ガイノイドとアンドロイドの戦い!
「こ…コーちゃん!メモリーが壊れてるのに戦っちゃダメだよ!」
オリーブは僕のいる所に駆け寄りながらそう言ってくる。…だが僕は、相手を遠くまで殴り飛ばしたという現実を受け入れる事が出来ず、頭がいっぱいになっていた。
そもそも僕じゃなかろうと、生身の人間がロボットを殴り飛ばすなんて出来る訳がない。それは頭の悪い僕でも十分知っている事だ。
「コーちゃん!あたしの声、聞こえてる!?」
「…え?ああ、ごめん。頭の中がいっぱいになっててさ」
隣からオリーブの声が聞こえた事で、僕はすぐ正気に戻った。
「あのね、よく聞いて!メモリーが破損している状態で戦うのは危険だってお医者さんが言ってたの!もしこのまま戦い続けたら最悪、身体が耐えられなくなり消えてしまうって…!」
「き、消える…!?」
僕は今の発言を聞いてゾッとした。消えてしまうって、つまり死ぬと同じ事だよな?なんて恐ろしい…!
「うん!だからコーちゃん、ここはあたしに任せて!」
「任せてって…オリーブ、君は戦えるのか!?」
「もちろんだよ!あんな奴、今まで何回もあたし一人で倒してきたんだもん!だから今回も大丈夫だよ」
オリーブは自信満々に言う。…心配だが、僕がこれ以上戦ったら余計にあの子を心配させてしまうだけだ。ここは彼女を信じよう。
「――!コーちゃん、下がって!」
オリーブがそう言った瞬間、向こうから何かが突っ込んできた。オリーブは両手を使い、それをがっしりと受け止める。小柄な女の子とは思えない力だ。
「うぐぐぐ…!」
「…ちっ、俺の突進を受け止めたか。しかしさっきは油断したぜ、まさかメモリーがぶっ壊れてるってのに殴ってくるとはよぉ」
突っ込んできた物の正体は、さっきのチンピラ風の男だ。どうやら突進しながらこちらへ戻って来たらしい。あの距離から一瞬で戻ってこれるとは、さすがはロボットというべきか。
「そこのお前、その様子だとまだ元気そうだな。だが次はどうするつもりだ?身体が消えるのを覚悟でこのマーカス様に挑む気か?」
マーカス――僕たちに襲いかかる男はそういう名前のようだ。
「そ、そんな事はさせないもん…!あんたはあたしが相手だよ!コーちゃんには指一本触れさせないんだから!」
「…ふん、まあいい。もう一人の奴はお前を始末してからでも遅くはねえか。いいぜ、ガキンチョ。相手をしてやる」
「もうっ、いつまでもあたしの事をガキンチョって呼ばないで!あたしにはオリーブっていう名前があるんだからっ!」
マーカスはオリーブから離れると、再び両手を変形させて銃を取り出しマシンガンのように撃ちまくっていく。しかしオリーブはその攻撃を次々とかわしていった。
…す、凄い。まるでアクション映画のワンシーンを見てるかのようだ。
「ふふーん、これくらいの攻撃じゃあたしには一つも当たらないよ――きゃっ!」
しかし、マーカスの放った銃弾の一つがオリーブの顔に命中してしまう。オリーブは攻撃を食らいその場に滑り落ちた。
「大丈夫か!?オリーブ!」
「あいたた…あたしったらすっかり油断しちゃったよ~。でもこれくらい平気だよ、コーちゃん!」
オリーブは僕の方を見ながら笑っている。よく見るとおでこの部分に球が当たった痕が出来ていた。だがそれでもオリーブはピンピンしている。人間だったら明らかに致命傷、いやほぼ即死だろう。
「へっへっへっ、油断したみてえだな!次はこれでも食らいやがれ!」
マーカスは頭のモヒカンに手を触れると、それを飛び道具のように飛ばしてきた。…あれ、飛び道具としても使えるのか!?まるで特撮の巨大ヒーローが使う技みたいだ。
「わわっ、危ない!」
オリーブは慌てて飛んできたモヒカンを避ける。しかし、僕はブーメランのようにモヒカンが戻って来るのを見逃さなかった。
「オリーブ、後ろだ!戻って来るぞ!」
「え?…わっ、本当だ!」
オリーブは戻って来るモヒカンを急いで避けた。だがモヒカンは奴の頭に戻るという事はなく、またまた彼女に向かって飛んでくる。
「ひゃはっ、どこまで避けきれるかなぁ?」
マーカスはオリーブをからかうように笑う。あのモヒカンが彼女に当たるまで攻撃をし続けるんだろう。頑張って避けてくれ、オリーブ!
