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アイアムバグゲープレイヤー!!  作者: 海蛇
一章.チュートリアル
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#5.西の洞窟攻略開始


「ミースと会ったの? もう、呼んでくれれば良かったのに」

夕食の時間、昼間の女の子の事についてロゼッタに聞いたところ、やっぱり彼女の友達だった事が解った。

にこやかあに笑いながら鳥肉の煮物のようなものが入ったボウルが渡される。

「今夜は豪華だね」

この家に来て、肉料理なんて出たのは初めてだった。

別に肉じゃなくても十分美味しかったし全く不満はなかったけど、やはり肉となるとテンションが上がってしまう。

「畑の復活記念です。雑草だらけの状態から、また胸を張って畑って呼べる姿に戻ったから。ちょっと奮発しちゃいました」

ぽん、と、手を叩きながらにっこり。

ロゼッタの笑顔と目の前の肉料理で、早く食費くらいは払えるようにならなくちゃ、とますます気合が入る。

「ミースは、ちょっと負けん気が強いけど、善い娘だから」

「ロゼッタとも仲がいいの?」

「ええ、親友よ。子供の頃からいつも一緒に遊んでたわ」

姉妹みたいに、と、思い出しながらに唇に指を当てる。

「でも、ちょっと心配性だから、結構がみがみ言ってくるの。エリクも、何か言われなかった? あんまり気にしないでね。悪気があって言ってる訳じゃないはずだから」

確かに色々言われたけど、そのいずれもがタメになる事ばかりだった。

最初の印象はあんまり良くなかったけど、そこまで悪い子に見えなかったのもあるし、ロゼッタがこう言うのなら本当に善い子だったに違いないので、僕も頷く。

「大丈夫。色々アドバイスしてもらっただけだから」

「そう、ならいいんだけど……」

僕の返事に、ほっとしたように胸をなでおろすロゼッタ。

どこか嬉しそうで、静かに席に座ると、また笑顔を見せながら言うのだ。

「それじゃあ、いただきましょうか」

「うん」

二人、静かに眼を閉じてお祈りし、食事に手をつけ始めた。



「僕、この辺りがどういう風になってるのか知らないんだけど、立ち入ると危険な場所とかってあるかな?」

食事時の雑談の合間。

グリーンストーンを採掘できる洞窟の場所を、それとなくロゼッタから聞けないかな、なんて思いながら、遠回しな質問をした。

「危険な場所……? んん、この辺りだと、西の洞窟かな……村の入り口からずーっと西に行った先、鐘が二回鳴るくらい歩くとあるんだけど」

きょとんとしていたロゼッタだけれど、鳥肉を丁寧に切り分けながら教えてくれる。

「それと、北の山も危ないわ。どっちもモンスターが出るから、絶対に近づかないでね」

殺されてしまうわ、と、真面目な顔で忠告してくれた。

「地図とかってある? うっかり間違って踏み込んだらいけないから……」

「村の外に出るの?」

わざわざそんな事を知ろうとする僕に不安を覚えたのか、ロゼッタは心配そうに眉を下げながら僕を見る。

「村の事も知らなくちゃだけど、もしかしたらどこかに僕の記憶が落ちてるかもしれないし。畑を耕す合間に、そういうのを調べるのもいいかなって」


 自分の記憶喪失の事を利用するのはちょっと卑怯な気もしたけど、僕は目的の為には手段は選ばない。

今のままで僕に出来る事はかなり少ない。情報も全くと言っていいほど無い。

多少無理をしてでも、少しずつでも動ける範囲を広げていかなくては、いつまでもロゼッタのお世話になったままになってしまう。

この食事だってそう。タダで食事にありつけるなんて環境、いつまでも甘えていて良いはずがない。

それは、お世話になってるロゼッタ本人の評判すら落としかねないのだ。

さっきの女の子――ミースが僕を警戒していたように、村の人達はまだまだ、僕の事を不審な居候くらいにしか思っていないのだろうから。


「そういう事なら止められないけど……でもエリク。無理はしないでね? 二人で食べていくくらい、お金にはそんなに困ってないし」

ゆっくりでいいんだから、と、ロゼッタは気遣ってくれるけれど。

その優しさに甘えていたら、僕はいつまでもロゼッタの役には立てないだろうし、恩も返せないだろう。

折角命を救ってもらったのだ。出来る限りは頑張りたかった。

「大丈夫だよロゼッタ。今日一日動いて、かなり力が戻ったような気がしたんだ」

今日は大分、動いたような気がした。

本来の僕がどれくらい動けた人なのかは解らないけど、雑草を抜く速度はロゼッタより速いらしいし、ある程度の身体能力はあると考えて良いのかもしれない。

「そう……解ったわ。地図はあるから、食べ終わったらエリクに貸してあげる」

「なんか、色々と助けてもらってごめんね」

「良いの。私だって、エリクの――ううん、なんでもない」

何か言いかけて「なんでもないから」と、作り笑いっぽい笑顔になりながら。

