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アイアムバグゲープレイヤー!!  作者: 海蛇
五章.夏の再来・秋の奇祭

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#1.ミライドバギー!


 リゾッテ村への支援が始まり、余裕が生まれたことで、ラグナとリゾッテの間で交友関係が生まれた。

最初は一方的に支援するだけだったけれど、次第にリゾッテ側も「こちらにもまだ出せるものがあるので」と、余りがちだった資源を売りに出すなど、交易関係に発展、今では双方の特産品を互いの村で売買できるようになっていた。

「いらっしゃいいらっしゃい! リゾッテ名産、リンゴのジャムよ! パイもあるから食べていって!」

「シュリンにも卸していた生糸、ラグナの皆さんにもお分けします! 一玉で50ゴールド! 品質は確かですよ!!」

広場では今、リゾッテから特産品を売りに来た人たちが元気な声をあげている。

普段馴染みのない商品も多く、買い物に来ていたおばさん達も興味津々な様子でそれを眺めていた。

売れ行きも悪くないようで、大人数が押し寄せる昼前の時間帯には、並べていた商品もあらかた()けるほど。

近くで売りに出していたシスカが「今日は静かですねえ」と平穏の中お茶を啜っていたくらいには客足がそちらに向いていた。


「でもシスカ的には、それは大丈夫なのかい?」

普段なら村のおばさん達が大挙して押し寄せ、買い叩かれて涙目になっていた頃である。

いや、そうなるのは望ましくないのは解っているけれど、売れないのはそれはそれでまずいのではないかと思うのだけれど。

だが、シスカは余裕の様子だ。

「大丈夫ですよ。私はなんだかんだお兄さんが買ってくれる分と、お兄さんから仕入れたターニットを売った分でそれなりに元が取れているのでー」

ほくほく顔でお茶を差し出してくる。

ありがたく受け取って啜る。砂糖が入っているようで、妙に甘かった。

「そういえば、シスカはリゾッテ村では商売はしてなかったの? リンゴとか生糸とか、結構お金になりそうなものがあったみたいだけど……」

「んー、私がちっちゃかった頃は、リゾッテ村は生糸の産地として、そして数少ないリンゴが安定して手に入る村、という事でお父さんと一緒によく足を運んだんですけど、最近はそもそも買えるものがない、という状況が続いていたんです」

作物不足からくる不況はどこの村でも起きている状況。

お金よりも目先の飢えを凌ぐことが優先されるなら、作ったものは売りに出されず、その村の人たちで消費されてしまう事にもつながる。

商人としては、売りに行っても住民に商品を買う金が無く、買いに行こうにもモノがないという状況では、行くだけ無駄、という判断になってしまうのかもしれない。

「それでも、様子見の為に月に一度くらいは顔を出していましたけど……あの村の人たち、すっかり、商売をする気がなくなってしまっていたというか」

「じゃあ、今は復活して、商売する気になったんだね」

「そうですね。これもお兄さんたちのおかげですよ。私達だけでは、多分何も変わらないままだったでしょうから……」

シスカは眉を下げながらしょんぼりするけれど、これは別に、行商の人たちが悪い訳ではないのだ。

戦争が悪い。それ以上の何かなんてない。

「でも、シスカ達がまた顔を出すようになったから、金回りもよくなっていったんじゃないかな? あっちの村長さんも、『また行商さんたちが来てくれて嬉しい』って言ってたし」