「…しつこいよ、もうっ!こんなの壊しちゃうもんね!」
避け続けるのに痺れを切らしたのか、攻撃を回避するのを止めて立ち上がる。オリーブは右手を前に突き出すとそれが変形していき、どこかのゲームで見た事がある――アームキャノンへと変わった。
オリーブはそのアームキャノンから次々と球を放ち、飛んでくるモヒカンを撃ち落とそうとする。だがモヒカンは球に当たっても怯む気配は見せず、まっすぐ彼女のいる所へ突っ込んでくる。
「あ、あれ…!?全然効いてないっ!」
「へっへっへっ、馬鹿なガキンチョだぜ。俺様のモヒカンはダイヤモンドで出来ているんでな。お前の弱っちい攻撃は一切効かねえって訳さ!」
どうやらあのモヒカン、想像以上に固い代物らしい。
「そ、そんなの効いてないよ――きゃあっ!」
やがて、モヒカンはオリーブの身体に直撃した。オリーブは軽く吹っ飛び、仰向けに倒れる。
「ああ、もう…!あたしのお気に入りのワンピースが傷ついちゃったよぉ…」
「へへっ、自分の着ている服を気にしている余裕があるのか?もうじきこの俺の手によって壊されるのになぁ」
マーカスが倒れているオリーブの所へ近づきながらそう言った。
「オリーブ!大丈夫か!?」
「だ、大丈夫だよ!あたしはまだ戦える――あれっ!?」
オリーブは自分の身体を起き上がらせようとするも、何かに突っかかったらしく動こうとしない。
「おっと、お前の身体を動かせないようにしといたぜ。俺様のモヒカンにはもう一つの特徴があってな、刺さった物を固定出来るようになってんのよ。なかなかイカしてるだろ?」
「そ、そんなの全然羨ましくなんかないもん…!ううっ、動けないよぉ!」
そうこうしているうちに、マーカスがオリーブの目の前まで来ていた。
「…動かないあたしにこのままトドメをさすつもり、だよね?」
「ご名答」
「でも、残念でした!あたしの右腕はまだ自由だもん――」
「おっと!」
彼女が右腕を上げた途端、マーカスはそれをがっしりと押さえ付ける。
「へへっ、これでお前は本当に何も出来なくなったぜ」
「ぐううっ…で、でも、片手だけであたしを倒せるの!?」
「簡単さ。何なら今試してみるか?この片手でお前の頭を粉砕してやるよ…!」
マーカスは片手を振り上げ、オリーブの頭を狙おうとする。…このままではオリーブが危ない。何とかしてでもあの子を助けなければ!
「や、やめろ――っ!!」
僕は叫びながら走った。拳を握り、マーカスがいる所まで全速力で走る。
「ひゃはは…うん?」
マーカスが僕に気づく。しかしちょうど気が付いた時、僕は奴のすぐ間近にいた。
僕はマーカスの腹にパンチを一発ぶちかます。
「ぐおっ…!?」
パンチが奴の腹に入ると、その衝撃でマーカスの身体が少し浮かぶ。僕はすかさずもう片方の拳を、今度は顔を思いっきり殴りつけた。
「ぐ、ぐああ…!!」
マーカスは上に飛び、その後まっすぐ下に落ちていった。あいつがこの橋の上に落ちるとその衝撃でドスンという音と砂ぼこりが舞う。
――よし。何とかオリーブを助けたか…。
「こ、コーちゃん…?どうして、そんな身体で私を助けたの?危ないから戦っちゃダメだってあれだけ言ったのに」
オリーブは心配そうにしながら僕に聞いてくる。…この子を助けた理由。それはたった一つのシンプルな事だ。
「…そんなの決まってるだろ、オリーブ?君があいつに倒されそうだったから助けた。ただそれだけだよ」
「で、でも…!コーちゃん、身体の方は大丈夫?」
「ああ、全然平気だ。だから心配しないでくれ」
そもそも僕は初めから記憶を失っていないから、身体が壊れる訳ないんだけどな。ははは…。