スマホのアプリを開いたら異世界に転移しちゃいました
今日から新しい小説の投稿を始めます。
王道ファンタジー系とは違う世界観ですが、楽しんでいただけたら幸いです。
「――ふう、今日も疲れたなぁ」
僕は自分の部屋に入ると、ベッドの上で仰向けになりながらぼやく。
…僕は今、学校が終わって帰宅したばかり。一日の授業が終わるとまっすぐ家に帰り、そのまま自分の部屋に引きこもるのが日課だ。
ご飯を食べるのとお風呂に入るの、顔洗いや歯磨きの時以外はずっと自分の部屋にいる。何故ならそれが一番落ち着くからだ。
――僕の名前は中村光司、16歳。生まれも育ちも東京で、高校に通っているごく普通の少年。
趣味は漫画を読む事やゲームをする事、それからアニメ鑑賞。苦手な物は勉強全般だ。
学校での生活はというと――正直に言えば、楽しいとは思えない。さっきも言ったように勉強は苦手なので、成績は下から数えた方が早いという有り様。そのおかげで先生や両親から叱られる事も多く「将来が心配だ」という言葉を何度も何度も聞いてきた。
それだけじゃなく、成績が悪いという理由で同じクラスの連中からいじめられる事も多い。中には僕の事を心配してくれる子もいるけど、そういうのは少数派だ。
(あーあ、最近面白い事が全然ないなぁ)
天井を見ながら、僕は心の中でそう呟く。
高校に入ってからだ、退屈な日々を送っているのは。学校に行っても授業についていけないし、さっきも言ったように皆からいじめられてばかり。家に帰った所で待っているのは親からの説教。
僕は説教という物が嫌いだ。だから親からの説教は基本無視し、部屋にこもって自分の好きな事をしている。漫画を読んだりゲームをしたり、スマホで動画を観たり。それが僕にとって唯一の楽しみだ。
…だけど、最近はそれをしても楽しいと感じなくなってきた。ただ無駄な時間を浪費しているだけ――という考えが日々どんどんと強くなっていく。
もしかして、僕は疲れているのだろうか?…あり得るかもな、ははっ。
僕は自虐的にそう笑いながらカバンからスマホを取り出す。無駄な時間を浪費しているとか言っておきながら、何だかんだでスマホは僕に欠かせないアイテムだ。とりあえず、いま自分が推してる配信者の動画でも観るか…。
「…ん?何だ、これ」
僕はスマホの電源を入れると、ホーム画面に見慣れないアイコンがある事に気づく。アイコンには日本の北海道全体図にそっくり――というより、まんま?な絵が描かれており、その下には英語で『Hokkai』と書いてある。
…何なんだ、これは?こんなのインストールした記憶は全くないが…。まさかウイルスとかじゃないよな?
僕は恐る恐るそのアイコンをタップすると、スマホの画面が真っ暗になる。起動準備に入ったようだ。だが、画面が真っ暗なままで何も進まない。
「…ああ?フリーズでもしたのか?」
僕はスマホの画面をスワイプしてみたが、全く動かない。くそっ、どうなっているんだ?とりあえずスマホを強制終了させるしかないか――と思った、その時。
"――そこのお前よ。私の声が聞こえているか?"
突然、スマホから低い男の声が聞こえてきた。いかにも怪しい、悪の組織の首領みたいな感じの声だ。
「だ、誰だ、あんた…!?」
僕は真っ暗なスマホから響く声を聞いて怖くなり、震えた声で言う。
"――ほう、どうやら私の声が聞こえているようだな。やはり私の考えに狂いはなかった…!ついに、私はこの世界の真実にたどり着いた!私の唱える『向こう側の世界』は実在したのだ!"
この世界の真実?向こう側の世界?何を言っているのかさっぱり分からないぞ。
"――私はずっと探していたのだ。この腐った世界に破壊をもたらす者を。そして、私たちのような迫害を受けた者に救済をもたらす存在を。さあ、私のいる世界へ来るのだ"
ちょっと待ってくれ。本当にこいつは何を言っているんだ?
…どうやらこの男は僕を探していたらしいが、身に覚えのない人からの頼みを引き受ける勇気は当然ながらない。は、早くスマホを強制終了しないと…!
"――何をためらっている?恐れる必要はない、今すぐこちらへ来るのだ。さあ、さあ…!"
