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アイアムバグゲープレイヤー!!  作者: 海蛇
六章.初めての冬

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#7.アーシーさん空をとぶ


「――エリク君? どうしたの?」

気が付けば、僕はまた、ミースの前に立っていた。

畑の、いつもミースが座っている場所の前。

どこまで戻されるのかと思ったけれど、どうやらあの……ブルーベリータワーとかいう場所に来る直前に戻っただけだったらしい。

目だけで周りを警戒するけれど、鳥はいつまでも襲い掛かってくる様子はない。

「エリク君ったら。突然呆けてどうしたのよ?」

「ううん、なんでもないよ。疲れてるのかな……」

確かに、ちょっと疲れてる感はある。

あの鳥……ロック鳥と言ったか。

あれを倒す探し出し、倒し、そして戻ったらロイズと対面。

殺されて戻されて。

身体はともかく、心の方は正直激動過ぎて疲れている。

「大丈夫? スケッチブックを見るどころじゃないんじゃないの? 家に帰る?」

ミースも心配そうだ。

こんな事でもなければ、素直に「そうだね」と帰ることもできたのかもしれないけれど。

でも、僕はそのままで帰るつもりはなかった。

だって、これは僕たちにとって、とても大事な話だろうから。

「大丈夫だよ。それよりも、スケッチブック」

「うん……まあ、エリク君が無理してまで見るようなものでもないんだけど――」

念を押すと、ミースもそれ以上は心配しようとせず、スケッチブックをぱらぱらとめくり始める。

「はい、これよ? 参考になる?」

開いて見せてくれた絵は、雪山で僕がロック鳥と戦っていたシーン。

更に受け取って何枚かめくると、それが連なっているのが分かる。

羽に腕を射貫かれた瞬間とか、必死になってしがみついてる所とか、シーン別に何枚か。

「すごいね。こんなに沢山、よく短時間で描けるなあ」

「だって、忘れてしまわないか不安だったし。目に焼き付けたものは、すぐにでも描きたいじゃない?」

巣から皆の奪われた品を引っこ抜くのにそんなに時間は掛けていないので、恐らくは下描きだけ山で描いて、残りは自分の部屋に戻ってから描いたんだと思うけれど。

それにしても驚異的な速度だと思う。

「僕にはまだ、これだけの速度は――」

ぺらりとめくっていくと、やはり時間を(さかのぼ)って僕の絵が描かれているのが解る。

メリウィンでの狩りの時もやはり、狩猟を始める前の時間や戻った後のわずかな時間、描いたりしていたのだろう。

かぼちゃ頭の僕や村の人たちが描かれているかと思えば、メルとギル、それから……楽しそうに出かけていく僕とロゼッタの後ろ姿も描かれていたりする。

これだけやけに影が濃いのは、何か思うところがあったのだろうか。

「どうしたの?」

その時のなにがしかの感情はもう残ってないのか、機嫌よさげに首を傾げているミースを見て、僕は「ううん、なんでも」と、更にめくってゆく。

僕としては狩猟後メルによって可愛らしく飾られたミースとか抱きかかえて連れ帰った時の赤面したミースとかが印象深いけど、それはミースにとって忘れたい記憶だったのかもしれない。


