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アイアムバグゲープレイヤー!!  作者: 海蛇
一章.チュートリアル
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#7.むらまわり


「エリク、今日もどこかに行ったりするの?」

洞窟に行った翌日、朝食を食べながらに、ロゼッタが僕の顔を(うかが)うようにこんな事を聞いてきた。

「ううん。今日は畑に水を撒いたら、残った雑草を抜こうかなって」

まだ畑はかなりの部分雑草に支配されている。

その他、岩が突き刺さっていたり木材や切り株が放置されたままだったりと散々だ。

最初に耕した部分は元々あんまりそういった邪魔者がなかった場所だけど、これからはそうもいかない。

地道に畑として使える部分を増やしていきたいので、これからしばらく、そういった作業に追われそうだった。

「んん……そう」

ちょっと考えるように口元に指を当てて、ロゼッタが(うつむ)く。

「どうかしたの?」

「ううん。ねえエリク。今日、半日だけでいいから、畑、お休みしない?」

昨日の今日で突然の提案だった。流石に驚いてしまう。

「何か、用事があるの?」

「ちょっとね。昨日、エリクは村を見て回ったって言ってたでしょう?」

「うん。村の人とかとも何人かすれ違ったけど、あんまり受け入れられてる感じはしなかった」

あれはちょっと寂しいものがあったなあ、なんて思いながら、朝食のミルク粥を口に運ぶ。

程よく塩気が利いてて美味しい。ミルクに甘みがあるので、それがいいバランスを生み出していた。

「やっぱりそうかあ。だからねエリク。今度は、村を見て回るんじゃなくて、村の人を一緒に見て回らない? 村の人達も多分、どう接したら良いか解らなくて困ってるんだと思うから、私が間に入るわ」