ロゼッタは静かにチキンの煮物を口に運んでいった。

僕もロゼッタみたいに綺麗に切り分けられないけど、構わずかぶりつく。

「ん……美味しいよ、ロゼッタ」

ハーブの香りと甘みが合わさって、とっても美味しかった。思わず頬が緩んでしまう。

「――ふふっ」

ロゼッタも、それが嬉しいのか、上機嫌な様子で。

こういうのがずっと続いたらいいなあ、なんて。そんな勝手なことを思いながら、僕はもぐもぐと食べるのだ。




 翌朝。朝食を二人で食べて、畑の様子を見る為に外に出た僕の前には、驚くべき光景が広がっていた。

「――ロゼッタ! ロゼッタ!!」

畑には、早くも芽吹いていた小さな緑達の姿。

僕は興奮気味にロゼッタを呼ぶ。

「どうしたのエリク、こんな時間に――あら?」

僕の声に気づいてか、ロゼッタが不思議そうに外に出て――そして、畑を見て固まっていた。

「芽が出たんだ。ターニットの芽が!」

足元の小さな命を指差しながら、ロゼッタに「おいで」と手招きする。

「エリクっ」

ロゼッタもすぐに駆け寄ってくる。

そうして二人、畑の中でしゃがみこみ、ターニットの芽を見ていた。

「わあ――可愛い」

「こんなに早く芽が出るなんて思わなかったよ。それに、自分が植えた種から芽が出るのって、なんていうか――嬉しいね」

目を輝かせていたのはロゼッタだけじゃない。

僕も、その初めての感覚にどきどきしていた。

「うふふっ、エリク、おめでとう。それから、ありがとう」

「ありがとう?」

にっこり可愛らしく微笑みながら、ロゼッタは僕にぺこりと頭を下げた。

意味が解らずに首をかしげていると、立ち上がって、畑を見渡す。

「エリクのおかげで、また、この畑に作物が芽吹いたのよ。私だけじゃなんにも出来なかったのに、エリクは、それを一人でやってくれたんだもの」

それもこんな短期間で、と、愉しげににくるくる回りながら。

ロゼッタも、畑が生き返ったのが嬉しくて仕方ないらしかった。

「うん……これからも、もっと大きくしていくよ。今はこれだけだけど、もっともっと」

その為にも、まずはこのターニットを育てる。

そして、その次の為にも、今のうちに準備しなくてはいけないのだろう。

朝陽は、僕に次への活力を与えてくれていた。



 陽が昇りきってからは、散策がメインだった。

ロゼッタに借りた地図を見ながら村を回って歩いた。

丁度ロゼッタの家は村の一番南側にあって、そこから北に向かってゆくにつれて家や畑が増えていく。

あくまで村も含めた周辺の地図なのでどこに誰の家があるかまでは記されてないけど、大雑把に見ただけでも立地はなんとなく解る。


 北側の中心は市場。もしくは商店があるのだろう。

広場があって、その周囲を囲むように家屋とは違った形状の建物が並んでいた。

村の西側は小麦畑と製粉所が多くて、村を流れる川を利用した水車がその辺りの目印になっていた。

実際に歩いてみると、村にしては規模が大きいほうなのか、家の数は結構多い。


 まだ早い時間帯なので人の姿はあんまり見えないけど、すれ違った人や畑を耕してる人なんかが僕をじろじろと遠慮なく見ているのが感じられた。

その度に僕は困りながらも挨拶をしたりするのだが、相手も僕の反応が予想外なのか、気まずそうに挨拶を返して、そのままそっぽを向いてしまうのが毎度の反応だった。

もしかしたら、初対面でもちゃんと話してくれたミースはかなり優しかったのかもしれない。勿論、ロゼッタもだけれど。


「ふぅ――」

一通り歩いて、頭の中でなんとなくマップが出来上がった辺りで、村の入り口に立つ。

ため息ながらに小高い丘になっているそこから村を見下ろすと、壮大な景色の中に多くの麦畑と、そこで働く女の人達の姿が眼に入った。

だけど、村で一番大きい畑は、やっぱりロゼッタの家の畑だった。

彼女のお父さんは、きっとかなり働き者だったんだと思う。

それを借りた以上は頑張らないといけない。決意ながらに、僕は村を背に、歩き出した。




「――何やってんのよ」

そうして、地図を手に洞窟にようやくたどり着いたところで、予想外の人と出くわしてしまう。

ミースだ。余所行きなのか白い帽子をかぶって、スケッチブックを片手に、すごく不機嫌そうに僕を睨みつけていた。

「や、やあ」

誤魔化せるかなあと思いながら笑顔で切り抜けようとする。

「答えなさいよ。こんな所で何してんの?」

でも、ミースはジロリと睨みつけたまま態度を変えることはなかった。

「……ロゼッタに地図を借りて、村の周辺を歩いて周ってたんだ」

仕方ないので、当たり(さわ)りない範囲で説明する。嘘はついていない。

「それで、洞窟探索? 私言ったわよね? ここに来るのは死に行くようなものだって」

やはりというか、ミースにはバレバレだったらしかった。

勘が鋭いというか、疑り深いというか。この子に嘘は通じないものと思ったほうがよさそうだ。

「死ぬつもりはないよ。武器だってある」

なので、大人しく認める事にした。

