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アイアムバグゲープレイヤー!!  作者: 海蛇
一章.チュートリアル
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#6.グリーンストーン


 洞窟探索は順調に進む。

出てくるモンスターはどれも小動物が元になったものばかりで、それほど脅威ではなく。

最初のスライムが一番の強敵だったのでは、と思えるほどに僕のナイフは容易に切り落としていった。

合間合間、モンスターが落としてゆく銀色のクリスタルを拾い集めてゆく。

確かこれは、集めるとマジックアイテムの材料になるものだったはず。

そんな風に動ける自分にも慣れてきた辺りで、少し開けた場所に出る。

天井に穴が空いているのか、陽射しの差し込むそこは、妙にぬめついていて。

何かを引きずったような後がところどころにあり、不気味だった。


(……何か、居る)

ぴん、と、感覚が研ぎ澄まされていくのを感じる。

ナイフを強く握り、周囲を警戒。

息を止め耳を澄ましていると、それまで気づかなかったものの、びちゃ、びちゃ、というぬめった音が小さく響いていた。

ごくり、唾を飲み込みながら、その先を静かに()く。


 陽の光に照らされる洞窟の一角。

そこには、僕の拳より大きな緑色の石(グリーンストーン)が壁から突き出ていた。

それから――

『グジュルルル……』 

大人と同じくらいの巨大な赤トカゲ――フレアリザードが一匹。

先の割れた長い舌でグリーンストーンをぴちゃぴちゃと舐めている。

何故そんなものを舐めてるのかは解らないけど、それに夢中で僕にはまだ気づいていない様子だった。

あるいは、目が見えないのかもしれない。スンスン、と出っ張った上顎(うわあご)の先端についた鼻が頻繁に動いているのが見えた。


 リザードの奥にある大き目のグリーンストーン。

あれ一つ持って帰れれば何回かは畑に使える筈だ。

欲しい。なんとかして手に入れたい。

だけれど、リザードは一向に動く様子が無い。

懸命にグリーンストーンを舐め取っている。

(まさか……餌か何かなのか? 舐めてるように見えてるけど、それで溶かしてるんじゃ……)

この大トカゲの唾液が人間のソレと同じかは解らない。

ただ、もしかしたら、鉱石くらいなら溶かしてしまうものなのかもしれない。

黙って見てるのは拙いんじゃないか。うっすら、頭にそうよぎる。

(――行くか!!)

歯を噛み締めながら、邪魔になる腰のカンテラをわざと音が鳴るように乱暴に置いて――ナイフを手に駆けた!


『……ビギ? グバォォォォォォッ』

その音で気づいたのか、リザードは音のしたカンテラの方へと向く。僕はもうそこにはいない。

「うぁぁぁぁぁぁっ!!!」

一撃。跳躍して真上から、その巨大な上顎にナイフを突き立てる。

『グヴッ!? グゥゥゥゥゥッ!! グギゥゥゥゥゥッ』

激痛に暴れ狂うリザード。都合よく下顎にまで貫通したのか、口を開く事ができないでいるらしかった。

だが、その鼻先からは高熱の空気が漏れ、僕の手を軽く(あぶ)る。

「――痛っ! このっ」

熱い。だけど、このナイフを放すつもりはなかった。

まっとうに戦えば、こんな大トカゲをナイフ一本で倒せるはずが無い。

体表を覆っている鱗はとても堅く、刃物だってかなり体重を掛けないと傷一つつかないだろう。

僕の全体重を載せて、それでようやく身体に通るような硬い身体なのだ。

リザードは必死になって僕を振り落とそうとするが、僕はナイフを持つ手を離さず、その鼻先を殴りつけてやる。

『グビィッ――フグググググ』

意外にもこれが効いたのか、トカゲは悶絶(もんぜつ)したように身体を震わせ、やがて鼻先から息を吸い込む。

そして、段々と手に持ったナイフが熱くなってくる。

(これは――)