スマホの電源ボタンに触れようとした瞬間、突然スマホから黒い手のような物が次々と飛び出してきた。
「うっ、がああ!?」
黒い手のような物は僕の両手両足をガッチリと縛り付ける。力が強く、体の自由がきかない。
くそっ、こいつ…!放せ、放しやがれ!
"――無駄だ、お前はもう私から逃れる事は出来ない。私はお前がどうしても必要なのだ。腐った世界でのうのうと暮らす輩に真実を思い知らせる、貴重なサンプルが!"
サ、サンプルだって…!?こいつは僕を物として利用するつもりか!そんなのだけは絶対に…うわっ!
"――さあ、こちらの世界へ来るがいい!!"
男がそう言った瞬間、僕は黒い手のような物と一緒にスマホの中へ引きずり込まれる。それは一瞬の出来事だった。何が起きてるのかさっぱり分からないまま、僕はスマホの中へ無理矢理入りこまれていく。
「な、なんだ、これ…!?」
気が付くと、僕の前に北海道の形にそっくりな緑の島が現れる。ホーム画面のアイコンの奴と同じだ。信じられない事だが、本当にスマホの中に入ってしまったのか?
緑の島はどんどん僕に近づいてくる。――いや、正確に言うと僕の方があの島に近づいているんだ。だって、今の僕はスカイダイビングのように地面へ落下しているんだから…!
僕はひたすらに落下し続けていると、ビルやマンションらしき物が見えてきた。そしてその近くには川と思われる物が見える。
――まずい、このままだと僕は川の中へ激突してしまう!
「だ、誰か助けてくれ――っ!!」
僕は大きな声で必死に叫ぶも、当然無意味な行動だった。僕はそのまま川の中へ激突していくのであった…。
「――ねえ!そこのあなた、あたしの声が聞こえてる!?」
…暗闇の中から誰かの声が聞こえる。さっきの怪しい男の声とは違う、可愛らしい少女の声。僕はその声を聞いて意識を取り戻し、少しずつ目を開いていく。
「う、ううん…」
「あっ、気が付いたみたいだね!」
僕の目に映ったのは、緑色の髪をした少女が僕を覗き込んでいる光景だった。そして、綺麗な青空――。少女は僕が意識を取り戻した事で喜びの表情を見せていた。
僕はゆっくりと体を起こすと、片手で顔を覆う。
「ねえ、大丈夫?突然空からあなたが降って来たんだからビックリしちゃったよ…」
「空から――」
さっき起きた出来事は夢ではないらしい。あんなに高い場所から落ちたってのによく生きてたな、僕…。どうしてだろう?
そう不思議に思いながら僕は周りを見回す。まず、僕の目の前にあるのは川だ。僕の住む東京にある多摩川と似ている。そして横には大きな橋、向こうにはビルやマンションがたくさん並んでいる。どうやらここは河川敷のようだ。
「ねえ、この辺だと見かけない子だけど…。あなたの名前を聞かせてくれる?」
緑色の髪の少女は僕に名前を聞いてくる。とりあえず、ここは正直に言っておくか。
「ああ、僕は中村光司って言うんだ」
「ナカムラ…コウジ?」
僕が名を名乗ると、少女は不思議そうに首を傾げる。…そんなに変なのか?僕の名前。
「な、何だよ?」
「…あ!ううん、ごめんね。あなたがあまりにも変わった名前をしているからちょっとだけ困っちゃって」
「そ、そんなに変か?」
「うん。あなたみたいな名前のガイノイドって他にいないんだもん」
が、ガイノイド!?ガイノイドって確か、女性の見た目をしたロボットの事を言うんじゃなかったっけ。…この子は人間じゃないのか?
「ん?どうしたの、そんなに驚いた顔して」
「あ、いや…。ガイノイドと聞いてビックリしたからさ」
「え、そんなにビックリする事じゃないでしょ?この世界に住んでる人はみーんなガイノイドだもん。常識だよ」
…この世界ではガイノイドがいるのが常識なのか。じゃあ、僕と同じ人間はいないのだろうか?あまりにも妙だ。
「あ、そうだ。あたしの名前を言うのを忘れてたね。――あたし、オリーブって言うの!」
緑髪の少女はそう名乗った。――オリーブ。それが彼女の名前のようだ。