちゃん、おかえりなさい…あら?隣にいる人は誰ですか?」


 僕とオリーブの前に現れたのは、キラキラした綺麗な金髪と黄色い目が特徴的な少女。髪型はロングヘアーで、外見年齢はオリーブとほぼ変わらない幼い印象を受けた。

 金髪の少女は晩ご飯の準備をしていたのかエプロンを着けている。彼女のサイズに合った、可愛らしいピンクのエプロンだ。

 そして先ほども言ったが、この子は優しい声をしている。どこかほんわかした感じの子だ。


「えっとね、この人はコーちゃんって言うの。トヨヒラガワでお散歩してたら、突然空から降ってきたんだよ。ビックリでしょ?」

「そ、空から、ですか…」


 金髪の子はオリーブの話を聞いて困惑した様子を見せていた。…とりあえず、ここは自己紹介しないとな。


「ああ、どうも。僕はコウって言います」

「コウさん、ですね?初めまして、私はこの部屋でオリーブちゃんと一緒に住んでるコガネって言います」


 僕は思わず敬語で名乗ってしまった。相手は僕より幼い少女なのに…何考えてんだろう。

 とにかく、この子はコガネという名前のようだ。黄金色だけあってコガネ、って事か?


「えっと、ここでお話するのも何なので中へ入りませんか?」

「あ、ああ」


 僕はコガネという少女の言う通りにし、中へ入る事にした。僕は中に入って最初にリビングのある所へ向かう。リビングは広々としておりとても快適そうだ。

 それから、近くにはキッチンがありそこからいい匂いがする。この匂いはハンバーグに似ているな…。


「くんくん…。コガネちゃん、もしかして今日の晩ごはんはハンバーグ?」

「はい、そうですよ。しばらく食べてなかったですよね?だから今日、近くのお店で材料を買ってきたんですよ」

「わーい!久しぶりのハンバーグだー!」


 オリーブは嬉しそうにぴょんぴょん飛び跳ねる。とても微笑ましい光景だ。というよりこの世界にもハンバーグってあるんだな。ガイノイドの口にも合うんだろうか、それ。


「…コウさん、あなたも良かったら晩ごはんを食べて行きませんか?」

「え、いいのか?」

「はい。今日は材料をたくさん買ってきたので、あなたの分も作れますよ」


 どうやら僕にもハンバーグをご馳走させてくれるそうだ。まだこの家に来たばかりだというのに、何だか悪いなぁ。


「ごはんが出来るまでまだ少しだけ時間があるので、お部屋で待ってて貰えますか?」

「お部屋…って、僕が入れる部屋はあるの?」

「はい、ちょうど使ってない部屋が一つありますので。そこで休んでて下さいね。…あ、空き部屋はここから向こうの方にありますよ。オリーブちゃんが使ってる部屋の隣です。オリーブちゃん、案内して貰えますか?」

「うん、分かった!」


 どうやら空き部屋が一つだけあるらしい。都合いいなぁと思いながら、僕はその部屋へ向かう事にした。

 空き部屋はコガネが言ってた通り、オリーブが使ってる部屋の隣にあった。部屋は空き部屋というだけあって殺風景だが、ベッドや棚、机といった最低限の物が置かれている。以前誰かが使っていた名残が残っているようだ。


「コーちゃんが使う部屋はここだよ。ベッドで横になっててもいいから、ごはんの時間までゆっくりしてね」

「ああ、分かったよ」


 僕は早速部屋にあるベッドで横になった。横になると、今日の疲れが一気に押し寄せてくる。今日は本当に色々あったなぁ…。まさか僕がこの世界に来るなんて、昨日までの自分に言っても信じてくれないだろう。正直今でも信じられないという気持ちだ。

 これから僕はどうなるんだろう。僕は少しだけ不安になる。そもそも何故僕はこの世界に来なければならなかったんだ?スマホから聞こえたあの男は僕の事をこの腐った世界に破壊をもたらす存在だとか言ってたけど、あいつの目的は何なんだ?そのうち分かる時が来るんだろうか。

 …まあ、ここで悩んでいてもしょうがない。今は頼りになる友達も出来たし、普通に生活していればいいだろう。元の世界にいる親が心配だけど。今頃どうしているのかな。


「――コウさーん、ごはんが出来ましたよー!」


 向こうからコガネの声が聞こえてきた。どうやら晩御飯の時間が来たようだ。僕は起き上がり、さっきのリビングへ向かう。

 リビング向かうと、テーブルに出来立てのハンバーグが三人分置かれていた。とても美味しそうだ。


「「「それじゃ、いただきまーす!」」」


 僕たちは晩ご飯を食べ始めた。僕はハンバーグを一口食べる。…うん、美味い!この世界でもハンバーグの美味しさは変わらなくて安心した。


「うーん、やっぱりコガネちゃんの作るハンバーグはおいしーい!コーちゃんもそう思うでしょ?」

「ああ、とっても美味しいよ。まるで母さんの作ったハンバーグみたいだ」

「え、えへへ…。ありがとうございます、コウさん」


 コガネは照れ臭そうに笑っていた。オリーブもそうだけどこの子も可愛いな。髪は綺麗で、声も優しくて。まさに癒し系だ。

 僕たちはハンバーグを食べながら色んな話をした。他愛のない日常から、今日の出来事など…。こうやって楽しく会話をするのって何だか久しぶり。


「…それでね、あたしがあいつに襲われてピンチな時にコーちゃんが助けてくれたんだよ!あたしね、あの時はコーちゃんのメモリーが壊れてると思ってたから不安だったんだ。そんな状態で戦ったら壊れてしまうかもって。それでも、コーちゃんはあたしと一緒に戦ってくれたんだよ」