そのまま柄を持っていられなくなり、飛びあがって靴の底でリザードの顔面を押さえつける。

上顎には男一人の体重を持ち上げるだけの力はないらしく、そのままの姿勢で、やがてリザードの喉が、腹が、少しずつ、大きく膨らんでいった。

『グ、グググ――』

鼻先は既に靴で塞いである。

ブレスを吐く事も出来ず、しかし腹の中では高熱の空気が膨らんでいき……という状況の中、リザードはやがて手足をばたつかせ始める。

限界が近いのだ。解放しなければ死んでしまうと気づいたのだろう。

だが、それまでだった。

『グギィッ』

バボン、と言う派手な音と共に腹が弾け、リザードはそのまま動かなくなった。

辺りには飛び散った血と(はらわた)

それから一気に解放された熱を帯びた空気が、洞窟の湿気と合わさって辺りを暑くする。


「……ふぅ」

ため息が出る。肩から力が抜けていく。

スライムの時同様、ほとんど焦る事もなく動くことができた。

もう消え去って解らなくなっているけれど、自分の身体より大きい化け物ですら、僕はナイフ一本で倒せてしまったのだ。

かなり、戦い慣れてるのではないか。もしかして、僕は結構強いのでは?

まだ何も思い出せない以上慢心は危険だろうけど、ちょっとだけ誇らしい気持ちになった。

解らないことだらけの中でちょっとだけ得られた自信に、安堵していた。

緊張気味に張っていた頬を緩めて、リザードが落としていった黒い核を拾う。

そうして、落ちていたナイフを拾って、柄を壁のグリーンストーンに向け――叩き付けた。


 洞窟はまだまだ先があるようだけれど、とりあえず当座のグリーンストーンを手に入れられればそれで十分だったので、そこで引き返して村に戻る事にした。

まだ深いのなら、この先にもグリーンストーンが眠っている可能性がある。

でも、もっと強いモンスターがいるかもしれない。

今のフレアリザードみたいなのがうじゃうじゃいるようなら、とてもじゃないけど太刀打ちできないだろう。

今の僕はただの農夫だ。そんな無理をするつもりはなかった。




「おかえりなさいエリク。随分遅かったけど、遠出してたの?」

村に戻った僕は、暗くなっていたのもあって、そのまま寄り道したりせずロゼッタの家に戻った。

丁度編み物をしていたらしく、入り口奥のテーブルに座っていたロゼッタに見つかってしまう。

「ただいま。ねえロゼッタ。ちょっとこれを見てもらって良いかな?」

腰にカンテラとナイフという妙な出で立ちの僕に若干首をかしげながら、それでも普通に戻ってきた僕ににっこりと笑みを返してくれるロゼッタ。

僕は肩にかけていたサックをテーブルの上に置き、その中身を取り出しロゼッタに見せた。

「グリーンストーン? こんなに大きいの、どうしたの?」

流石は農家の娘というか、ロゼッタはすぐにそれが解ったらしく、僕をじっと見つめる。

疑問と言えば疑問だろう。買えば高くつく鉱石を、銭無しに近い僕が持ってきたのだから。

「もしかしてエリク――」

「うん。洞窟に入ってみたんだ。その、農業には、グリーンストーンが欠かせないって聞いたから」

素直に答える。昨日嘘をついたのだ。今日はつかない。

「そんな、危ないって言ったのに。モンスターだっているし――」

ロゼッタが心配そうに僕を見ていたのがわかっていた。

そんな顔を見てると胸が痛む。キリキリと、切なく締め付ける。

だから、そんな心配しなくても大丈夫だって、この娘には知ってほしかったのだ、きっと。

「モンスターなら、倒してきたよ。身体が戦い方を覚えてたみたいで。この通り、さ」

傷一つないよ、と、袖をまくって腕を見せる。

手の甲はフレアリザードとの戦いで負った火傷があるけど、それはグローブで隠していた。

「ん……本当に大丈夫?」

「大丈夫。まあ、ちょっと往復と戦闘で疲れちゃったけど、大したことないよ」

雑草を抜いたり畑を耕したりしてるほうがよほど疲れるくらいだった。

