#10.モンスター改心システム実装
生き残った賊を樹に縛り付け、残りの賊を討伐した後。
僕らは、堂々と生き残りに尋問をすることにした。
「さて、質問があるんだけど」
意識を取り戻したらしい賊に、まずは何もせず問いかける。
「お前達って、ボスも含めて何人居るんだ?」
目を見て、聞き取りやすいように問う。
「はあ? 聞こえねえなあ」
とても解りやすい小物ムーブをしてくれたので、ダガーを取り出し投げつける。
《ビィンッ》
「ひぃっ」
頬のすぐ横に突き刺さるダガー。
ふざけた真似をするとどうなるのかは解ったはずだ。
「僕は別に情報がなくたっていいんだけど」
バカの為に時間を使ってやるつもりはない。
聞けないならさっさとこの尋問ごっこを終わらせて、西の森に向かうだけなのだから。
「わ、解った、教える、教えるから俺だけは助けてくれぇっ!」
実に小物臭かった。
「俺は別に将軍の直接の部下とかじゃなくて、数合わせで連れてこられただけなんだよぉっ」
「遠い街の近くにいたって言ってたわね」
「そうだよっ、こっちに回された奴らは皆、もともとはシュリンの近くで隠れて暮らしてただけでっ」
本来、それ自体が許されない事だった。
そんな奴が一人でも多く素直に戦場に出ていたなら、死なずに済んだ奴だっていたかもしれないのだから。
国に残った女性達だって、自分の大切な人が戻ってこない中でこんな奴らが生き延びてる現実は、許せないんじゃないだろうか。
実際、ミースは嫌悪感を露にしたように冷めた瞳で見下ろしている。
「最低ね。『隠れて暮らしてただけ』なんて。皆、命がけで戦ったでしょうに」
戦争は終わったかもしれない。
けれど、村の皆の大切な人は戻ってこないのだ。
そんな中必死に暮らしていた人たちに、この賊達は何をしようとしたのか。
「こんなことがなければ、私たちの村を襲撃して、村の女の人をさらっていくつもりだったんでしょ?」
「そ、それは……」
ミースの問いに、けれど賊は正面から顔を見られず、背けてしまう。
「いいわよね。危険なことから逃げて、頑張って暮らしてる人から好きなように奪っていって、自分の自由にできると思うの」
信じられないとばかりに、憎悪の言葉をぶつけてゆく。
これはそう、あまりよろしくない。
ガンツァーポイントとやらが溜まってしまうのではないだろうか。
「あー、手が滑ったー」
「えっ」
「ぐぎゃっ」
その辺の小石を賊の顔にぶつけ、ミースの意識を逸らす。
「雑談とかはしなくていいから、数だけ教えて」
こんな小物にミースが怒る事なんてないのだ。
必要なのは情報。それ以外にこいつの存在価値はない。
「あっ、あっ……40、40人くらいだ……将軍の元々の部下は15人で……」
「ここにいたのは12人だから、残り28人。そのうち15人が将軍って奴の最初からの部下なのか」
「は、はいっ」
いつもの賊とそんなに変わらないくらいの規模。
だけど、ここにいる奴らと合流してたらかなり脅威になってたかもしれない人数だった。
「シュリンでは、そんなに戦争から逃げた人が居たのね……」
「賊になるような奴らなんて、大体はそこからだろうしね」
ばかげた話だと思いながら、「他には何かない?」と、賊本人に思い当たるような情報がないか問い。
「あっ、あのっ、将軍は、あの将軍は、実は魔法も使えるようで」
「魔法?」
「そうなんだっ、前に将軍の悪口言って殺された仲間が、風の魔法で斬り刻まれてるのを見て……」
それはかなり有益な情報だった。
ある意味賊の総数以上に役に立つ。
「魔法を使ってくるの? 怖いわね」
「怖いね。気を付けないと」
これ以上はないかな、と確認すると、流石にもう吐ける事もないらしく怯えたような顔で僕の方を見て「頼む、頼むから」とうわごとのように命乞いを続ける。
「どうするの、これ」
「僕の仲間は、こういう奴は生かしておいても仕方ないから殺したけど」
戦場で、捕虜を連れて歩けるような余裕なんてまるでなかったので、大体この手の生き残りは後に害を成すからとその場で始末していたのだけれど。
「あっ、あっ――」
流石に哀れというか、そうまでする必要はないように思えた。
十分、怖い思いはしただろうから。
「君はさ、賊には向いてないよ」
正面から見据えるようにして、樹に突き刺ったダガーを引き抜いて刃を見せる。
「やめて、どこかの村で必死に働きなよ。畑をやると良い。きっと、愛してくれる女の人が見つかるよ」
ね、と、反応を窺うと、黙ってこくこくと頷く。
解ってくれたらしい。まあ、解らなかったら、その時にまた成敗するだけだけど。