そのリゾッテ村の村長は、今では月に一度くらいの割合でこちらに顔を出し、アーシーさんと互いの村について意見交換をしているらしかった。

村の代表者として思うところもあるようで、アーシーさんも先達たるあちらの村長には学ばせてもらうところもあるとのことで、中々良好な関係が続いている。

「そう言ってもらえれば……私も少しは気が軽くなりますよぉ。ずっと、申し訳ない気持ちばかり感じてしまっていて……」

「仕方なくても、気分のいいものじゃないもんね」


 苦しんでいる人を見捨てることは、どれだけ理由があっても辛い。

戦場ではそれで気を病む人も多いくらいで、だからこそ、一思いにとどめを刺してやるのは温情だと、せめてもの情けだと皆が言っていたのだ。

僕自身も……何度もそれはやってきた。

だからこそ、とどめすら刺さず生殺しのまま放置するしかなかったシスカ達の心境は、察して余りある。

例え状況がそれを許さなかったとしても、例え仕方ないと言える理由があったとしても。


「だからこそ、お兄さんたちには感謝もしているんです。あの村の人たちを助けてくれて……ありがとうございました」

ペコリと、礼儀正しくお辞儀されてしまう。

でもそんな、感謝されるようなことはやっていないのだ。

僕には、僕の利己があるからやっているだけなのだから。

でも、悪い気はしない。僕の心のどこかに、自分の都合と同じように、誰かに認めてもらいたいという欲求でも隠れていたのか。

「シスカに感謝してもらえるなら、やった甲斐はあったかな?」

つい顔が綻んでしまう。女の子に感謝されるのって、嬉しいなって。




「ミース、エリク、ミライドさんが帰ってきたわ!」

広場から戻り、そろそろ昼食の時間かな、と思った辺りでロゼッタが家に訪れる。

ミースの時もそうだったけれど、ロゼッタもミースの家に入るのに躊躇しないのは関係性が窺えていいなあと思う。

「やあロゼッタ、久しぶりだね」

「あっ、ミースのお父さん、こんにちは! お久しぶりです!」

丁度プラウドさんと二人で食卓で雑談をしていた所だったのだけれど、やはりというか、プラウドさんはあまり人と会わないらしい。

比較的よく顔を出すロゼッタですら久しぶりになるくらいなのだから、他の村の人とはほとんど会ってないんじゃないだろうか。

ロゼッタの元気のいい挨拶に、プラウドさんも「相変わらず元気だねえ」とにっこり笑顔になる。

「ミライドが帰ってきたのね? 丁度いいわ。お鍋がそろそろ限界みたいだし、新調しないとね」

「僕もちょっと武器を見てもらおうかな……」

ミライドさんのところで見られる武器は鋼が限界だと思ったけれど、もしかしたら何か変化があるかもしれないし。

そうじゃなくても、鉱石を渡す相手が増えるのは悪くない。

「私も包丁を新調してもらおうと思ってたの! 二人とも、ご飯食べ終わったら一緒に行かない?」

「いいわよ。ロゼッタはお昼は?」

「私はパンを食べたからいいわ」

相変わらず、というか、僕と暮らしていた時以上に、今のロゼッタは小食だった。

流石にパンだけというのは身体によくない気がする。

ミースも「はあ」とため息をつきながら厳しい視線をロゼッタに向けていた。

「スープも飲みなさい? サラダも食べてる?」

「サラダは……お金がかかるし」

「はあ、もう、いいロゼッタ? 貴方は気にしてないかもしれないけれど、女の美貌は食生活から始めるものなのよ? ちゃんと栄養とか気にしなさい? 用意するから待ってて」

こういう時、ミースは本当に相手の事を考えてると思う。

親友が栄養不足で体調を崩したり、疲れてしまうのが嫌なのだ。

だけれど、ロゼッタは「あの、でも」と、歯切れ悪く手をわたわたさせる。

「……何よ?」

「その、ちょっと今は……お腹が空いてないというか」

「はあ? 確かにあんたは小食だったけど、流石にパン一つじゃ――」

「だ、大丈夫だからっ、その……気に、してるの」

僕の方をちらちら見ながらミースの傍に寄っていく。

何だ? 何を気にしているんだ……?

「気にしてるって何を……えっ? その……そんなの気にしなくても……そ、そうなの? うーん……」

「だから、その……まだ……」

ぽそぽそと何か小声で、耳元でこっしょりとお話しているようなのでよく聞こえない。

ただ、時折僕の方を見たりしているので、何か僕に関係ある事なのだろうか?

「まあ、確かに解らないでもないわ……でもロゼッタ? これから暑くなるんだから、無理だけはしちゃだめよ?」

「うん。大丈夫よ。朝はちゃんと食べてるし、お野菜もしっかりとってるから……」

「ならいいけど……でも、ふぅん、ロゼッタがねえ……」

ミースもまた、腕を組みながら僕の方を見てにやにやと笑う。

なんか、どこかで見たような顔だ。

「ま、これ以上はこの話はやめにしましょ。エリク君とパパ、早く食べてね?」

「えっ、うん」

「私は別にゆっくり食べても問題ないと思うが……」

「パパが後片付けしてくれるならそれでもいいんだけど?」

「おっといけない、執筆のノルマがまだ終わってないから早く食べることにするよ」

ははは、と、力なく笑ってごまかそうとするプラウドさんは、ちょっとだけ駄目な父親だった。



「いらっしゃいませー! 『鉄壁工房』へようこそにゃん!!」

「っ!?」

鍛冶屋へ行くと、ミライドさんが壊れていた。

もうちょっとこう、いかにも鍛冶屋って感じの男っぽいいでたちだったはずなんだけど。

何故かメイド服を着ていた。

猫耳までつけている。というか語尾がおかしいぞ?

《あれ? なんで冬の感謝祭の格好を今してるんだろう? あっ、そうか、山にいる間に色んな衣装着せてアリスと一緒に遊んでたの忘れてた……》

着せ替え人形にされていたのかミライドさん……

「にゃんって何よ。どうしたのミライド?」

「ちょっと変だけど、私は可愛いと思うわよ?」

驚きはしたけれど、確かに背が高いミライドさんにはこの衣装は割と似合っている。

ただその……猫耳は可愛すぎるのでどうかと思うけれど。

「えーっと、すみません。なんで自分でもこんな格好なのかよく解らないんですけど、脱いでもいつの間にか着ていて……」

「なにそれこわい」

呪いの類だった。それも神様より偉い人たちの呪いだ。性質が悪い。

《エリク君にも後で着せないとね。絶対に合うよ……ふへへへぇ……》

僕にも降りかかる予定の呪いだった!!