それなら大丈夫でしょう、と、ロゼッタは微笑む。

ロゼッタだって家の事をやったり刺繍(ししゅう)や編み物で忙しいだろうに、僕の為に時間を割いてくれるのだ。

ありがたいなあと思いながら、僕は素直に頷いた。

「助かるよロゼッタ。僕一人じゃ、まだ無理みたいだから」

村の中にお店やなんかがあるのも知ってる。

だけど、今のままじゃロクにコミュニケーションも取れずにつまらない日々を送る事になりそうで、ちょっとそれは避けたかったのだ。

僕自身があんまり人付き合いが上手くないのにも問題があるんだろうけど、こうして村に詳しいロゼッタが間に入ってくれるのなら、何も心配はいらないに違いない。

「うん。それじゃ、ご飯食べて、畑に水だけ撒いたら行きましょう? 撒くのは私も手伝うから」

「早い時間からだけど、お店とかってやってるの?」

「んん……お店が開くのは陽が高くなってからだけど、結構色んなところに回るつもりだから――」

どうやらかなりの時間連れ回されることになるらしい。

ちょっとだけドキドキしてしまう。

村の規模が結構大きいのは知ってたけど、今日一日でかなりの人数と会うことになるんじゃ、なんて。


「身なりも、ちょっとは整えたほうが良いかな? エリクは替え着も持ってなかったよね?」

当たり前のことなんだけど、僕の手持ちには替え着なんてなかったので、毎日同じ服を着ていた。

毎日夕食後、暗くなった頃に井戸で水を被っていたのでそこまで臭いはないと思うけど、この服をいつから着ていたかも解らないので、確かに気になる部分はあった。

「確かに、このままだとちょっと恥ずかしいかなあ。なんとなく、ロゼッタが笑われちゃいそうで悪い気が……」

自分と今のロゼッタとを見比べて、情けなさや照れくささを感じてしまった。


 ロゼッタは控えめに見えて、その辺りしっかり女の子してる。結構お洒落さんだ。

当たり前のように違う服を毎日着て、組み合わせも全然違うし、髪留めも髪の編み方も毎日変えているらしかった。

化粧とかはしてないみたいだけど、そういうのをするようになったら『可愛い』じゃなく『美人さん』になるんじゃないだろうか。


「あ、あのねエリク。合うか解らないんだけど、替えがないのも不便だと思って、()ってみたの。良かったら、着てみない?」

着られたらでいいんだけど、と、ロゼッタはちょっと恥ずかしそうに視線を逸らしながら、そんな事をぽそぽそと小声で言ってくれた。

「ロゼッタが? 僕の為に?」

「うん。それにエリクの服って、村の人と比べてかなり浮いて見えちゃうから……服装から変えてみるのもありかなって。お節介……だったかしら?」

不安げにちらちらと僕の顔を見る。ロゼッタとしてもかなり思い切ったことをしているらしい。

これは……かなりプレッシャーがかかる。

勿論、ロゼッタの好意を無碍(むげ)になんてしたくない。

だけど、こうやってまた、ロゼッタに甘えてしまうのはありなのだろうか。

起き上がれない頃は仕方ないと思っていたけれど、動ける今なら、働くなりしてお金を稼いで、それで自力で服を買うのが本当なのでは? なんて考えてしまう。


「……」

それが、ちょっとだけ迷いになったけれど。それ以上に沈黙が、ロゼッタを追い詰めているような気がした。

なんにも言わないでいる僕に、ロゼッタがどんどんと困ったようにそわそわし始めていたのだ。

迷ってるのが馬鹿らしくなった。女の子の厚意は素直に受けるべきだ。

腹は決まった。恩は受けられるだけ受ける。だから、その分だけ何倍にもして返す。それでいいじゃないか、と。

「ごめんロゼッタ。ちょっと感動しちゃって。うん、ありがとう。食べ終わったら見せてね」

わざとらしく目元を手でぬぐって、無理矢理出した涙をこすって見せる。

僕は感動したのだ。そういう事にした。

「あ……うんっ。良かった。エリク、もしかしたら困っちゃったんじゃないかって」

不安げな表情は、僕の機嫌を損ねたのだと勘違いしてのものだったのか、と。

ただそれだけのことがわかっただけで僕はほっとして。

それから、この女の子の繊細(せんさい)さにはもっと気を払わないといけないと、そんな事を考えたのだった。



「こんな感じでどうかな――」

ロゼッタお手製の服は、それまで着ていた長旅用の耐久重視のものと違い、軽さを重視した活動的なものだった。

薄手の青い半そでのシャツに腿くらいまでの黒い半ズボン。

姿見(すがたみ)で全身を見るとなんとなく子供っぽい印象も受けるけど、これなら農作業も(はかど)りそうだし、見栄えもかなり小奇麗(こぎれい)になっていた。

「うんっ、すごくいいわ! エリクって顔が可愛いから、そういう服の方がいいと思ったの! ぴったりだわ!」

ロゼッタは眼をキラキラと輝かせ、なにやらあんまり嬉しくない褒め言葉をかけてくれた。

ロゼッタがおおはしゃぎだから言うつもりもないけど、男に可愛いはどうなんだろうと思ってしまう。

「帽子もあるのよ。はい、麦藁帽子」

かぶってかぶって、と、満面の笑みで帽子を手渡してくる。

今の外見、プラス麦藁帽子。うん、すごく田舎の子供っぽい。

「はは……うん、ありがとう」

早くお金を貯めて服を買おうと胸に誓った。



「――ぷっ、くふっ、きゃはははははははっ!!」

そのままの格好でロゼッタと出かけた結果、真っ先に出会った第一村人・ミースは腹を抱えて大笑いしていた。

勿論、僕の姿を見てだ。それまではすごく不機嫌そうな顔をしていたのに、僕を見た瞬間これだった。

「ど、どうしたのミース? そんな、急に笑い出して……」

ロゼッタも困惑していた。友達がいきなり笑い出したら、それは混乱だってするだろう。

「いや、ごめ……ほ、ほんとは昨日のこともあったし、そっちの奴に嫌味の一つも言ってやるつもりだったのに――ぷくっ、くくっ――い、いきなり笑わせにきてるんだもん。こんなの笑うしかないっ」

勘弁してよ、と、涙目になりながらその場にうずくまる。

案外、沸点(ふってん)は低いのかもしれない。

「もう、何がそんなに可笑しいの?」

流石にロゼッタも気になるのか、ムッとしながらミースに聞いてしまう。

僕としては、変に聞かずにそのままやり過ごして欲しかったのだけれど。

「何がって――そ、そいつの格好よ! す、すごく似合ってる――歳とか私達とそんな違わないはずなのに、童顔な所為ですごく似合ってるの!! ぷくくくっ――あ、も、だめ……こ、こらえられなっ――」

