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アイアムバグゲープレイヤー!!  作者: 海蛇
五章.夏の再来・秋の奇祭

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#18.秋の奇祭は静かに終わる


 三日目の狩猟が終わってからは、メリウィンは少しずつ落ち着いていき。

最終日の満月の夜は、村中総出で広場に集まり、穏やかに皆で焚火を見つめていた。

「なんだかんだあったけど、今年は楽しかったわね、メリウィン」

「去年はそうでもなかったの?」

「こんなに賑やかではなかったわ。周りの村の人なんて来なかったし、行商もそれなりにはいたけれど、村の人たちがそもそも、そんなに盛り上げようとはしてなかったわね」

ミースと二人、並んで焚火を見つめながら、静かに語り合う。

美しい月夜。けれど、炎に照らされるミースの顔は、どこか寂しさも感じさせるもので。

「今は想像もつかないかもしれないけどね、男の人のいない村って、すごく寂れてたのよ? 皆意気消沈してて、オシャレとかも、あんまりしようっていう人がいなくって、張り合う相手すらいなかったわ」

「ステラとも?」

「ステラ? あの娘はエリク君が来てから急にそういうの(・・・・・)気にしだした口よ。それより前は、オシャレのオの字も興味なかったし」

「そうなんだ」

ステラが聞いたら赤面して反論しそうな事だけど、でも、そうなのだとしたら。

この村に僕が一人いる、という事は、この村にとって、とんでもない変化だった事になるのか。

そういえば、何度も言われた気がする。

僕は、この村で唯一の若い男性なのだから、と。

それは、労働力的な意味で、戦闘力的な意味で、そして、夫になるという意味で重要な事なのだろうと思っていたけれど。

それ以上に、村の女性たちにとっての、意識の変化を促す意味で重要だったのかもしれない。

「皆変わったのよ。エリク君が来てから。エリク君が居てくれたから、まだ誰も泣かずに済んでる」

辛い思いをせずに。悲しい気持ちにならずに。

それは、リゾッテ村で言い争いをしてしまった人たちのように、絶望感から来る、諦観から来る辛さ、悲しみなのかもしれないけれど。

それがやはりこの村にもあって、それでもなんとかしようと、こんな奇抜なお祭りを考えたのだとしたら、アーシーさんはきっと、すごく頑張っていたんだと思う。

「アーシーさんはね、あんな人だけど、尊敬もしてるのよ」

僕がアーシーさんの事を考えているように、ミースもまた、考えていたらしく。

ミースの翠色(すいしょく)の瞳から焚火が消え、代わりに映ったのは、アーシーさんの姿。

行商達に囲まれながら、お酒をぐびぐびと飲んで笑っていた。

「だって、皆が諦めてて、もうだめだって思い始めてる人もいたのに、あの人だけは諦めずに村を盛り上げようとし続けてたの。最初は村長の仕事なんて何もわからなかったお嬢様がよ?」

そうは見えないでしょうけど、と笑いながら。

けれど、僕が知らないアーシーさんを、ミースは確かに知っていたのだ。

「毎日毎日遅くまで勉強して、いつも村中駆け回って必要なことを報せて、思いついた良いと思ったこと全部実行してた。この村がまだ村の体裁保ててたのは、ロゼッタが皆にお金を貸してたのもあるけど、間違いなくアーシーさんのおかげでもあるのよ」

「すごいね。アーシーさん」

「そうよ。すごいの。デザインセンスは最低だったけどね」

あれはほんと酷かったわ、と笑顔になりながら。

けれど、笑っているのは尊敬してた人を褒められたからだと、なんとなくそう思った。

「今回のお祭りだって、あの人は必死になって色々考えてたんでしょうね。だからその……変なお祭りだし、エリク君も大変だったでしょうけど、嫌いにならないであげて」

なんでアーシーさんの事を話し出したのか、という疑問は、そこではっきりとした。

ミースは、この祭りが好きなのだ。

口でなんだかんだ言っても、気に入っていたのだ、きっと。

「かぼちゃ頭も大変だし、芋掘りは楽しかったけど突然すぎたし、狩猟ゲームはそれはもう命がけだったけど――」

だから、僕も空を見上げる。

満天の星。綺麗な満月。

穢れ一つない星は、僕の横でも輝いていて、とても綺麗だった。

「――でも、とっても楽しかったよ。メリウィン」

()の時、全力で楽しまなかったのが惜しいと思えたくらい。


 結婚を焦らず、もっと色々楽しんでから、ロゼッタともっと絆を深めてから結婚していたなら、僕は後悔なんてせず、こんな複雑な気持ちにもならずにいられたのだろうか?