「気を抜くとなんでか『にゃん』ってつけてしまって……うぅ、自分でもなんとかしたいんですけどぉ」

どうにもならないんですにゃんと嘆きながらも笑顔になるミライドさんを見て「これはもうどうしようもないな」と諦観を覚えていた。

どうにもならない事ってあるよねって。

「それはそうと、初めましてミライドさん。エリクです」

「うぇっ? あ、は、はい、初めまして。エリクさん? ああ、ロゼッタちゃんが噂してた子ですか?」

やはりこの局面でもロゼッタの噂が猛威を振るっていた。

ほんと、この子の噂ってシャレにならない影響力があるから、変な噂を立てられないように気を付けないと。

(そういえば僕が女物の水着を着た時の事、いつの間にか村中に広まっていたな……)

可愛い水着が似合う男の子、という噂は、できればもう二度と広まってほしくないものだ。

そういえばあれも夏の出来事だったか……


「ミライド、私はお鍋を新調したいのよ。同じものでいいから売って頂戴」

「私は包丁をお願い。サイズがこのままならそれでいいから」

前の人生について想いを馳せていると、ロゼッタとミースが用事を進めていく。

ミライドさんも「解りました」と、要求通りのものを持ってきて商売を始める。

そこからの流れは、前回とほぼ同じ。

「それで、エリク君が打ったものを見たいっていうのよね。見せてあげてくれない?」

「ええ、もちろんですよ! それではどうぞ、工房へ!」

ただ、今回はミースが話を進めてくれたので、ここら辺、関係性で変わってくるのだろうか?

もしロゼッタともミースとも関りが薄い人生があったとしたら、ミライドさんとの出会いはどうなっていたのか。ちょっとだけ気になってしまう。

(いや……そんな事、探るのはよくないな)

今の人生を最大限楽しむべきだという理性が働き、素直に今を優先することにした。


「エリクさんの武器は、どんなものなんですか?」

「鋼のショートソードとダガー、それと自作のアイテムですね」

二人きりの工房。

鋼と聞いて「おおう」と驚いた様子のミライドさんは、「それでしたら」と、工房の奥の方に入っていき、二振りの剣を持って戻ってきた。

「こちら、うちの工房で一番凝った材料を使った剣なんですけど……」

赤銅色の刀身を持つ曲刀と、まるで氷のように冷たい印象を受ける、水色の刀身の直剣。

「双剣、ですかね」

形状と色の違いから、セット感はあまりないかなと思いながらも、どうしてかそれが当たり前のペアリングのように思えて。

渡された双剣を手に持ち、両手に構えると……びっくりするくらい、自分にマッチしていた。

「赤い剣が『ブレイズイーター』、青い剣が『チェリッシュ』という名前で……師匠が打った魔法剣なんです。持った感じはいかがですか?」

「すごく、持ちやすいです。軽いけれど、これは軽鉄を?」

「マジックスティールですよ。魔法剣には欠かせない材料だとかで」

あくまで試しに持たせただけなのだろう。

軽く構えたりした後、「いいですか」と聞かれ、そのまま剣を返却するや、話がまた始まる。

「これを手に入れるにはかなりの手間がかかるんです。鋼そのものは、山に籠れればいくらかは手に入るんですが」

「精製に時間がかかるって事ですか?」

「ええ。これを生み出す為には、二通りの方法がありまして」

きゅっと握った手を見せて、ミライドさんは神妙な表情で僕を見つめる。

「一つは、魔法が得意な方が、鋼に向けて魔法を撃ち続ける事」

それによって鍛えられた鋼が、マジックスティールに変質するのだと聞けば、その奇妙な儀式のような真似にも意味は感じられた。

指が一本立つ。

「もう一つは、魔法が得意なモンスターの魔法攻撃を、延々繰り返させること」

指が二本目。狂気を感じる手法だった。

けれど、魔法を糧に鍛える鋼と考えると、確かにその方法で間違ってはいないように感じる。

「このどちらかさえ満たしてくれるなら、私にも理論上は、マジックスティールが生成可能なはず……もし生成できたなら、師匠を超える事だってできると……うぅぅ、でもさすがに自分で双剣を作るのはちょっとなあ……」

曖昧なのは自信が欠落しているからか。

もったいないな、とは思いながらも、気の利いた言葉の一つも掛けられず。

ただ、役に立つ情報には違いないなあと思いながら、彼女の説明通りに進められるように、パターンを構築し始めた。

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