口元を押さえながら、それでも堪えられず()き出してしまうミース。

「むむ、だから、なんで笑うのよ。エリクにとっても似合ってて、可愛いのに」

ミースがなんで笑ってるのかが本気で解らないらしく、ロゼッタはぷくーっと頬を膨らませていた。

「だから――お、男なのに可愛いっていうのがすごく……ていうか、笑わせるつもりじゃなく真面目にやってたのロゼッタ? この服のセンスってロゼッタが選んだ奴なの?」

ロゼッタが少しずつ不機嫌になっていくのに構いもせず、ミースは僕を指差し背中を震わせる。

「そうだけど。だけど、なんで笑うのよ。私、すごく良いと思ってるのに」

「いや、悪かったわよ。良いんじゃないの別に? 確かに似合ってるし」

じろーっとミースを睨むように見るロゼッタに、ミースは口元を押さえながらぽそぽそとフォローのようなフォローになってないようなことを言う。


 会話から『子供っぽい可愛い格好が似合ってる男』というのがミースのツボだったらしいのは解った。

僕自身、正直この組み合わせに麦藁帽子は狙いすぎてるなあと思っていたのだけれど。

流石にここまで笑われると悲しいものがあるというか、怒る気にすらならない。

実際、僕は会話に混ざったりせず、ひたすら遠くを見ていた。


「昨日までは変に陰のある暗い奴だと思ってたけど、そういう格好してるなら悪党には見えないわね……ふふっ」

ミースは、さっきよりは落ち着いたものの、まだ抑え切れてはいないのか時折笑いを堪えるような素振りを見せていた。

それでも、僕に向ける視線は昨日のそれより大分柔らかで、彼女からはよく感じられた苛立ちのようなものもほとんど感じない。

「むー……ミースがエリクを笑いモノにするのは納得いかないけど、まあ、イメージが改善されたのはよかったわ」

少しずつでもエリクのイメージアップを図っていかないと、と、ロゼッタは何やら拳を握りながらに誓っていた。


「……えーっと」

棘がなくなったとはいえ、ミースの視線は僕に向いたまま。

流石にいつまでも遠くを眺めている訳にも行かないので、何か一言言えればと、ミースに視線を向ける。

繋がる視線と視線。ただ顔を見るくらいのつもりが、目が合ってしまう。

「……何よ」

流石にこれは笑っては受けてくれないらしく、ミースはちょっと不機嫌そうにじと眼になっていた。

「昨日は、ごめんよ。折角忠告してくれたのに、僕はそれを無視してしまったから」

「別に。生きて帰れたのならそれでいいんじゃないの? ほんとならもっと色々言ってやるつもりだったけどね。でも、もういいわ。毒気抜かれたし――」

朝っぱらからなんてもの見せるのよ、と、背を向けて手をフリフリ、そのまま歩き出す。

「――私、帰るわ。ただお散歩してただけだし」

「あ、うん。またね、ミース。たまにはお茶もしましょうね」

「ええ、暇が出来たらね」

ロゼッタの言葉には返答を返しながら、ミースは去っていった。




「おや、おはようロゼッタ」

「おはよう、ベルタおばさん。今日はね、彼を連れてきたの」

まず真っ先に向かったのは村の北側、市場や商店の並ぶ区域だった。

朝も早くから、行商人らしきお爺さんと女の子が自分達の品物を並べたり磨いたりしている中、一番奥に設置されていた椅子に座っていたおばあさんに話しかけたのだ。

「エリク、この人がこの村で商売する上での顔役のベルタおばさん。おばさん、こちらの彼が、この間話していたエリクです」

「お、おはようございます。その、初めまして」

商売する上での顔役と言ったら、かなり偉い人なんじゃないだろうか。

人がよさそうなおばあさんだけど、緊張しながら会釈する。

「おやまあ。話に聞いた時はどんな胡散臭い輩なのかと思えば……随分と可愛い坊やじゃないかい? まだ十二、三ってとこじゃないのかい?」