いいやそんなことはない。

だって、僕の気持ちなんてあの時は、操られていたようなものなのだろうから。


『これまではチュートリアルだから強制的にロゼッタルートだったけど、これからは一部隠しヒロイン以外のルートが解放されたの♪ エリク君が好きなミースのルートもこれからは選べちゃうんだから♪』


 強制されていたのだ。

強制的にロゼッタを好きになっていたのだ。

だから、僕はロゼッタを好きという事にされていたのだ。それは間違いない。

間違いないけれど……

(でも、僕は、ロゼッタルート、とかいうのを最後まで進められなかった……?)

もしアリスの言っていた通りなら、僕はまだ、ロゼッタとの話を進められたのではないか。

選ぶルート次第では、もう一度ロゼッタと結婚して、今度こそ本当に、本当の恋人同士になれたかもしれないんじゃないか。

今のミースのように、まだ知ることのできないロゼッタの何かがあって、それを知ることがあったら、今ミースに感じている愛着にも似た感情を、ロゼッタにも感じていたんじゃないだろうか。

(抜け落ちてる部分も、あるよな)

記憶がないのはどこまでが本当なのか解らない。

前回の人生の内、どこまで僕が覚えているのかが、今の僕にはわからない。

基本的な部分は全部覚えているように思えて、ロゼッタとの結婚後の生活のかなりの部分、忘れているような気がする。

何か、大事なことも。


「――エリク君は、お祭りを楽しんでくれてたのね。良かったわ」

だけど、そんなことは今のミースには関係なくて。

そして、その時と同じ轍を、ミースの隣で踏みたくはないと、そう思っている自分もいた。

――守りたい。この、無邪気な笑顔を見せてくれる女の子を。

心から綺麗だと思える、そんな女の子との日々を、守りたい。


 前の時にガンツァーが来た冬は、もう間もなく始まろうとしていた。

リゾッテ村は、今はもう争いとは無縁の穏やかな感じの村になっているし、他の、周辺の村だって同じように助けられるだけ助けた。

おかげで今回のメリウィンにも、周辺の村から沢山の来客があったくらいで。

それもあって賑わいがさらに増していて、祭りがとても楽しい。

「来年の祭りも、きっと楽しくなるはずだよ」

「ふふっ、もう来年の話? 年明けまでまだ早いのに……でも、うん」

ミースは笑うけれど、僕にとっては切実な問題で。

そして、それが起きてからではきっと、手遅れなのも解ってしまっていた。

今の僕には、まだガンツァーと渡り合えるだけの力は、無いのだから。

「頑張るよ、僕」

残りの日数がどれだけなのかも分からない。

猶予があるのか、全く違うルートに進んだのかすら解らない。

だけどもし来たら、同じ展開にはならないようにしたいと思う。

だって、一度結末を見て知っているのに同じ展開になるなんて、そんなのあんまりじゃあないか。

少しでも何か、違う結末にしたい。幸せになりたい。

そう、幸せになりたいと、そう思えたのだ、今の僕は。

「……エリク君」

僕が変に真面目な顔をしているからかもしれない。

ミースも僕の顔を見てキョトンとしていた。

「ええ、頑張りましょうね」

だけれど、ミースは手を取ってくれた。

一人で戦おうとしていた僕に。一人で苦難を乗り越えようとしていた僕に。

二人で、歩んでくれようとしていた。

「うん」

それがもう、それだけで、嬉しかった。

僕は一人じゃないんだと。何度人生を歩んでも、きっとミースは同じように力を貸してくれるに違いないから。

寄り添ってくれるのが、肩を並べてくれるのが、こんなにも嬉しい。

僕にはもう、そんな『仲間』はいないと思ってしまっていたから。



 焚火が静かに弱くなってゆく。

誰かが祭りの終わりを告げる事もなく、一人、また一人潮時と考え家や馬車へと戻っていき。

僕達もまた、帰り道を急ぐ。


 また楽しみたいな、と思っているとき、見覚えのある影が、僕の前に現れた。

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