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アイアムバグゲープレイヤー!!  作者: 海蛇
四章.手に入れた自由と失った人生

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#12.お洒落には本気になる女・ミース


 森からの帰り道。

僕は、ミースを抱えながら走っていた。

「ちょっ、あんまり激しくゆすらないでっ! 怖いっ」

前回と同じように、ボスを討伐するとトラップも手下の賊も完全に居なくなるようで、駆け抜けても危険一つない。

「それに、エリク君だって疲れてるでしょっ、無理しなくても――っ」

「無理なんてしてないよ。それよりも、早く帰る事の方が大事だ」

腕の中のミースを安心させるように。

いや、それ以上に、早く戻って治療したかったのだ。



 やることはやった。後はミースを連れて無事に戻るだけ。

そう思っていた矢先、ミースが足を痛めたようで、その場にうずくまってしまった。

いや、もうかなりの間、無理をしていたんだと思う。

でこぼこの多い森の、道なき道をサンダルで歩き回ったのだ。

いくらミースがこの森を歩き慣れていたとしても、足にかかる負担はかなり大きいはず。

気楽な散歩でもなく、賊の討伐をしながら、隠れたりしながらの移動なのだから。


 僕は、最初ミースの足の痛みが回復するまで待つつもりだったのだけれど。

そもそも、僕が賊の討伐を急いだのはリゾッテ村に向かう方便を得るためだったので、ここで足止めをするのはよくないと思ったのと、もう一つ、足をさすりながら「ごめんね」としょんぼりとしてしまったミースを前に、我慢ができなくなりそうだったのが大きい。

あんな可愛いミースを見続けていたら、思わず抱きしめてしまったかもしれない。

頭を撫でてしまったかもしれない。キスしてしまったかもしれない。

だから、急ぐ必要があったのだ。

この、胸の中で困ったように縮こまっている、最愛の少女と共に、村へ。


「もうすぐだから、我慢してね」

視線も合わせずに、顔も見ずに走り続ける。

「おっ、重いでしょっ、無理しないでよっ、大丈夫っ、もう治ったから!!」

そんな簡単に足の痛みが治るはずがない。

ミースの強がりか照れ隠しだろうと思いながら、その悲鳴めいた言葉は聞き流し。

「ミースは軽いなあ♪ こんなに軽いなら、簡単に色んな所に連れまわせそうだなあ♪」

代わりに陽気な歌の一つも歌ってやった。

「なっ!? こ、こんなことしなくたって……別に、私は……」

「そうなの? じゃあ、色んな所に行こうね。ピクニックとか」

僕としては前向きな提案をしたつもりだった。

「~~~~~っ、い、いいわよ、それくらい」

だけど今度はミースが僕と視線を合わせてくれない。

顔を見てもそっぽを向かれてしまった。

ちょっといじりすぎたか。でも前向きな返答をしてくれたから良しとしよう。

「帰ったらさっきのスパイスの種について調べたいんだ」

「それなら、ロゼッタのところで……そういう植物の本とかあるし、調べられるわよ」

「そうしよう。それで、調べたら広場に行こうね」

勿論、服飾商人の人を探すことも忘れない。

僕の服をどうにかしたいというのも優先順位的には割と高いのだ。

大きな目標としてはリゾッテ村だけれど、小目標としては僕の新しい服やスパイスの種について調べることも重要な項目。

賊を倒したとしても、当面の間やることは多そうだった。

「あう……エリク君、急に色々と始め過ぎよ。もっと落ち着けばいいのに……」

「ミースと一緒にいる時は落ち着くから、大丈夫」

「今が落ち着いてないじゃないのっ! もっと落ち着きなさい! 落ち着いてったらーっ! エリク君の誘拐魔ーっ」

可愛らしく叫び声をあげるミースにちょっとだけ背筋がゾクゾクとする不思議な感覚を覚えながら、僕はミースの声を無視して村へと帰還したのだった。



「あらあら、エリクさん、それにミースも。二人して、賊の討伐を……?」

「ええ。ミースに手伝ってもらったらスムーズに進んで……危険にさらしてしまうから、心配してたんですけど」

村に戻り、ミースへの治療もほどほどに、アーシーさんへ報告する為家に向かおうとしたのだけれど。

「……私は別に、大丈夫だと思ったし。信じてたし」

ミースは「私も連れて行きなさい」と主張して譲らなかったので、仕方なくまた抱きかかえて移動し、アーシーさんの元へ。

その時のミースや、さっき以上に混乱していてとても可愛らしく面白かった。

村の人たちの反応も面白かったし。またやろうと思う。

「でも、ミースは足を痛めてしまったのね。そんなサンダルでは流石に無理よねえ」

「連れまわした僕の責任です。ごめんなさい」

笑っていられるのもそこまでで、いくら本人が自発的についてきたと言っても、村の住民の一人であるミースに痛い思いをさせてしまったのは、ついてくることを了承し、途中からは手伝ってもらってしまった僕の責任だ。