この身体、どうやら長距離を歩いたり戦ったりする方はそんなに(こた)えないらしい。


「身体が戦うのを覚えてたって事は、エリクは冒険者か何かだったのかしら? それとも、旅人だったとか――」

「どうだろうね。案外、こうなる前にも同じように畑を耕したりしてたのかもしれないし――」

それはないだろうなあと思いながらも、確かにこれは僕の記憶の一片に関わることなのだろうとも考えて、曖昧に言葉を濁す。

「でもエリク? 怪我もなく帰ってこれたのは良かったけれど、あんまり無茶をしないでね? 貴方の記憶に関わることなら私は止められないけど――その、怪我とか、して欲しくないし」

ちょっとだけ抗議めいた視線で僕を見つめた後、視線を逸らしてしまう。

嘘をついて洞窟に入ってしまったのだ。ちょっと拗ねているのかもしれない。

「ごめん。洞窟の事は、昨日ミースに聞いてて。だけど、どうしても気になって仕方なかったんだ。なんか、変な確信みたいなのがあって」

「確信?」

「モンスターが居るって聞いても全く怖くなくって。僕ならやれるんじゃないかって、変な自信があったんだ。なんでそんな風に思ったのかも自分では解らなくて。だから、きっとそれは記憶に関わることなんじゃないかなって」

実際問題、そのおかげで僕は一つ、それらしき感触を得ることが出来た。

何にも解らなかった僕にとって、これは大きな前進のはずだ。

「……もうっ。エリクの嘘つき。そんな事、一言も教えてくれなかったわ」

つん、と、今度はわかりやすくそっぽを向いてしまう。

「ごめん。言ってもきっと止められるって思ったから。その、ミースからも口を酸っぱくして言われてたし」

「そういえば、さっきミースが来て、やたら貴方の事を言ってたけど――」

「うん。洞窟の前まで来て止めてくれたんだけど。それでも構わず入ってしまったから」

「はあ、もう。それじゃミースも怒るわ。私だって怒る」

そういうのはダメよ、と、唇を尖らせ、指を立てながらにじーっと見つめてくる。可愛い。


「――でも、まあ。エリクは結果を残せる人なのね。実際怪我もしてないみたいだし、エリクにとってはそんなに危なくないと思えた?」

どうなの? と、真面目な顔で僕の瞳を覗きこむ。

「いけると思うよ。僕なら、グリーンストーンの採掘は可能だ」

余裕だ、なんて言ったらまた怒られそうなので、そこは抑えて、それでいて自信を感じさせられるように言葉を選ぶ。

「だから、あの畑ももっと耕していけるよ。ターニットも沢山作れる」

なんにも心配はいらない、と、笑って見せる。とにかく今は、ロゼッタの心配を減らしたかったのだ。

「……そう」

ロゼッタは、噛み締めるようにぽつり、それだけ呟き、唇に指を当てながら、考えるように(うつむ)く。

そうして、すぐに顔を上げ、笑っていた。

「解ったわ。畑の事だって、エリクに任せるって言ったんだもの。その畑を発展させる為にエリクがグリーンストーンを集めるのは、必要なことだものね。心配には違いないけど、エリクは、ちゃんと考えてるんだもの。私なんかと違って、先を考えて行動してるのね」

すごいわ、と、微笑みながら、テーブルに置かれたグリーンストーンを手に取った。

「――もうずっと畑で作物を作ってなかったから、これの事を忘れてしまっていたわ。そういえば、エリクはこれをペンダント代わりにつけてたわよね?」

「うん。今畑で作ってるターニットの為に使ってしまったけど」

「グリーンストーンはね、私達畑の民にとっては護り石でもあるのよ。全部使わずに、アクセサリーにしたりして身近に持ってると、いざという時にそれで助かる事もあるって、昔お父さんが言ってたわ」

とっても大切なものなの、と、目を閉じながらに。

どこか懐かしげに、楽しそうに語るロゼッタは、なんとなくどこかで聞いたような、そんな事を話してくれていた。

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