 スケッチブックはあくまでミースの印象に残ってる、僕が関係しているシーンが絵になっているだけで、日記帳とは違うのだろうけれど。

それでも、見ているといつもミースがどんなところを気にしているのかが分かってくる。

やはり僕だ。僕中心に描いている。

それはまあ、前に説明を聞いているから当たり前なのかもしれないけれど、でも。

「夏は……と」

更に深くまで見てゆく。

山の鉱脈探し、二回目の賊の討伐は僕の単独で済ませたので僕の背中しか描かれていなかった。

ではその次は、と。

「……えっ、どこまで見てるの?」

ミースとしては、あくまで直近の絵を見せるだけ、というつもりだったのだろう。

僕もそうとしか言ってないし。

でも、好奇心でぺらぺらめくってしまう可能性も考えるべきだったのだ。

僕は確信犯でやっているけれど、もしかしたらそうじゃなくても、僕はそういう悪戯者かもしれないのだから。

「……水着、か」

「あっ、ちょっ、エリク君、見過ぎよっ」

ようやく気づいたのだろう。

僕がどこまで見たのかを。

どこまで見ようとしたのかを。

「謎の水着美少女エリーちゃん15歳……」

そこに描かれていたのは、まぎれもない水着美少女(?)の僕だった。

わざわざタイトルまでついていて、そしてやはりハートマークにまみれている。

「ミース……そんなに気に入ったんだね、女装した僕を」

飛ばし飛ばしだったので見落としもあったかもしれないけど、もしかしたらそれ以降女装させようとした時も妄想で何枚か描いてたかもしれない。

けれど、原点はやはりここなのだろう。

「そ、それは……だってエリク君、すごく可愛かったんだもの……いいじゃない」

よくはないです。

「結局それ以降は描かせてくれないし……でも来年も着るんでしょ? ちゃんと用意しておくからね?」

「着ないよ。着ないって」

あれはあくまで不可抗力。

自分で望んでそうしたのではなく、多分ロイズの願望でそうなっているだけなのだから。

……いや、毎週着せるつもりなら、次の夏もどうなるか解らないのか。

不安しかない。

「別にいいのよ女装に目覚めても? 私、可愛いエリク君は嫌いじゃないし」

女装に目覚めてるのは僕ではなくミースではないだろうか。

僕を女装させることに目覚めた、という方向性で。

「例えばミースが、女装した僕じゃなきゃ受け入れられないって言うなら別だけど」

「えっ……」

その反応は想定になかったのか。

ミースは一瞬固まってしまい、しばし沈黙が流れる。

「な、何言ってるのよ、もう!」

スケッチブックを奪い返されてしまう。

「別にエリク君がどうだって、私は……」

何か言おうとして、けれど止まって頭をぶんぶんと左右に振る。

「なんでもない、なんでもないったら!」

「本当に?」

「本当よ! それより、参考になった? 絵、練習するんでしょ?」

そういえばそんな話だった気がする。

「うん。上手すぎて今の僕には何の参考にもならなさそうなのが分かったよ」

正直丸すらまともに描けない僕には早すぎるお手本だった。

まあ、見たところで真似られないのは解り切っていたけれど。

「むむむ……それじゃ見られ損じゃない。もう、エリク君ったら」

何のために見せたんだか、と、悔しそうに唇を尖らせる。

そんな様もコミカルで可愛らしかった。


 結局、それから畑でいくらかミースのお絵描きの指南を受け、まずは風景を描くことを勧められた。

前に見せた絵からミースが分析するに、どうやら僕ははっきりとした物体を描くのが苦手なようで、どちらかというと風景画から入った方が、物体の認識もできるようになっていいのではないか、というのがミースの論で、僕も絵に関しては素人なので、素直にそれに従う事にして、早速村の風景をスケッチすることにしたのだ。

一人で。ミースはといえば「なんでも私に言われながら描くよりも、まずは一枚描いて私に見せなさいな」との事で、今はロゼッタのところにお茶をしに行っている。

「あらエリクさん、お絵描きですか? 私の家を?」

どこがいいかな、と、ひときわ大きなアーシーさんの家を試しにと思って適当な場所に腰かけたところで、アーシーさんが現れる。

「すみません。ちょっと練習で描いてみようと思って」

もしかしたら許可が必要だったかな、なんて思いながら謝ると、アーシーさんは困ったように「いえいえ」と手を前に出しかがみ込む。

「そういえば前にも、練習していましたね。あれから上達しましたか?」

「残念ながら……それで、思い切ってミースに相談してみたら、風景画の方が向いてるんじゃないかって言われて」

「なるほど。私も絵はあまり上手ではないのでアドバイスらしいことはできませんが、そうやって応援してくれる子が居るなら、頑張って練習すればきっと上達できますよ」

ニコニコと笑顔を絶やさないアーシーさんに言われると、なんとなくそんな気になるから不思議だ。

やっぱり自分よりお姉さんだと、いう事が違うように思える。

安心感があるというか、そんな気になってくるのだ。

「ありがとうございます。頑張ってみますね」

「ええ。例え下手でも、諦めずに続けるといいでしょうね。それでは、私はこれで」

「はい。また」

「さようなら」

用事があるのか、ただそれだけの為に話しかけてくれたのかは分からないけれど。

アーシーさんは手をフリフリ、いい笑顔のまま家へと帰っていった。

――かと思ったら、突然屋根の上に立っていた。

「えっ?」

何が起きたんだ。

何故屋根の上に?

そう思いながら立ち上がると。

「あらエリクさん? どうかし――」

アーシーさんは屋根の上から大きく飛び跳ね、落下してきた。

「――危ないっ」

「きゃっ」

《ドサッ》

「ぐふぁっ」

何が起きたのか解らないけれど、ぎりぎりで間に合い、アーシーさんの下敷きになる。

背筋によろしくない痛みが走るけれど、立ち上がれないほどではない。

「あ、あら……ごめんなさい。なんで私、エリクさんをお尻に敷いているのかしら……?」

「僕にも解らないです……うぐ、いたたた……」

背中には柔らかい感触が伝わるけれど、今はそれどころじゃない。

きしきしと悲鳴を上げる背筋。

自分より背の高い人が、高い場所から飛び降りたのを受け止めるには、僕の背中はまだまだか弱過ぎたという事か。

(背筋を、鍛えないと駄目かな……?)