強く言って聞かせれば、ミースだって機嫌を悪くしても帰ったかもしれないのだから。

この辺り、前の時(・・・)に初めて西の洞窟に向かった時と真逆だなあと思いながら、それでも自分の責任を感じてしまう。

けれど、アーシーさんは「大丈夫ですよ」と、少し困ったように眉を下げながら手を振り振り。

「その子が怪我をしたのは自業自得ですから。前からよく言ってたんですよ。『村の外は危ないし、何かあったら困るから軽装では出歩かないで』って。なのにこの子ったら」

「だって、仕方ないじゃない……」

アーシーさんの苦言に、ミースは居心地悪そうにそっぽを向きながら抗議する。

けれど、アーシーさんは「どうして?」と聞くと、ミースはダンマリ。

少ししてアーシーさんは「なるほど」と納得したように頷いた。

ミースは、赤面していた。

「……?」

僕だけがおいてけぼりになったような気分だ。

女の人にだけ分かる会話、という奴なのだろうか。

なんだろう、ひどく居心地が悪い。

「ま、そういう事なら仕方ないわね。待っていられないのなら、これ以上は言わないようにしましょう」

「……ち、違うし」

「ええ、そうなんでしょうね?」

何かに納得したように頷きながら、ミースの俯きながらの反論は適当にスルーし。

アーシーさんは、再び僕に向き直って笑顔になり、テーブルの上のクッキーを「どうぞ」と勧めてくる。


「――それはそうと、まさかパトロールだけでなく、すぐに賊を倒してしまうなんてびっくりよ!」

これに関しては以前同じ状況になった時と同じ流れだった。

その後の展開も予想できる。

「すごいわエリクさん♪ 貴方の活躍は、必ずや皆に広めて見せるわ! ありがとう!!」

一字一句同じようなセリフ。

ああ、やっぱりそうなるのかと思いながらクッキーを食む。

堅焼きの為かがり、と渋い音を立てて砕ける。じんわり広がる紅茶の香りと甘さ。

ここからは、前回と違う流れにしたいと思う。

「アーシーさん、お願いがあるんですが」

「あらあら、私の個人的なお礼の催促ですか? エリクさんたらせっかちさん♪」

朱に染まる頬に手を当てていやいやするように首を振るアーシーさんはちょっとコミカルだったけれど。

「いえあの、違うんですが」

勘違いされても困るのではっきりと否定しておいた。

「違うんですかっ!?」

「エリク君がそんな……変なことを頼む訳ないじゃない」

空気読みなさいよね、と、これ見よがしにぐっさりとアーシーさんに釘差しするミース。

アーシーさんはといえば「ぐぬぬ」とちょっと悔しそうだった。なんで?

「まあ、冗談は置いておいて、そのお願いの前に、私の方からお礼を渡しておきますね」

幸い冗談だったようだけれど、それにしては悔しがり方が本気っぽかったのが謎い。

そっと差し出してきたのは、カラフルなシャツとズボンのセット。

「これは……?」

「エリクさんに、新しい服の一つでも、と思いまして。今着ている物も品としては結構なモノのようですが、流石に傷み始めているでしょう?」

にまにましながらも指摘そのものは的を射ていた。

新しい服が欲しかったので、これは本当に助かる。

「いいんですか? その、頼もうとしたこともまだ言ってないんですが……」

「いいんですよぉ? 元々パトロールの報酬として用意していたものですから。勿論それとは別に、討伐の報酬もちゃんとしますから。お話の件はそちらでいいですね?」

何を言うつもりかは解りませんが、と前置きしてから。

そう言われると「確かに」と思えてくるから不思議だけど、これもきっと、アーシーさんの気遣いなのだろう。ほんとにこの人は人間ができてる。

「ありがとうございます。それじゃ、家に帰ったら早速着てみようかな」

「ええ、ええ、そうしてください。サイズとかがもし違ったらロゼッタに言ってくださいね。勿論、ミースが手直ししてくれてもいいけれど」

「それくらいなら私ができるわ。でも、そう……ロゼッタに頼んだのね」

大丈夫かしら、と、畳まれたままのセットを見て不審がるミース。

ああ、確かにそうだ。ロゼッタが作ったという事は、そのデザインは――

「安心していいですよ? デザイン案は私が考えましたから。あの子にデザインまで任せるとほんとすごい事になるから……」

キルトを縫わせるとすごいのにねえ、と、ため息交じりに語るアーシーさん。

でもさすがアーシーさんだった。すごいぞ、流石村長代理だ!

「どんなデザインかな……」

感激しながらシャツを広げてみる。

そしてお披露目される『どすこい超元気』の文字。

「……」

「……」

ミースともども固まった。

いや、それはないだろうと。

《流石ボクの作ったキャラだけあってセンスは最高だね! このセンスはアリスのキャラには作れないよ!!》

そして余計な賞賛まで聞こえる。

そうか、この人の所為だったのか。許せないなあ。

(ロゼッタのセンスは笑われても僕に似合ってるものだったようだけど、アーシーさんのセンスは……)

ズボンも変なポケットがたくさんある地味なものだったし、誰狙いの何なのかもよく解らない。

少なくとも僕は格好いいとは思わなかった。

アーシーさん自身は落ち着いた、大人の女性のような印象を受ける服装だけに、これはショックが大きい。

「控えめに見てもダッサいわね!」

「そんなっ!?」

そしてミースがばっさり切り捨ててくれた。

いい、やっぱりミース最高だよ!

「はあ……もういいわ。私が作る。ちょっと時間掛かるだろうけど、エリク君に合いそうな服、縫ってあげるわよ」

それでいいでしょ、と、僕を慰めるように宣言してくれる。

それはすごくありがたいけど……でも。

「うん。ありがとうミース。でもこの服も――」

「こんな服着せて村なんて歩かせられる訳ないでしょ! 即売りに出すわよ! ステラにでも押し付けなさい!」

ステラはゴミ箱じゃないと思う。

「あのあの、それ、一応お礼の品なんですけど……」

「感謝の気持ちは身体で払いなさい! エリク君の活躍を村中にがっつり広めるの! いいわねアーシーさん!?」

「は、はいっ」

ずっと年上であろうアーシーさん相手でも勢いで押し込むミースのこの気迫。

ことオシャレに関しては、ミースに逆らってはいけない気がした。

だけど同時にありがたくもある。

本来の用事もこのままなら問題なく進められるだろうから。

そう思いながら、僕は「それはそうと」と、次の話に進めるのだった。


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