そして子供扱いだった。態度が思ったより柔らかいのはありがたいけど、男としてはなんというか、悲しいものがある。

「と、歳も覚えてないけど……それよりは上だったらなあって、思ってます」

「そうかいそうかい。ま、あんたは村の事なんも知らんだろうし、一応ちっとは説明してやろうかね」

どっこいしょ、と、しんどそうに椅子から立ち上がり、ベルタさんが準備をしている商人たちの方を向く。


「まず、この辺りは村の中心、市場だ。市場には街や他の村からの行商人が集まる。村に居たんじゃちょいと見られない珍しい品も取り扱ってたりする」

今準備をしているのは二人だけどね、と、眉を下げながらに呟く。

「ちょっと前まではもっと色んな行商の人が来ていたけれど、最近はそうでもないのよね」

「そうなんだよね。若い男の商人なんて全然見なくなったしさ。女か枯れた爺しかいやしねぇ」

つまんないわぁ、と、ロゼッタの声にため息混じりに返すベルタさん。


「誰が枯れたジジイだ。ソレを言うならおめぇだってカビたババアじゃねぇか」

けけけ、と、笑いながら返すのは、傍で準備をしていた行商人の一人。

白髪頭に白髭の、大柄なお爺さんだった。

「はっ、あんたも四十年も昔は村々で若い娘にちやほやされるようなちょいと良い男だったけどさ、今となっちゃそこらの枯れ木と見分けがつかねぇんだよ」

「たっ、その男前にちやほやしてた村娘が良く言うぜっ」

女ってのはこれだから、と、老商は気勢よく「ぱんっ」と、荷物の入った袋を叩き、埃を払った。

「エリク、この枯れ木よりやかましい昔男前がガンドって言う、鉱石商人だよ。村で使ってるグリーンストーンなんかは、この爺からじゃないと手に入らなくなっちまってる。足元見やがってさ」

「バカ言うなよ。これでもギリギリの価格で仕入れてやっとこさここまで持ってきてるんだぜ? どこの村だって洞窟にもぐれるような男はいやしねぇんだ。輸入品に頼るか、そうでもなきゃ危ない橋渡って盗賊ども相手にしなきゃいけねぇ」

命掛けの旅なんだぜ、と、疲れの篭ったしゃがれた声で反論。

なるほど、洞窟にもぐれる人が居ないのなら、こうやって大変なルートで手に入れるしかないのだろう。

それが結果的に高騰に拍車をかけてるんだと思う。


「せめて街で売れるようになりゃ話は別なんだがな。よりにもよって畑を持ってる村でしか売れねぇから、グリーンストーンはあんまり実入りの良い商品じゃねぇのよさ」

「でも、ガンドさんのおかげで村の畑は凶作になったりせず、嵐に負けない強い作物を育てられるわ」

洞窟からだけじゃ大変だものと、ロゼッタがフォローに入る。

そのおかげか、ガンドさんも表情が少しずつ柔らかくなっていった。

「ふん……ま、そんな訳だからな坊主。グリーンストーンに限らず、なんか必要なものがあったら言えば売るよ。砥石(といし)とか、火打石とかな。勿論、買取りも歓迎だ」

品物はいくらあっても困らねぇ、と、鼻の下に蓄えた白髭を手でこすりながらにやりと笑う。

「解りました。余裕が出来たら――因みに、今のグリーンストーンっていくらくらいなんですか?」

「指先大のを俺のとこから買うなら500ゴールド。売るなら300ゴールドで買い取るよ」

差額200ゴールド。価格の4割くらいが商人の手数料、という事らしい。

「足元見やがって。エリク、この爺さんには売るのはやめときな。村の奴に売ったほうが金になるよ」

「ふん、言いやがれババア。この村にそんな金持った奴が何人いるって。貧乏人ばっかだから麦なんて作ってるんだろうが」

横から口を出すベルタさんに苦笑いしながら、ガンドさんは何故かロゼッタを指差す。


「このロゼッタ嬢ちゃんが村の奴らに金貸してるから生活できてるってだけで、どいつもこいつも借金返すのでひいひいしてるじゃねぇか。ま、村人全員が生活できてるだけ、他所の村よりずっとマシだけどよ」

