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第1話 異世界転生した俺は魔法適性ゼロ判定のようだ

 赤ん坊の泣き声が聞こえる。

 それも、とてつもなく近い所で。

 うるさいなぁ、なんて思っていると別の声が聞こえた。


「まぁ、元気な泣き声。きっとこの子は元気に育つわ。」


「当たり前だろう!だって、この子は俺達の息子なんだからな!」


 おっとりとした女性の声と勇ましい男性の声。

 おそらく泣いている赤ん坊の親なんだろうが、その声もとてつもなく近い所で聞こえた。

 赤ん坊の泣き声程ではないが、まるで目の前にいるように。


「よしよ〜し、いい子ね。」


 そんな女性の声が聞こえた瞬間、俺は優しく揺らされる感覚がした。

 まるで、泣いている赤ん坊をあやすかのように。


 いや待て、あやされているのってもしかして…俺はある予感がして今まで閉じていた目をゆっくりと開けた。

 すると目の前には、ぼんやりとしているが金髪の女性と赤い髪の男性が覗き込んでいるのが見えた。

 どうやら、今泣いている赤ん坊とは自分自身のようだった。


――――――――――――◆――――――――――――


 俺が何故こんな赤ん坊らしくないことを思っているかというと、それは俺が異世界転生者だからである。


 一から説明すると長くなるから簡単に説明すると、神様が間違えて本来異世界転生させる人ではない俺を死なせてしまい、その人のかわりに俺が異世界転生することになったのだ。


 正直、異世界転生と聞いてチート級の力やスローライフとか色々思ったけど、どうやら事情があるらしく本当に異世界転生するだけみたいだった。

 事情に関しては神様が命の数がとか言いかけてたけど、説明はしなかったし俺も興味はなかった。


 ただ、間違えて死なせてしまったお詫びとして特典を貰うことができた。

 でも特典の数は神様の規則でサイコロで決めなければいけないらしく、2の目が出たから前世の記憶の引き継ぎと言語理解の特典を貰った。

 その2つを選んだ理由は、前世の記憶は何かに立つかもしれないのと、いち早くこの世界の情報を集めるためだ。


 どうやらこの異世界は神様曰くラノベでよくある剣と魔法の世界のようで、この世界の情報を集めて魔法を使う為には言語を覚える時間をカットできる言語理解は必須の特典だった。

 前世ではよく異世界転生系のラノベを読んでたし、早くこの世界の情報を集めて魔法を使ってみたいものだ。


――――――――――――◆――――――――――――


 しばらくして3歳になった俺は家にある本を手当たり次第に読み漁り、ある程度自分の身の周りとこの世界の情報をある程度集めることができた。


 まず俺の名前はジャック・クレバー、山奥の田舎にある平民の村のクレバー家に生まれたようだ。

 母親はアリア、父親はドリアといって村で至って普通の農家をしているらしい。


 そしてこの世界はカルムと呼ばれ、基本的な情報として


1.文明技術は中世ヨーロッパ風。


2.大陸が10個以上、国は20ヶ国以上。


3.16歳から成人。


4.魔物が存在し、無害なものは家畜にされたりしており、有害なものは冒険者等が必要に応じて討伐。


5.身分は貴族と平民に分けられ、貴族は国の為に色々と尽くさなければいけなく、平民は普通に生活していてば問題ない。


6.学園が王都に存在しており、身分問わず8歳から必ず入学しなければならない。


 といった感じらしい。


 そんな世界の中で俺がいるのは、タリル大陸のサレムという魔法の評判が高い国の領地にあるナヤ村という場所のようだ。


 そして最後に俺がこの世界で1番楽しみにしていた魔法についてなのだが、どうやら5歳になる年に受ける魔法適性というものを調べる儀式を受けてからじゃないと使えないらしい。

