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第2話 俺は異世界の常識に何かおかしいと疑問を抱いた

 魔法適性の儀式を受けたあの日から約1年の時が経ち、俺は今日も父さんと庭で互いに向かい合って木製の剣を構えていた。


「さぁ、ジャック!どこからでもかかってこい!」


「言われなくてもわかってるよ、父さん!」


 あの日から父さんは魔法が使えない俺に毎朝、剣の稽古をつけてくれるようになった。

 稽古の内容は模擬戦で最初は全く歯が立たなかったが、今となっては2〜3回は連勝できるようになってきた。


 そして俺は父さんに向かって走り出し剣を振るい、それを父さんは必死に全て防いでいた。


「くっ!?前よりも剣の速度が上がったんじゃないか、ジャック!」


「父さんこそ、前より防ぐのが上手くなったよね!」


「ハッハッハ、嬉しいことを言ってくれるじゃないか!だがなジャック、上手くなったのは防ぐことだけではないぞ!」


 父さんはそう言い剣を受け流して俺に隙を生ませ、剣を大きく振りかぶった。

 今から振り抜いた剣で防ごうとしても間に合わないし、仮に防げても俺より体格や力が上回っている父さんの攻撃を不安定な体勢で防ぎ切れるわけがない。


 もう流石に先手必勝で攻撃の隙を与えない戦法は使えないか。

 そんなことを思いながら空いている手で、隠し持っていた物を振り返りざまに父さんに向かって投げた。


「うおっ、何だ!?」


「油断したね、父さん!」


 投げたのは昨日の夜に自作した木製の小さなナイフで、当たりはしなかったが父さんはそれに驚き仰け反った。

 俺はその隙を見逃さず足を引っ掛けて父さんに尻餅をつかせ剣の切っ先を喉に向けると、父さんは両手を上げて笑いながら降参した。


「いやぁ、参った!ますます腕が上がっていくな、ジャックは。」


「いや、父さんが毎日稽古をつけてくれてるお陰だよ。それに今回は作戦勝ちみたいなものだし。」


「何を言ってるんだジャック、勝利を掴むために作戦を立てるのは当たり前だ!それに…」


 父さんはそう言いニヤリと笑うと、お前のことはお見通しと言わんばかりに続けて言った。


「力で敵わないとわかっているからこそ、いつも俺に攻撃の隙を与えないようにしてるんだろう?」


「ははっ、模擬戦では勝ったけど…父さんにはやっぱり敵わないね。」


 そう言い父さんの手を握って立ち上がらせると、父さんは落ちたナイフを拾い、俺も使ってみようかななんて言って家に戻った。

 その後は素振りと家の周りを走り込むトレーニングをしていると、玄関から母さんが出てきて俺のことを呼んだ。


「ジャック〜、お昼ご飯よ〜」


「わかったよ母さん、すぐに戻るよ。」


 俺は返事をしてペースを落としながら玄関に向かい家に入った瞬間、母さんが手に持ったタオルで俺を拭き始めた。


「あらあら、今日もたっくさ〜ん頑張ったのね。ジャックは偉いわね〜」


「か、母さん!?汗なら自分で拭くよ!」


「だ〜めよ、ジャックは疲れてるんだから。疲れてる時にはママにた〜くさん甘えるのよ〜」


「疲れてるから甘えるってどんな理論だよ?!ていうか、汗ぐらい自分で拭くってば!」


 まったく、父さんもだけど母さんは特に親バカすぎると思いつつ、結局は抵抗も虚しくされるがまま拭かれる羽目になった。


「は〜い、終わったわよ〜ほらほら、早くお昼ご飯を食べましょ〜」


「そ、そうだね…」


 母さんのおかげで余計に疲れたままグシャグシャの髪を直しながらリビングに向かうと、父さんが先に椅子に座って机の上にある昼食を今すぐ食べたそうな様子で待っていた。


「お、ジャック!早く座るんだ、母さんの飯が冷めてしまう!」


「すぐには冷めないから大丈夫だよ…ふぅ。」


「それじゃあ、いただきましょうか〜」