「他の村とかは、そうでもないんですか?」

ロゼッタが村の人にお金を貸してるというのは初めて知ったことだけど、それ以上に気になる事もあった。

今、この村には若い男が全然居ないのだと聞いてはいたけれど、他の村もそうなのか、と。

「そりゃそうさ。なんせ労働力が居ねぇ。ここらの村じゃ、昔っからモンスターや獣、賊を追い返すのは男の役目だってんで、女は戦うことを全く知らねぇでいる。そのおかげで良い女が多かったが……今となっちゃな」

男の居ない村に未来はないぜ、と、ため息混じりにこぼす。

「……」

ロゼッタも、ガンドさんの言葉に、どこか寂しそうであった。

「とにかく、俺と商売したいなら、1ゴールドだってマケてやるつもりはねぇ。商人ってのは、妥協したらおしまいだ。相手に足元見られてとことんまで安く買われちまう。あっちのシスカみたいにな」

色んな場を見てきたんだろう。

(しわ)がれた中にある青い瞳をぎら、と、光らせながら、自分の向こう側で懸命に商売の準備をしている女の子をちら、とだけ見ていた。


「はいっ?」

突然名前が出たからか、シスカと呼ばれた女の子はびくりとし、驚いたようにこちらを見ていた。

短めの赤髪と赤眼の、背の低い女の子。僕やロゼッタよりも年下かもしれない。

「ああ、丁度良いわ。エリク、この娘がシスカだよ。この爺さんともども、この村によく行商に来てる作物商人な」

ついでにとばかりに、ベルタさんは歩いていき、シスカの肩を後ろから掴みながらぐぐ、と、前に押す。

「わっ、わっ、な、なんです? あ……お、男の、人……?」

そして、押し出されたシスカは、僕を見た途端真っ青になっていた。

「わ、わわわ……」

「えっと、初めまして……?」

「は、はいっ、はじ、はじ――はじめまひ――っ!?」

そして、僕が挨拶したのを緊張気味に返そうとして――

「~~~~っ!!!」

――舌を噛んだらしく、涙目になって口元を押さえていた。


「こんな感じで、そそっかしいというか、人見知り激しいというか、まあ、色々ダメな子なんだよ」

「見てる分には面白ぇけどな。商売慣れしてない訳でもないんだが、素人目に見ても危なっかしいだろ? 気が弱いから、客の意地が悪ぃと足元見られて、それをそのまま飲まされちまうんだよな。勘は良いから、まるっきり向いてない訳じゃねぇんだが……」

ベルタさんもガンドさんも、涙目になって俯いたままのシスカを見て、ため息混じりにそう評していた。


「でも、一生懸命なんですよね」


 さっきまで視界の隅っこに映ってた程度だったけど、それでもこの子が一生懸命品物を磨いたり、置き方に気を配ったりしていたのは見えていた。

だから、きっと商売熱心というか、真面目な子なんだろうとは思ったのだけれど。

「――っ!?」

シスカは、そんな僕の言葉に驚いたように眼を見開き、開きそうになった口元に(てのひら)を当てていた。

「おやおや」

「坊主、おめぇ、昔の俺みてぇな事言いやがるなあ」

「えっ……えっ?」

真っ赤になってそっぽを向いてしまうシスカと、何故か嬉しそうにによによ笑うベルタさんとガンドさんに困惑してしまう。

何か変なことを言ったのだろうか? 知らず知らずに言っていたのかもしれないと、不安になるが。


「もうっ、皆してエリクをからかわないで。もういいです。いきましょうエリク。まだ紹介したい人は沢山いるんだからっ」

そして、何故かロゼッタが頬を膨らませ、プリプリとしながら僕の手を掴んで歩き出してしまった。

「えっ? ロ、ロゼッタ?」

「いいからっ」

怒っている。何故か知らないけど怒っている。

「う、うん……その、それじゃ、行きます」

「ああ、またね」

変に足を止めることもないだろうと、素直にロゼッタに引っ張られるままに歩く。

勿論、挨拶は忘れなかったけれど。

去り際だったけれど、そんな僕たちを見てか、ベルタさんはいよいよ面白くて仕方ないのか、口元を押さえ笑いを堪えていたのが見えた。

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