 正直ショックだったがコレばかりは仕方無いので、5歳になるまでは情報を集めることに専念しよう。


――――――――――――◆――――――――――――


 更にしばらくして、ようやく俺は5歳になる年を迎えた。

 どうやら儀式は村の広場で王都から来た人が行なってくれるようで、俺は両親と一緒に村の広場へ向かった。


「もうジャックが5歳だなんて、時が経つのは早いわね〜。」


「あぁ、そうだな!今日は息子の晴れ舞台だ、期待しているぞジャック!」


「晴れ舞台って、言い過ぎだよ父さん。」


「何を言ってるんだ、今日から魔法が使えるようになるんだぞ!嬉しくないのか?」


「確かに嬉しいけど、どの魔法に適性があるかわからないし…」


 俺はそんなことを言いつつ内心ではめちゃくちゃ喜んでいるのだが、俺の前世は高校1年生だったため5歳の喜び方なんかわからない。

 お陰で言葉遣いも明らかに5歳のものではないのだが、周りからは親の教育が良いからしっかりした子になったという認識らしい。


「ねぇ〜ジャック、あなたは何個の属性の魔法適性があると思う?」


「う〜ん、そうだなぁ…せめて2属性は欲しいかな?」


「ハハハ、何を言ってるんだジャックは!ジャックなら3属性は当たり前だろう!」


「いやいや、流石に3属性は無いよ、父さん。」


「そんなことないわよ〜。魔法は9属性もあるんだから、あなたにもチャンスはあるわよ〜。」


「母さん、確かにそうだけど…」


 そう、この世界の魔法は(ノーマル)(ファイア)(ボルト)(ウォーター)(アイス)(ウィンド)(キュア)(グランド)(ロック)の9属性に分けられており、その中でも雷、氷、癒、岩は貴族じゃないと使えないと言われている。


