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アイアムバグゲープレイヤー!!  作者: 海蛇
三章.ロゼッタルート

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#10.モンスター、迎撃!!


 迎撃態勢が整うのとモンスターの接近が始まるのは、ほぼ同じくらいの時間だった。

直前にモンスターに追われたのだという行商の馬車が来た時は焦ったが、幸いバリケードをどかす手間は必要なく、その馬車も新たなバリケードの一つになってくれた。

「エリク……」

いつ来てもいい状態になったので、一部の監視要員を除いて村の人には教会に避難してもらうことにしたのだけれど。

なぜだか、教会に避難させたはずのロゼッタが、僕のところまで来てしまっていた。

「どうしたんだいロゼッタ。避難したはずじゃ?」

聞きはしたものの、目に見えて不安そうにしていたので、とりあえず抱きしめる。

それだけでいくらか落ち着いたのか、泣き出すようなことはなかったけれど。

でも、やっぱり不安なことに変わりはないのか、心配そうに僕を見上げてくる。

「その……私が居ても何の役にも立たないのは解ってるの。だけれど……あなた一人に戦わせていいものかって、思ってしまって」

「僕くらいしか戦える人はいないからね。監視役の人も、足が速い人に頼んであるし」

モンスターの接近を知らせてくれる監視役は、足の速い人に頼んである。

いざ見つけたらすぐそれを報せながら逃げられるようにだ。

後は、それを知った僕がその場に駆けつければいい。

少なくともこの場に、ロゼッタのできることは何もないし、いることで気にしなくてはいけないことが増える分、足かせになってしまう。

「ごめんロゼッタ。余裕がない時には、守る者が増えるだけで大変になってしまうから……教会に避難してくれ」

少し強い口調になってしまうけれど。

それでも、安心させる意味もあって突き放すように避難を促す。

ロゼッタも解ってはいたのか「ええ」と、少し寂しそうではあるが自分から離れ、そして二度三度僕の方を振り返りながら教会へと戻っていった。


「モンスターですっ、モンスターが接近しましたぁっ」


――来たか!!

ほどなく入った襲撃の報せ。

西側から聞こえてきた声に反応し駆けつける。

他の方からの声は聞こえない。

「今行くぞっ」

モンスターの数はどれくらいか解らない。

どっちからの攻撃が本命かは自分で見て判断するしかないだろう。

だけど、モンスターは別に統制されて襲い掛かってくるようなものではない。

この辺りが人間と違う部分楽な部分であり、人間より厄介な部分でもある。

つまり、策もタイミングもなくばらけて突っ込んでくるのだ。

「見つけた……まずは大蝙蝠の群れ、それから――ブラックハウンドが三頭か」

初手からバリケードが何の意味も成さない蝙蝠の群れはともかくとして、ブラックハウンドは真正面から挑むと割と危険な部類のモンスターだ。

何せ速度が速い。だけど、犬型のモンスターとしてはあまり賢くないので、こいつらはフットトラップで簡単に沈められるだろう。

蝙蝠は、実際には人間に対して対した殺傷力も持っていないので、これもさほどの脅威にはならない。

(いくら非力な人ばかりって言っても、こんなのに村が壊滅させられるとは思えないな……主力は後から来るのか、それとも別方向からか)

いずれにしても、これを蹴散らすのは容易だった。

蝙蝠の群れは僕を見つけすぐに襲い掛かってきたが瞬殺。

ブラックハウンドは案の定、僕を見つけてバリケードに突っ込んできたので、動きが鈍ったところにダガーを投げつけて沈めた。


「こ、こっちにも来ましたーっ! 逃げますねーっ」

(えっ、そっちなの?)


 今度は村の北側からの声。

南のリゾッテが襲撃されたとあって、僕はモンスターの襲撃は南を中心に来るものと思っていたけれど。

でも、モンスターの襲撃範囲が、かなり外れているように感じてしまう。

とにかく、急がなくてはいけない。

村の北側は、教会があるのだから。

声のした方に向け走り出し、到着する頃には、モンスターがバリケードに沿って移動を始めていた。

「こっちは飛んでる奴はいないな……うわ、ネックキラーがうようよと」

こちらの主力になっていたのは、鋭い牙をのぞかせる殺人ウサギ『ネックキラー』。

小柄で見た目はか弱そうだけれど、迂闊に近づくと牙による不意打ちで一瞬で首を狩られるという恐ろしいモンスターだ。

これが群れを成している。本来群れを作らないモンスターなのでかなり異様な光景だった。

というか怖い。

「まあ、こいつらは撒いた棘球に掛かるだろう……」

あまり目がよくないこのモンスターは、僕の存在にも気づかずにバリケードを猛進していたけれど、案の定というか、予めばらまいておいた鉄の棘球に足裏をやられ、動けなくなっていった。

頭もよくないので目の前の個体が罠にかかっても構わず前に進み、次々に罠にかかっていく。

正面からこの数を相手にしたら僕でも死が見えたが、きちんと防御態勢を構築しておいてよかった。

「バリケードに来たな」

ネックキラーに混ざって、フレアリザードなど、いくらかはバリケードに直進しているモンスターもいたけれど、バリケードが傷つけられる前に氷爆弾を投げつけ迎撃。

こちらもさしたる被害を出す前に迎撃が完了する。


「き、来ましたーっ」

「こっちからもっ、まずいまずいまずいっ」


 今度は東と南、同時に。

一瞬判断に迷ったが、聞こえてきた声の切迫感から、南へと急行する。

今回は途中で監視要員の人と合流したので、状況を確認した。

「エリクさんっ、モンスターの群れが南から来てますっ」

「みたいだね。空を飛んでるのはいた?」

「はい、大きな蝙蝠が沢山……それと、ローブを着た人型のモンスターがいくらか」

「ローブの人型……ネクロマージかな」

モンスターの構成を確認する。

ネクロマージは、魔法が脅威になるモンスター。

でも、その魔法は人にしか効果を成さない部類のモノなので脅威度はそれほど高くない。

「き、気を付けてください、それでは」

「うん。貴方も気を付けて」

一度冷静に考えなくてはならない。

少なくとも、今は南はそこまで急ぎではなさそうだった。

教えてくれた村の人を見送りながら、今度は東の方へと向かった。


「あ……エリクさん、来てくれたんですねっ」

「アーシーさんっ、こっちの監視役は貴方だったんですね」

まさかの村のトップが監視役である。

危険な役だから、という事もあって自分から買って出たのかもしれないけれど、それにしても無茶だった。

こうやって合流できたからいいものの、もし襲われていたら――

そう考えると、今更ながら冷や汗が流れる。

「こちらは、賊が多数と、後はゴズの群れが近づいています」

「こっちが本命か……解りました。後は任せて」

「お願いしますね」

襲撃がどれくらい続くかはわからない。

それでも、規模からみてこの周囲で生息するモンスターとしては、最大規模の敵が襲い掛かってきていることになる。

この東側が最大戦力と考えていいだろう。

まずはこちらを迎撃すべきだ。

「――いくぞっ」

当たり前のようにゴズの群れに交じって襲い掛かってくる賊の集団に火炎爆弾を投げつけながら、バリケードに張り付いてくるゴズに破壊させないようにカレーを投げつける。

《ズガガガガガガガガッ》

心強い破壊力を誇るカレーは、ゴズに対して強力な投げ地雷となっていた。

接近したゴズを壊した後は、次の接近したゴズにダメージを与え続けているのだから便利だ。

(ほんとにカレーって強いな……沢山作ってもらっててよかった)

とりあえず、当面はこれでしのげそうだ。

一安心した、その時だった。


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