人を背中で受け止めるなんてこと、今までの人生で初めてだけれど。

もしこんなことがまだあるなら、この経験は活かしたいと思う。


「ほんとうにごめんなさい。なんで私、飛び降りていたのかしら……」

「突然だったからびっくりしましたよ」

すぐにどいてくれたのでなんとか持ちこたえられた。

背中をさすりながら立ち上がり、申し訳なさそうに謝るミースに「大丈夫ですよ」と強がる。

《うーん? なんだろうあれ。座標バグかな? 調べてみてもヒロインの行動リストには特に問題ないし……うーん?》

どうやらロイズ的にはよく解らない現象らしい。

なんとかしてくれゲームマスター。

理想のなんとかのためにこういうのは真っ先にどうにかすべきじゃないのかゲームマスター。

「このところ、時々変なことが起きるのよねえ。疲れてるのかしら……」

「変なことって言うと?」

「んん……恥ずかしいのだけれど、お風呂に入っているつもりが、何故かリビングで寝ころんでいたり、ご飯を食べているはずなのにいつの間にか教会でお祈りしていたりするの……」

目の前であんな飛び降りめいた瞬間を見なければ、「疲れてるんじゃないですか?」と言って済ませてしまうような事だけれど。

さっきのロイズの呟きを聞く限り、どうやらこれも偉い人たちのミスなんじゃないかと思えた。

「私だけじゃないのよ? 時々、変なことをしている人が居て……その人自身が『どうしてこんなことを?』って言ってたりするの、たまに見るわ。お年寄りなら分かるんだけど……」

「何が起きてるんでしょうね」

「本当、解らなくて怖いわ……何か、大変なことが起きてなければいいのだけれど……」

アーシーさんとすれば、自分自身に降りかかっているだけでなく、村全体に及んでいる新たな問題、という風に取ってしまっているのかもしれない。

僕としても、毎度のようにアーシーさんに今のように飛び降りられたら困るので、なんとか解決したいけれど……

「あー、なんとか、解決の方法はないかなー」

わざとらしく呟いて見る。

声にしてみると偉い人たちには聞こえるようなので。

《うーん、解決する方法はいくつかあるけど、直近でなんとかできるのは特定の行動をとらせない、というものかなあ》

特定の行動をとらせない。

それはつまり、村の人たちの行動を制限する、という事だろうか。

でも、それは僕にできるようなことではない気がする。

何の根拠も説明できずに「この行動はとらないで」なんて言えるはずもないし。

《とりあえず変な行動のログは取れたから、修正していくとして……数が多すぎるから一度に全部は無理だなあ。はあ、こんな時に限ってアリスがカレー作りに没頭してる……作り出すと100時間は放置だからなあ》

アリスはちょっとカレー作りに没頭し過ぎだと思う。

そういえば最初の山の時もそれでスルーされてた気がする。

カレーが好きなんだろうか?

《バグってる原因で一番多い行動は……チーズを消化している時? うわ、チーズが起こしてる行動不良が250ページもある! 何これチーズが元凶レベルじゃないか!》

チーズは許されない食べ物だった。

《とりあえずチーズはこの世界から消滅させて――》

この瞬間からチーズはナキモノとなったらしい。

僕はそんなに好きでもないので特になくても困らないけれど、チーズ好きな人には最悪な世界に違いない。

《うわ、今度はバターが原因でエラーが!?》

バターはまずいだろうバターは!

パンも料理もお菓子もおいしく食べられなくなってしまう!

《うーん、流石にバターを消すのは問題だから……沢山の料理でエラー吐くようになっちゃうしそれはできない……よし》

良かった、バターは救われるらしい。

シチューもケーキも食べられなくて悲しい思いをするエリク君はいなかったんだ。

《アラゾル村の村人A45を消そう》

バターの代償に知らない村の村人が犠牲に!?

「あの……エリクさん、大丈夫ですか? さっきから何やら表情が変わりすぎて怖いのですが……」

「えっ、あっ、いえ、ちょっと考え込みすぎてて……僕も疲れてるのかな? はははは」

ひどい百面相になっていたらしい。

いや実際、脳内でひっそり村人が消されていますなんて聞かされたら誰だってこんな風になるんじゃないかと思うけれど。

《よし……元凶の削除は終わりっと。村人消した影響もほぼ皆無だし、ガンツァーポイントにも影響ないし問題ないな! 後は適時修正していくだけだ》

ガンツァーポイントというパワーワード!

「お尻に敷いてしまった私が言うのもなんですけど……無理しないでくださいね」

割と本気で心配してくれているアーシーさんにとても申し訳ない気持ちになるのだけれど、突然聞こえてきた変な言葉の所為でシリアスな気持ちになれないのが今の僕という奴だった。



 結局、その日は寝るまでガンツァーポイントという言葉が頭から離れなかった。

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