#3.山のボス・ロック鳥との戦いにて1
「足元、滑らないように気を付けてね」
「ええ……ふう、こんなに沢山雪が積もってるなんて、やっぱり山は違うわねえ」
雪山にて。
僕とミースは、山で怪鳥を探して回っていた。
スケッチブックを取り戻したい、というのが一番の目的だけれど。
僕にとっては、ミースとの絆を深めたい、というのも目的にあって。
ちょっとしたピクニック気分で中腹にまで来てしまっていた。
(なんたって一度は倒した敵だしな……)
カレー一つで沈むような敵相手だ。
むしろ鉱区の死神の方が強さ的に上なんじゃないかとすら思えるのだけれど、実際どうなのだろうか。
風がビュオウ、と、強く吹く。
この辺りはまだなだらかで、地面も岩肌よりは土が多く、足も滑りにくいけれど。
上に登るにつれ、次第に足元がはっきりしなくなっていくのが冬山の怖いところだった。
前の人生の時も、バグの影響で冬山に閉じ込められたけれど……あの時の絶望感は中々のものだった。
手はかじかみ、寒いのにひたすら上に登り続けなければいけなくて。
あの時偶然でもカレーを落として怪鳥を倒さなかったら、僕は……死んでしまっていたのかもしれない。
それに比べると、今回のなんと楽な事か。
「着こむと動きにくいけれど……寒さをあんまり感じないのはいいわねえ」
「そうだね。ピオーネさんがお店を出しててよかったよ」
僕とミースは今、モコモコのコートを着て、モコモコの羽付き帽子を被り、更に手もモコモコの手袋をつけていた。
ブーツは流石に耐寒仕様ではないけれど、靴下を二枚履きしたので耐えられないほどじゃない。
《そういえばエリク君、なんで怪鳥の居場所知ってるのかな……? 村人から情報集めるフェイズ挟まないと、絶対に居場所が分からないようになってるはずなのに……》
「い゛っ!?」
不意打ち気味に挟まれる疑惑の声。
うっかりだった。
完全にうっかりしていた。
そうだ、そんな情報、誰からも聞いてない。
聞いてもいない情報を、なんで僕はためらいもなく、知っているからと直行してしまったんだ。
「どうしたの? 急に変な声上げて」
前を歩いていた僕が突然変な悲鳴を上げたのだ。
それはまあ、ミースからすれば奇妙に思えたかもしれないけれど。
僕としては怪鳥以上に危機に陥っているのだ。
どうしたものか。
「大きな鳥ってさ、山の方にいることが多いよね」
口から出たのは無理やりな論調だった。
「そうなの?」
「そんな気がして」
実際にそうであるかなんてどうでもいい。
重要なのは、天の声の主を納得させること。
《うーん、いや、ちょっと納得しちゃいそうになってたけど、エリク君、何かごまかそうとしてないかな……? もしかして、僕の声に気づい――》
「森はくまなく探し回ったし、探索してない場所を探すのは鉄板だよね! 高いところからなら、低いところも見渡せるし!」
《あっ、景色を見たかったのか。なるほどなるほど……エリク君って意外と賢いのかなあ? ふふ、面白いなあ》
よかったうまくごまかせた。
……今回は心臓に悪かった。
「んー……? まあ、そういう理由があったのね。私もエリク君の勢いに流されてたから、今説明してくれたのはありがたいけど……」
「ごめんね。ほんとはもっと、色々情報を集めてからの方がいいと思うんだけど……でも、少しでも早く、ミースを笑わせたかったから」
「……っ、ば、ばかっ、もう、そんなこと――うー、もう、エリク君!!」
笑わせたかった、というのは本音だと思って言ったんだけど。
でも、本当のところはちょっとだけ違っていたのかもしれない。
ミースと、いつものようにいい感じの関係のままいたかったのだ、きっと。
その時間が尊くて好きだから、取り戻したかった。
「あれだけ大きな鳥だから、居ればすぐ解ると思ったんだけど……」
「飛んでれば翼の音だけでも解りそうだものね。でも、今のところはまだいないみたい――」
『――キュォォォォォォォォォォォッ!!!』
「――エリク君っ」
「ああっ」
早速の手がかり。
あの鳥の鳴き声だ。
「行こう!」
鳴き声の先は、そう遠くはない。
存在に気づけなかっただけで、意外と近くにいたのだ。
(そういえば、あの時も……下の方にいたんだったな)
一度登り切った僕らからすれば、冬山であろうと登れない高さではない。
元々そんなに高い山ではないのだ。勢いがあれば、なんとでもなった。
「――居た」
そこは、怪鳥の巣か何かか。
樹の枝や藁、何かの羽毛のようなものがまとまったものが見つかり、ここが棲み処なのだと確信を持つ。
鳴き声が聞こえた方角に登り続け、少し掛かった辺りで、それを見つけられた。
「とりあえず、邪魔そうな魔物とかはいないわね」
ミースが周りを警戒してくれるので、ありがたく準備に入れる。
巣の辺りにスケッチブックは見当たらないけれど、怪鳥は確かにここに来るのだ。
(飛び立った後か、それとも――)
巣の主がここにいなかったとして、どこに向かったのか、人里か、あるいは――
そう思った時だった。
『クエェェェェェェェェェェェェェッ!!!』
――奴が、上にいた。