 平民は基本的に2属性、運が良ければ3属性の魔法適性があるようだ。

 しかし、何故か貴族は基本的に4属性の魔法適性があるらしく、更には火属性の魔法適性のはずなのに雷属性の魔法を使える人もいるらしい。


 正直に言って理不尽な世界だよななんて思いつつ歩いていると広場に着き、広場では村の人全員が中心を開けて円を描くように集まっていた。

 そして中心にはフードを被り白い修道服を着た人が3人いて、あれが王都の人かなんて思っていると俺を呼ぶ声が聞こえた。


「お〜い、ジャックく〜ん!」


「よお、ジャック!やっと来たのかよ。」


 声がした方を見てみると俺と同い年である黄緑色の長髪の女の子が手を振っていて、その隣で青い髪の男の子が立っていた。


「あぁ、おはよう。シャル、カイル。」


 俺はそう言いながら両親と女の子のシャル・フェルリールと男の子のカイル・エンゲートのもとに向かうと、2人の後ろで話していた男女の2ペアが俺達の方を向いた。


「お、やっとクレバー家の息子が来たか。」


「まったく、遅いぞドリア。」


「いや〜すまないな!俺が寝坊をしてしまったものでな!」


「あら、おはようアリア。」


「おはようございます、クレバー家の皆様方。」


「おはよ〜、フェルリール家とエンゲート家の皆さん〜」


 その男女の2ペアはシャルとカイルの両親で、親は親同士で子供は子供同士で話しを始めた。


「ねぇ、ジャック!ジャックは何の魔法適性が欲しい?」


「そうだな、汎用性が高いって言われてる水属性は欲しいかな。」


「おいおい、ジャック。男なら威力の高い火属性と土属性に決まってるだろ!」


「確かに威力が高いのは魅力的だけど、汎用性が低いのがな…そういやシャルは何の属性の魔法が欲しいんだ?」


「ふっふっふ、私が欲しいのはズバリ風属性の魔法!風属性の魔法でいつか私は竜巻を起こすのだー!」


「そういやシャルって前からそんなこと言ってるけどよ、何で竜巻なんか起こしたいんだよ?」


「何でって、なんとなくカッコよさそう以外に理由なんかいらないよ!」


 いや、なんとなくかよとカイルと呆れていると、広場の中央から大きな声が聞こえてきた。


「これより、魔法適性の儀式を始める。対象者は前へ!」


「あ、もう始めるって。ほら、早く行こう!」


「ジャック、楽しみだな。」


「あぁ、そうだな。」


 そして俺達は広場の中央に向かうと、広場の中央に水晶玉のようなものを乗せた台座が置いてあり、シャルを先頭にカイル、俺の順番に並んだ。


「それでは最初の者、前へ!」


「はい!」


 シャルは王都の人に呼ばれると元気な返事をして台座の前へ進むと、1人の王都の人がシャルの横に来て何か指示を出し始めた。

 少しして指示を出した王都の人が一歩下がってシャルが水晶玉に両手をかざした瞬間、水晶玉が淡い青緑色を放ちながら光り始めた。


「ふむ、なるほど。あなたには風属性と水属性の魔法適性がありますね。」


 もう1人の王都の人が聖書を開きながらそう言うと、周りから拍手が起こりシャルは嬉しそうに飛び跳ね始めた。


「ヤッター!ジャック、カイル聞いたよね、風属性の魔法適性あったよ!」


「あぁ、そうみたいだな。良かったじゃねえか。」


「おめでとう、シャル。」


 そしてシャルはその様子のまま両親の元へ走っていき、次はカイルの番になった。


「それでは次の者、前へ!」


「ジャック、期待してろよ。ぜってー火属性と土属性の魔法適性の結果を出してやるからな。」


「あぁ、期待してる。」


 カイルはそう言ってシャルと同じように水晶玉の前へ行って指示を受けてから両手をかざすと、水晶玉が濃い茶色を放ちながら光った。


「これは土属性…いや、珍しい。あなたには土属性の他に、火属性と水属性の魔法適性があります。」


 聖書を開いた王都の人がそう言うと、周りから先程のシャルよりも大きく長い拍手が起こり始めた。


「お、おお!ヨッシャー!見たかジャック、俺が言った属性の他に水属性の魔法適性があったぞ!」


「すごいな、まさかの3属性だとは思わなかった。」


 まさか本当にカイルが求めていた属性だけではなく水属性の魔法適性があるとは思わなかった。

 平民でも運が良ければ3属性の魔法適性があると言っても、その確率は数十年に1人いるかどうかのものであり、そんな逸材がまさか俺のすぐ目の前に居るとは思ってもいなかった。


「それでは最後の者、前へ!」


 そして遂に俺の番が来たので台座の前へ向かっていると、途中でカイルが親指を立てて頑張れよとジェスチャーを送ってくれた。

 正直に言うと魔法適性を調べるのに俺が特に頑張ることは無いのだが、俺はありがたく気持ちを受け取って台座の前に立った。


「それでは、今からあなたの魔法適性を調べますので水晶玉に手をかざして気を送るイメージをしてください。すぐに水晶玉に反応が出なかったとしても、それは個人差によるものなので焦らずに続けて下さい。」


 そして俺の番でも王都の人は指示をして下がったので、俺は指示通りに水晶玉に両手をかざして気を送るイメージをした。

 水晶玉はシャルとカイルの時のようにすぐ反応しなかったが、個人差によるものとだろうと俺は構わずに気を送るイメージをし続けた。


 しかし、1分程続けても水晶玉が反応する様子が一向に無く、流石におかしいと周りもザワザワし始めた。

 俺はイメージの仕方が悪いのかと色々とイメージを変えてみたが、それでも水晶玉が反応する様子は無く王都の人も3人で会議を始めていた。


 しばらくして王都の人達は会議の結論が出たのか、聖書を持った王都の人が俺の元に来て明らかに憐れんだ目を向けながら言った。


「非常に残念なのですが、どうやらあなたにはどの属性にも魔法適性が無い。つまり数千…いや、数万年に1人の魔法適性ゼロです。」


 どうやら現実は厳しいもののようで、魔法が使える異世界に転生した俺は魔法が使えないらしい。

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