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僕、ガイノイドになってました!?

「し、失礼します」


 僕は診察室へ入り、軽く挨拶をする。部屋の中は思っていたよりも普通だった。白くて細長いデスクとその上に置いてあるパソコン、診察や治療で使うたくさんの小道具。壁際にはベッドと吊り下げられたカーテンもある。こういう所も元の世界の病院と変わらないんだな、と僕は思った。


「こんにちは。貴方がオリーブちゃんのお友達のコウちゃん、で合ってるわよね?」


 部屋にいる医者が僕を見ながらそう聞いてきた。ピンクの長い髪と少しつり目な若い女性だ。白衣の下からチラッと見えてる足が実にセクシーで、大人の色気という物を感じさせる。

 …まるで、昔読んでたちょっとエッチな漫画に出てくる女性キャラみたいだ。しかしこの人はアニメや漫画のような架空の存在じゃない。現実の人なんだ。


「あら、どうしたの?体が固まってるわ。…もしかして、緊張しているのかしら?」

「え?ああっ、いやいや!緊張はしてないですよ!いや本当に」


 僕は慌ててそう言い返す。…僕とした事が、あの人の色気にやられかけていたようだ。だが彼女の言う通り緊張もしていた。この病院はガイノイドが通う場所だから、人間の僕がここに来たらどうなるのか。治療の途中で僕が人だとバレてしまったら一体どうなるのか――考えただけでも怖くなってくる。覚悟はしているとはいえ、この気持ちは変わらなかった。


「ええと…僕の事は既にあの子から聞いたんですか?」

「そうよ。貴方、空から降ってきたんですってね。空から何かが降ってくるなんて滅多にある事じゃないわ。よく生きてたわね」

「は、ははは…。正直、僕も驚いてますよ」


 僕は頭をかきながら笑う。


「――と、自己紹介がまだだったわね。私はヴェロニカ、ここの院長よ。この病院は受付のエイダと一緒に経営しているの。それからね、エイダは私の友達なのよ」

「へぇ、そうなんですか」

「そういう事。…それよりコウちゃん、貴方はメモリーが破損しているのよね?早速、治療に取り掛からないとね」

「わ、分かりました…」

「それじゃあ、あそこのベッドがある所に座って」


 僕はヴェロニカと名乗った医師の言う通りにし、ベッドのある所へ向かう。…そこに座ると、緊張がどんどん強くなっていくのを感じる。僕は今から何をされるのか。


「コウちゃん、体が震えてるわよ?記憶回路を治すのがそんなに怖いの?」

「ああ、うん…まあ」

「大丈夫よ、そこまで怖いもんじゃないわ。貴方の頭に入ってるディスクを取り出してそれを解析し、異変が起きてる箇所を修正すれば――それでおしまいよ」

「ディスク?」

「そうよ。ディスクの中には今までの記憶が詰まっているわ。どこで製造されたとか、今日食べた物とか、色々ね」


 …要するに、人間で言うと「脳」みたいなもんか。


「それじゃ、リラックスして。今から貴方の頭にちょっとだけ触れるわよ」


 そう言うと、ヴェロニカ先生は手を伸ばし僕の頭に触れようとする。当然、僕の頭にはディスクなんて物は入っていないはずだ――。


"ウィーン"


「へ?」


 ヴェロニカ先生が僕の頭に触れた途端、突然どこからか機械の音が聞こえてきた。まるで何かを取り出したような音が――って、えっ!?


「ちょっ…ええっ!?」


 目を上に動かした途端、僕は思わず飛び上がりそうになる。…とても信じられなかった。まるで悪夢でも見ているかのような、あり得ない状況。

 そう、僕の頭からCDのような物が飛び出してきたのだ。


「あらあら、何をそんなに驚いているの?」


 先生は驚いてる僕を見て不思議そうに言う。この世界の人(ガイノイド?)からすれば常識の事だろうが、別の世界から来た僕にとっては非現実的すぎる出来事だ。まさか頭からディスクが出てくるなんて誰が想像できるだろうか?