 家族揃っていただきますをして談笑をしながら昼食を食べていると、急に父さんが俺にフォークを向けてきた。


「そういえばジャック、午後からはどうするつもりなんだ?」


「こら、人にフォークを向けるんじゃありません!」


 母さんが父さんのフォークを叩き落とすと、フォークは机に持ち手辺りまで刺さり、1年に1回はこの光景見るなと思いつつ父さんの質問に答えた。


「どうするって、いつも通り魔法の勉強をするよ。」


「ん、そうか。」


「…ねぇ、ジャック?無理に魔法の勉強をしなくてもいいのよ?」


 父さんはフォークを抜きながら心配する様子を顔に出さなかったが、母さんは明らかに心配してきた。

 魔法が使えないことはもう吹っ切れてるから問題ないのだが、父さんと母さんはまだ俺がショックを受けていると思ってるようだ。


「別に無理をしてる訳じゃないよ。魔法が使えなくても、その知識は無駄になることはないんだから。」


「そうだな、確かにジャックの言う通りだ!」


「え、えぇ…そうよね。ジャックは勉強熱心で偉いわ。」


 まったく、父さんと母さんは心配し過ぎだよ。

 まぁ、そんな親バカの父さんと母さんのそのおかげで、吹っ切れることができたんだろうけど。


――――――――――――◆――――――――――――


 そして俺は今、村の外れの林の中にある池に来ており、腰を下ろして王都の人から貰った教科書を読んでいた。

 ここは俺が赤ん坊の頃に母さんと一緒に散歩で来た場所で、池の中央には綺麗な赤い花が咲いて風に揺られていた。


 本来は村の外では魔物が出る場所もあって危険なのだが、この林だけは魔物が一切姿を現さない安全な場所になっている。

 その理由は赤い花で、あの花から舞う花粉の毒は魔物だけに効くという都合が良すぎるものだからだ。

 因みにこの教科書にも、濡れない燃えない汚れないという都合が良すぎる機能が付いているらしい。


 しばらくして俺は魔法の基礎が書かれているページを開き、教科書に書かれている通りに手を開いて呟いた。


「火よ、点れ。」


 この詠唱をすれば普通は手のひらに魔法陣が現れて火が点るらしいが、一向に火が点らず俺は教科書を後ろに放って仰向けに倒れた。


「は〜、出るわけねぇか。こんな事になるんだったら、特典を前世の記憶と言語理解なんかにするんじゃなかったな。」


 俺はこの異世界に転生する前に神様から貰った特典を今更後悔しながら太陽の光を手で遮っていると、頭の上の方からチラッと長い髪が見えた。


「何だ、シャルも来たのか?」


 その髪は黄緑色でシャルがこっそりと付いて来たと思い、声をかけたのだがシャルの返事が聞こえなかった。

 おかしいと思い立ち上がって振り返ってみると、そこにはシャルより背が低い人物が俺の教科書を抱えて立っていた。


「…ジャック(にぃ)。」


「何だ、クレリだったのか。てっきりシャルかと思ったよ。」


 そこにいたのはシャルの妹のクレリで、シャルにそっくりな人見知りが激しい4歳の女の子だ。

 人見知りが激しいと言っても、赤ん坊の頃から頻繁に会っている俺には慣れており普通に会話はできる。


 そういえば魔法適性の日にクレリの姿が無かったが、どうやら熱が出たようで祖母と留守番をしていたとシャルから聞いた。


「魔法のお勉強?」


「見ての通りな。まぁ、魔法適性ゼロの俺は使うことは出来ないんだけど。」


 そう言いながらクレリが差し出した教科書を受け取り、再び座って教科書を開くと隣に座ってきたクレリがあることを聞いてきた。


「ねぇ、ジャック兄?何でそんなにびしょ濡れになってるの?」


「ん?あぁ、村でカイルに偶然会って水属性の魔法で頭から水を浴びせてきたからな。」


 実は魔法適性の儀式を受けた日以来からカイルは俺を馬鹿にするようになり、最近は1つ年下の取り巻きを連れて馬鹿にするようになっていた。