「解放するの?」
「しないよ?」
今解放してもこいつはまだ元気なままだし、今だけ口先でどうこう言ってても信用なんてできるはずがない。
下手したら、先回りして将軍とやらに僕らの事を伝える可能性すらある訳だし。
「もし僕達が将軍他、こいつのお仲間を全滅させたら、戻ってきてやる……かも」
「それまでは待ってなさいって事ね」
「そういう事だよ」
これは、罰ゲームだ。
賊の討伐完了までの間、しばらくは樹に縛り付けて見せしめにする。
ここは街道からちょっと離れた場所なので、恐らくは誰も通りかからないし、間違って助けてしまう事もないだろう。
「そ、そんなぁ……」
「熊とかイノシシとかに見つからないことを祈っててね」
「女神さまにお祈りでもしてなさい」
これでもしこいつが熊にでも襲われて死ぬなら、それはそれで不幸というもの。
そういう運命と思ってもらうしかない。
この場では、アイテムにならなかっただけ良かったと思ってもらわないと。
「待ってくれ、置いていかないでくれぇっ、おれも、俺も一緒に戦うからっ、仲間になるからさぁーっ」
背を向けた僕らに、子供みたいな喚き声を聞かせ続ける賊が一人。
彼の声は、僕達が馬車に乗り込む所まで聞こえていた。
「野盗の将軍、ですか?」
「ええ、そう言ってました」
その後、僕らは一旦村に戻り、アーシーさんに経過を報告。
森の西に脅威がある事、奴らの狙いがこの村と、村の女性達にあるという事を知り、アーシーさんは愁いを帯びた表情を見せていた。
「やっぱり、そういう事が目的になる事も、あるのよね……怖いわね」
「食料目当てなら、まだマシだったわよね。他の村の人もだけど、気を付けさせないと」
女性からすれば純粋に身の危険なのだから放置などできるはずもないのだろう。
ミースと二人「こんなことがあるなんて」と、危機感を募らせているようだった。
「でも、街道近くの賊を討伐したことで、春や夏の賊とそんなに変わらない規模にまで減ってきてるので、なんとかできると思います」
少しでも安堵させてあげようと、前向きな話に持っていく。
幸い、アーシーさんもミースも、それで少しは安心してくれたようだった。
「そうですね。エリクさん達が頑張ってくれているから……この調子でお願いします」
「まあ、今回も大丈夫よね。魔法の使い手っていうのが、ちょっと怖いけど」
魔法使い相手は、別に不慣れな訳ではない。
モンスター相手でも魔法を使ってくることはあるので、人間がそれを使ったところでそう大差ないのだ。
ただ、不意打ちはシャレにならないので、持ってる奴がいる、というのを知れたのはありがたかった。
「一人だけ捕虜にした奴がいて、そいつは南の街道の外れに縛り付けてあります。もし賊の討伐が終わったら、そいつは解放してもいいでしょうか」
「ええ、貴方がそれでいいのなら……」
《改心システムの導入は今回チュートリアルだから仕方ないけど、毎回入れるとちょっと面倒くさいなあ。この流れは今回だけにしておこう》
なんか突然聞こえてきた。
改心システム? えっ、これって何か仕組まれたことだったの?
「それでエリク君、すぐにでも賊を討伐するのよね?」
「休まなくて大丈夫なの? 戦うのだって楽ではないでしょう?」
突然聞こえてきた謎のシステムとやらについて考えている暇などなくて、ミースとアーシーさんの問いに答えなくてはならなかった。
とはいえ、迷う必要もない。
「時間を与えると相手に警戒させてしまうかもしれませんから、すぐにでも挑みたいと思うんだけど……ミース、大丈夫?」
「ええ、私は大丈夫よ。エリク君が平気なら、いつでも」
心強い相棒だった。
「まあまあ、二人とも、すっかり熟練冒険者みたいになったわね」
《キラーン、エリク君は『すっかり熟練冒険者』の称号を手に入れました》
ロイズから棒読みで謎の称号を与えられた。
限りなくどうでもよかった。
「それじゃ、すぐに準備を整えていきましょ」
「そうだね。アーシーさん、そういう訳なので――」
心配してくれていたアーシーさんには申し訳ないけれど、僕達はすぐに向かう選択をしたのだ。
時間こそが全てを優位に扱える権利を持っている。
アーシーさんもそれは解っているのか、小さく頷きながら笑顔を見せてくれた。
「解りました。どうかお気をつけて。二人とも、怪我をせず戻ってきてね」
二人とも大切な仲間なのだから、と、優しい言葉で締めて見送ってくれた。
こうして僕らは、西の森に向かう為に改めて準備を整え、その日のうちに本格討伐の為、森へと向かったのだった。