そもそも、ナイフやカンテラを腰につけて村の探索なんて言い訳、通用するはずも無い。

洞窟が近いからと村を出てすぐに用意したのが間違いだった。


「そんなチャチなナイフで何するつもりよ……」

「グリーンストーンなら簡単に割れるから、こう、ぱきーん、と、柄で殴れば採れるかなって」

「そりゃそうでしょうけど……そうじゃなくて! モンスターはどうするのよ? そんな武器で戦えるわけ無いでしょ!!」

馬鹿じゃないの、と、本気で呆れたように怒鳴りつけてくる。

彼女の後ろの洞窟にも、その声が木霊していった。

「僕一人ならなんとかなるかなあって。その、なんとなくできる気がするし」

これは本当になんとなく「できるんじゃ」という感じがしたから、としか言いようがないのだけれど。

昨日の彼女やロゼッタとの会話でモンスターが居ると聞いても、それほど怖いと思わない自分に気づいたのだ。


「……はぁ。ロゼッタもなんでこんな奴助けたんだか。少なくともモンスターの餌にされる為に助けたんじゃないと思うけどねぇ!?」

ミースは、酷く不機嫌そうだった。

というより、僕のせいなのは間違いないのだろうけれど。

「でも、こうしないとグリーンストーンは手に入らない」

今朝、畑を見て、すごく感激した。

ターニットの芽が出ていて、ロゼッタと二人、手を取り合って喜んだものだ。

畑が蘇ったのを、ロゼッタはすごく喜んでくれていた。だから。

「村の男の人は、この洞窟でグリーンストーンを採ってたんでしょ? なら、僕にだって出来ても不思議じゃない」

あえて、馬鹿を通す事にした。

「なら、好きにしなさいよ! 別に止めに来た訳じゃないし――ただ、誰も知らずにいなくなったなんて、ロゼッタがあんまり可哀想だから確認の為に来ただけだし!!」

馬鹿みたい、と、言葉を投げつけながら、ミースは肩を怒らせ去っていった。


(……僕、かなりひどい事してるよなあ)


 流石に胸が締め付けられる。

ああは言っていたけど、止めにきてくれてたんだと思う。

僕の為ではなくロゼッタの為なのはわかるけど、それでも申し訳なく感じてしまう。

厳しい言葉ばかりぶつけてくるけど、ミースはかなり優しい。

ほとんど見ず知らずの僕が、こんなところに来ると思ってわざわざここで待っていたのだから。

そんな女の子を怒らせて帰らせたのだ。本当なら僕が謝って、一緒に村に帰るべきなんだろうけど。

でも、それはできないのだ。ミースがロゼッタの為に僕に怒るなら、僕も、ロゼッタの為に無茶をしたいのだから。



 実際に入ってみると、洞窟とは言うもののかなり手入れされている様子で、どちらかと言えば坑道とか、そういう呼び方が当てはまりそうな様子だった。

(あか)りになるようなものはないものの、壁はところどころ補強されていて、崩れる様子もなさそうで。

(これなら、いざという時は灯り無しでもすぐ逃げられそうだ)

足元にも変な段差や出っ張りは無い。

村の人が長い時間を掛けて採掘し易いように改良していったのだろう。ありがたかった。

洞窟の幅自体はまだ狭いが、奥の方からは何かが唸るような声も聞こえる。

これが洞窟に巣食うモンスターか、と、右手のナイフを強く握りしめ、ゆったりと歩く。


――そんな時だった。突然、上から水滴が零れ落ちてきたのだ。


「――!!」

とっさに腕が動いた。頭上に向けて、ナイフが突き出される。

『グギュッ』

直後、真上から重くぬめついた感触がナイフに伝わり――やがてそれが割れたように落ちていく。

「これは――」

カンテラで地べたを照らすと、それは水色と緑色の斑点(はんてん)模様の軟体生物。『スライム』だった。

びくりびくりと痙攣していたが、丁度中心の黒い核のようなものがナイフで傷つけられたらしく、そのまま動かなくなり、消えてゆく。

(……体が動かなかったら、死んでたのは僕の方だったのか)

とっさに反応できたからこその勝利だった。

そうでなくては、恐らく頭上からの奇襲で一気に頭に覆いかぶさられ、そのまま窒息したか、絞め殺されていたに違いない。


 モンスターは、人間にとってとても危険な存在だ。

その全てが人間を憎んでいて、種族に限らず人間を優先して攻撃してくる。

このスライムは、洞窟だけでなく森林地帯や山岳地帯、水中など、様々な環境で人間を殺そうとしてくるポピュラーかつ非常に危険な生物だった。


 最初の水滴は、恐らくスライムの体液。

それを感じて即座に反応できたというのは、それだけ僕の身体にその動きが染み付いているという事なのだろう。

なるほど、確かに戦える。そして、モンスターに関しての知識も同時に浮かんできたのだ。

もしかしたら僕は、このようにモンスターと戦うことが日常となっていた人なのかもしれない。

その割にはあんまり筋肉がついてないのが悲しいところだけれど、とりあえずは初戦の勝利に安堵しながら、洞窟の奥へと進んだ。

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