「とにかく、ディスクを取り出して解析するわ。ちょっと待っててね」


 ヴェロニカ先生は僕の頭から出てきたディスクをそっと取る。――すると、僕の意識が突然ぷつりと切れた。




「――はい、終わったわよ」


 僕は先生の声で目を覚ます。気が付くと僕はベッドで仰向けになっていた。

 …まださっきの得体のしれない感覚が残っている。僕は悪夢でも見ているのだろうか。そんな事を思いながら、僕は起き上がり先生のいる方へ顔を向けた。


「えっと…さっき何をしたんですか?」

「何って、貴方のディスクを抜いたのよ。別におかしい事ではないでしょ?」

「は、はあ」


 僕からすれば十分おかしい事だけどな。うーん、カルチャーショックのオンパレードだ。


「それで、貴方のメモリーを解析してみたんだけど…。意外な事に、どこも破損している所が見られなかったわ。それどころか殆どが未知の言語で書かれていてまともに解析が出来なかったのよ」

「未知の言語?」

「ええ、そうよ。あまりにも奇妙だったから思わず写真を撮ってみたわ。どんなのか見てみる?」


 僕は先生が撮った写真を見てみる事にした。その写真には日本語で色々な事が書かれている。一部しか写っていないが、これは…僕の中学の時の記録のようだ。学校でクラスの連中からいじめられている時の記録――。

 くそっ、よりによってこんな嫌な思い出をピックアップするなんて。先生に悪意はないというのは分かっているけど…。


「どう?貴方にはこれが何か分かるかしら?」


 先生は僕にこの文字が読めるかどうか聞いてきた。…どうする?ここも正直に言わずごまかすべきか。でもここでごまかしたら余計面倒な事になりそうだしなぁ。うーん…。


「…すみません、僕にもさっぱり読めないです」


 悩んだ挙句、僕は文字が読めないと結局ごまかす事にした。


「そうなの。それは残念ね…。あ、文字と言えばもう一つ。さっき貴方のメモリーを解析した際に気づいたけど、言語翻訳機能が何故か失っていたみたいなの」

「言語翻訳機能?」

「そうよ。この機能を入れておかないと、文字の読み書きすら出来ない状態になってしまうわ。そうなったらまともに生活するのは難しいでしょ?とりあえず、貴方のディスクに余っていたデータを入れておいたわ。これでまた文字が読めるようになるはずよ」


 ガイノイドにはそんな機能も入れてあったのか…。そういやさっき病院へ入る前にあった看板、謎の文字で書かれていたけど。今だったらちゃんと読めるようになっているのかな?後でここから出た時に確認してみるか。


「じゃ、これで治療はおしまいよ。お疲れさまでした」


 どうやらこれで治療は終わりのようだ。途中どうなるかと思ったけど、とにかく無事で終わったのは何よりだな。


「ありがとうございました」


 僕は先生にお礼を言い、診察室から出ようとした。


「――あっ、ちょっと待って。コウちゃん、もしよかったらだけど…」

「?」


 出ようとした途端、突然先生が僕を引き留める。


「今度、貴方の事について色々と聞かせて貰えるかしら?コウちゃんのメモリーに書かれていた解析不能な文字や、言語翻訳機能が入ってなかった事とか、貴方のようなガイノイドを見るのは初めてだから色々と興味深いと感じたの」


 この人は僕について色々と知りたがっているようだ。うーん、どうしよう。さっきも言ったけど正直に言ってもごまかしても面倒な事になりそうで怖いんだよなぁ。


「強制はしないわよ。時間があったら、でいいわ」

「…考えておきます」

「分かったわ。引き留めてごめんなさいね、コウちゃん。それじゃ、お大事に」


 僕は先生にそれだけ言って、診察室から出た。…この世界に慣れて気持ちに余裕が出たら、また行ってみようかな。


「…あ、コーちゃん!治療は終わったんだね!」


 待合室に戻ると、オリーブが僕の顔を見ながら嬉しそうに言ってきた。


「ああ、終わったよ」

「よかった!それで、メモリーは戻ったの?」

「え、ええと…実は僕、最初からメモリーは壊れていなかったみたいなんだ」

「えっ、そうなの!?ふっしぎー。でもさっき、コーちゃんが普通に戦って何ともなかった理由が分かったかも。なんて」


 オリーブは驚きながらも納得しているようだ。この子はまだ小さい子供みたいだし、あまり深い事は考えないのかもな。僕としては都合がよいけど。

 とにかく僕とオリーブは治療を終え、会計に入った。オリーブは腕時計型の収納ケースにしまってあるブルーストーンをたくさん取り出し、それをエイダさんに渡す。なるほど、この世界ではこうやってお金を払うんだな。僕もいつかは一人でやる時が来るだろうし、今のうちにじっくりと見ておこうか。