「そうだったんですね。…コウさん、オリーブちゃんを助けていただきありがとうございます」

「いやいや、そんな」


 僕はコガネからお礼を言われて頭をかく。誰かに褒められるのって最近は殆どなかったから、何だか嬉しい。


「それで、コウさんのメモリーは最初から壊れていなかったんですよね?でもこの世界の事は殆ど分からないと」

「まあ、そんな感じかな…」

「何だか不思議ですね…あっ、だからといってあなたの事を怪しんだりはしませんよ!」

「こ、こんな僕でも受け入れてくるのか?」

「はい。だって、コウさんはオリーブちゃんの事を助けてくれたじゃないですか。だからあなたは悪い人じゃないって、私は信じてますよ♪オリーブちゃんもそう思いますよね?」

「うんっ!ガイノイドに悪い人はいないもん!これからもっと仲良くしようね、コーちゃん!」


 オリーブは僕の顔を見ながらニコニコ笑っていた。他所の世界から来た僕を受け入れてくれるなんて、二人はなんて優しいんだろう。

 ――しかし、疑問が一つだけある。この世界では僕みたいな男は悪人として扱われているらしいが、何故僕はそいつらと違って悪者扱いされないのか。そういやオリーブやヴェロニカ先生、そしてアンドロイドのマーカスは僕の事をガイノイドとして見てたな。ガイノイドって女の見た目をしたロボットの事を指すんじゃなかったのか?

 訳の分からない違和感に、僕は少しだけ恐怖を感じた。僕という存在は一体――何なんだ?


「…コーちゃん?どうしたの、身体が震えてるよ」

「あ、いや、何でもないよ。気にしないでくれ」


 僕はそれだけ言い、ハンバーグを食べ続けた。

 晩ご飯を食べ終えると、僕とオリーブは自由時間に入る。その間にコガネは食器を片付けたり、お風呂を沸かしていたりしていた。後で僕も入ろう。

 僕はさっきの空き部屋に戻り、再びベッドに横たわる。やはりここで横たわるのはいいもんだ。


「――コウさーん、オリーブちゃーん!お風呂が沸きましたよー!」


 向こうからコガネの声が聞こえてくる。どうやらお風呂が沸いたみたいだ。オリーブと僕、どっちが最初に入るか話し合おう。

 僕は部屋から出てオリーブにどちらが先に入るか話し合う。…しかし、オリーブはどうやら僕と一緒に入りたいとか言い出した。僕はオリーブにごめんと一言だけ言い、洗面所へ向かう。着ている服を洗濯カゴの中へ入れ、僕は浴室に入る。

 浴室も広々とした所だった。正面に細長い鏡、右側には丸めな形をした大きな浴槽。左側にはシャンプーなどがたくさん積んである棚が飾られている。まるで旅館にありそうな、贅沢な浴室だ。僕は一軒家に住んでいるので凄い贅沢に感じた。

 僕は軽くシャワーを浴び、そのあと湯船にゆっくりと浸かる。暖かくて気持ちいい。一日の疲れが一気に吹き飛んでいきそうだ。ふー。

 そんな高級感溢れるお風呂を満喫していると、誰かがドアをノックする音がした。


「…コーちゃん、どうしてあたしと一緒に入ってくれないのー?」


 この声はオリーブだ。僕と一緒に入るというのはまだ諦めていないらしい。そんな事言われてもなぁ…。女の子と一緒に入るなんて、相手が親戚や恋人でもない限りあり得ないもんな。


「ご…ごめん、オリーブ。僕、誰かと一緒に入るなんて慣れてなくてさ」


 とりあえず、僕は適当にごまかす。


「どうして?あたし、あなたの事をもっといっぱい知りたいの。悪い事じゃないでしょ?」

「いっぱい知りたいって…」

「さっき言ったでしょ、これからもっと仲良くしようって。誰かと仲良くするにはどこでもお話するのが一番だってお母さんも言ってたよ」


 …この子は僕ともっと仲良くしたいようだ。その気持ちは本気だという事が伝わってくる。しょうがない、ここは彼女に付き合うとしよう。


「ああ、分かったよ。一緒に入ろう」

「ほんと?ありがとう、コーちゃん!ちょっと待っててねー!」


 オリーブは嬉しそうな声を上げながらお風呂に入る準備に入っていった。…僕も準備をせねばならない。女の子と一緒に入る、という準備を。何だかドキドキしてきた。


「コーちゃん、おまたせー!」


 オリーブはドアを勢いよく開ける。――僕の目の前に現れた光景。それは、未成熟な少女の裸体だった。

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