 前世も合わせて22年生きている俺は馬鹿にされることは平気なのだが、正直ショックな事でもあった。


「なんだろうな、何があっても友達だと俺は思ってたんだけどな。」


 一瞬だけ空を見上げてそう言うと、突然クレリが頬を膨らませながら言った。


「むー!私、イジワルなカイル、大っ嫌い!」


「まぁ、そう言うなよ。魔法適性が少ないほど使えないって言われるのはクレリも知ってるだろ?特に魔法で有名なサレムでは。」


 そう言いながらクレリの頭をポンポンとすると、クレリは頬を膨らませたまま聞いてきた。


「ジャック兄、悔しいって思わないの?イジワルとか、魔法が使えないって馬鹿にしてくるの。」


「別に思わないな。どれだけ暇なんだよって思うだけだ。」


「そう…なんだ。」


「お、おい…クレリ?」


 すると何故かクレリはしょんぼりとして俯いてしまい、どうすればいいかわからない俺は何故かクレリの方に教科書を寄せた。


「ほ、ほら!そんなことは放っておいてさ。一緒に魔法の勉強でもしないか?」


「…魔法のお勉強?ジャック兄と一緒に?」


「そうそう、俺と一緒に魔法のお勉強。」


「…ん、わかった。お勉強する。」


 取り敢えずクレリが顔を上げてくれたことにホッとして、クレリと教科書を読み進めていると、とあるページでクレリが指を差した。


「この魔法、昨日お姉ちゃんが勉強してた。」


「ん、この魔法陣は風の刃(ウィンドカッター)だな。風を刃にして放つ魔法だ。」


「いっぱい枝切ってた。お家も切って怒られてたけど。」


「はははっ、シャルらしいな。」


 俺はそう言いながら笑ったが、シャルやカイルから離されているんだなと改めて実感させられた。

 このまま今年5歳の人にも離されて、そして来年にはクレリにもいずれ…


「風よ、吹け。」


「上手だな、クレリ。そういや、シャルは基礎に3日かかってたな。」


 そうそう、俺の目の前でこうやって手のひらで風を起こして、そのうち風の刃(ウィンドカッター)とか覚えていって…


「…あれ、クレリ?」


「ん?どしたの、ジャック兄?」


「何で魔法を使って…いや、何で魔法を使えるんだ?!」


 魔法がまだ使えない筈のクレリから思わず距離をとると、クレリは慌てて手のひらの魔法陣を解いた。


「あっ!ち、違う…違うの!」


「クレリ、まさか…」


「違う!私、魔物憑(まものすみ)なんかじゃない!」


 確か魔物憑(まものすみ)は魔法適性の儀式を受けていないのに魔法が使える子供のことで、魔物が憑依している危険な存在と言われている。

 そして魔物憑(まものすみ)は国が駆除対象にしていて、性別や年齢問わず駆除するように国民に義務付けられているのだ。


 だが、俺は魔物という言葉を聞いてある疑問を抱いた。

 ここは赤い花から舞う花粉のお陰で魔物は一切現れず、仮に魔物を無理矢理連れてくれば魔物は死んでしまう筈だ。


 じゃあクレリは何故魔物憑(まものすみ)が治っていない?

 そもそも何故魔物が憑依しているという子供自体を殺す必要がある?

 何故魔物だけを殺さない?

 何故自分の意志で魔法を使っているのに危険と言われている?

 何故5歳になる年に魔法適性の儀式を受けてからじゃないと魔法が使えない?


 ある疑問がまた疑問を呼び、それを繰り返している内に俺は遂にある疑問を抱いた。


 いや、そもそもこの世界で初めて人間が魔法を使った時は魔法適性の儀式なんか受けていない筈なのに、何故今は魔法適性の儀式を受けないと魔法が使えないなんて言われているんだ?


 どうやらこの異世界の常識は、ある疑問を抱いてしまえば何かおかしいと気付けてしまうようだ。

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