「ありがとうございました。お大事に!」


 会計を済ませて待合室から立ち去ると、エイダさんが僕たちに挨拶をしてくれた。

 病院から出ると、外はさっきより暗くなり始めている。どうやらもう夕方のようだ。


「もうすっかり暗くなってきたね、コーちゃん。そろそろお家に帰らないと…。ね、コーちゃんはこれからどうするの?」


 オリーブが僕にそう聞いてくる。…僕にはこの世界に帰る場所なんてない。ここで彼女と別れれば僕は一人ぼっちになる。それに、またマーカスのようなアンドロイドに出くわす危険性もあるし…。

 よし、ここはオリーブに付いていこう。


「そうだな…。オリーブ、もしよかったら君の家まで案内してくれないか?」

「え?コーちゃん、あたしのお家に行きたいの?」

「ああ。君には色々と助けられたし、それに僕一人じゃ心細いからな…。お邪魔しても大丈夫かい?」

「うん、いいよ!あたしもあなたとまだ一緒にいたいって思ってたんだ。えへへ」


 オリーブは僕の頼みを受け入れてくれた。ありがとう、オリーブ。

 …あ、そうだ。今のうちに病院の看板を見ておこう。


「?どうしたの、何か忘れ物でもあった?」


 僕は後ろを振り返り、病院の看板を見る。看板には「ヴェロニカ・クリニック」と書かれていた。…読める、読めるぞ。言語翻訳機能とやらは正常に動いているみたいだ。


「…ああ、何でもないよ。気にしないでくれ」

「ふーん。…じゃあ、今からあたしのお家に案内するね!ちょっと待ってて」


 そう言うと、オリーブは収納ケースに触れ何かを準備し始めた。


「何やっているんだ、オリーブ?」

「何って、あたしのエアカーを出す準備をしているんだよ」


 え、エアカー!?エアカーって、あの昔のSF漫画とかに出てくる空飛ぶ車みたいな奴か?そんなもんがこの世界にあるとでも…。


「…はい、これがあたしのエアカーだよ。じゃーん!」


 オリーブが収納ケースをワンタッチした途端、そこから何かが転送されるように飛び出してくる。

 出てきた物体は、車に似た乗り物だった。しかしタイヤは付いておらず、逆に乗り物の左右には翼が付けてある。色はオリーブの着ている黄緑色のワンピースと同じで可愛らしい感じだ。


「どう?これがあたしの持ってるエアカーだよ。小さくて可愛いでしょ?」


 どうやらこれが、彼女の言う「エアカー」のようだ。…まさか、本当にこんな乗り物が実在するなんて。ガイノイドやアンドロイドもそうだが、まるでSFから飛び出してきたような世界だな。もうここまで来たら何でもこいだ。

 …というかこれ、オリーブが乗って運転するのか?こんな小さい子供が?


「それじゃ、早くエアカーに乗って!あたしの隣の席に乗ってもいいよ」


 オリーブはそう言うとエアカーの右の方へ向かい、ドアを開けて運転席に座る。どうやら本当にこの子が運転するようだ。僕は彼女に言われた通り運転席の隣、助手席の方へ座る事にした。

 エアカーは小さいとは言ってたものの、中は運転席を含め4人座れるようになっており一般的な車とあまり変わらない。


「オリーブ、君はエアカーの運転が出来るのか?」

「そうだよ。乗れるようになるまでは大変だったけどね。ほら、ちゃんと免許だって持ってるよ」


 オリーブは収納ケースから免許を取り出し、僕に見せてきた。この世界も乗り物に乗る為には免許が必要なんだな。僕のいた世界では大人にならないと乗れないけど、こっちだとそうでもないのかな?という事は、僕もその気になれば免許取れるかも。


「シートベルトはちゃんと付けたよね?」

「あ、ああ」


 僕は急いで車内にあるシートベルトを締める。どの世界でも安全確認は怠らないって訳だ。

 オリーブはエアカーのエンジンを入れ、その後に足にあるペダルを踏む。すると機体がゆっくりと宙に浮き始めた。本当に空を飛ぶんだ、この車…。


「…じゃ、あたしのお家までしゅっぱーつ!」


 彼女の一声と共に、エアカーは本格的に空を飛び移動し始めた。

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