#6.子供を作ろう!!!!
アーシーさんから拒絶されてからも、会う人会う人子供の作り方を聞くのだけれど、大体はアーシーさんのような反応をされてしまってまともに教えてもらえない。
ここまで教えてもらえないと、さすがに焦りが前に出てくるというか。
誰に聞けばいいのかがまったく解らないのが、こんなに不安になるなんて思いもしなかった。
「参ったなあ……」
途方に暮れたまま訪れた広場。
丁度行商の人たちが夕方に向け商品を並び直していたところで、入り口付近に立っていたシスカと目が合う。
「あ……お兄さん、こんにちは」
「やあシスカ。こんにちは」
困り果てながらも、「とりあえずは」とばかりにシスカに挨拶を返し、並べている商品を見る。
「今日はカレー粉、無いんだね」
「すみません。この間仕入れてからというもの、中々南方の商人さんと会う機会がなくって」
肝心の取引先と会えないのでは仕方ない。
まあ、この間のストックがまだ残ってるから当面はカレーに困らないけれど。
「お兄さんは、何か考え事ですか? いつもより難しそうなお顔でしたけど……」
「うーん……いや、ちょっと悩んでて」
この際、自分より年下の女の子に聞くのも仕方ないかもしれない。
なんといってもシスカは商人だ。
僕よりも色んな所を旅していて、色んなことを知っているかもしれないのだから。
「シスカは、子供の作り方って知ってる?」
「ふぇ? 子供って……赤ちゃんですか?」
「そうなんだけど」
「えーっと、愛する人と一緒に、コールを植えればいいのでは……?」
確かそうですよね、と、特に恥じらいもなく教えてくれる。
しかしそれは、ロゼッタが言っていた事と同じだった。
「それだと、上手くいかなくって」
「えぇっ? そうなんですか? 私もお父さんからそう教わってたから……何が違うんでしょうか? 植える作物が違う、とか?」
「その可能性も考えてみたんだけど、なんか、村の人たちの反応が違うっていうか。そもそも方法が違うのかなって」
正直、こんな不安を話せる相手はそんなにはいない。
シスカだって、仲良くはなってると思うけれど、同じ方法を知っているから話せるだけで、そこまで深いところまで相談されても困ってしまうだろう。
それでも商品を並べる手を止めて一緒に悩んでくれる辺り、本当にシスカはいい子だと思うけれど。
「ごめんなさい、やっぱり解らないです……」
「そっか。ううん、ごめんね、邪魔しちゃって。また今度買い物させてもらうから」
「はい♪ お兄さんなら大歓迎ですよ~♪」
極上のスマイルで見送られながら、けれど失意のまま、僕は広場から出ようとする。
「おい坊主、坊主ったら」
「えっ……あ、ガンドさん」
呼ばれて振り向いてみると、ガンドさんがそこにいた。
ガンドさんのお店は広場の奥まった場所にあるので、わざわざ僕を呼ぶために入り口付近まで歩いてきたことになるけれど、なんでだろうか?
「すまねえ、シスカとの話が聞こえちまってよ……お前なんだ、子供の作り方が解らねえって、ほんとか?」
わざわざ近づいてきて、顔を寄せて手で覆ってまでこそこそと内緒話である。
「ええ、まあ」
「かーっ、あんな可愛い嫁さんもらっておいてお前、それはねえだろう……ああでもそうか、お前ぇ、まだ若いもんなあ。ガキの頃から戦場とかにいて常識学ぶ機会がなかったら、そうもなるのか……」
勝手に憤慨して勝手に思い直して勝手に納得しているガンドさんを見て、「忙しい人だなあ」という感想ばかりが出てくるのは、ちょっと能天気過ぎるだろうか。
つまりは、僕の常識のなさを、ガンドさんは憂いているのだろう。
「やっぱり、知らないとおかしいんですか?」
「普通はなあ。特に男なら、女より詳しくなくっちゃいけねえだろう? ロゼッタの嬢ちゃんなんてそれこそ箱入り育ちなんだからよ。子作りのコの字だって知らねえかもしれねえんだぞ?」
だからとお前に罪はないけどよ、と、ガンドさんなりにフォローしてくれるのはありがたい。
このまま言われっぱなしだと、ただただ自分を追い込んでしまうところだった。
一応、僕が悪い訳ではないらしいのは安心できる。
「えっと、一応、ロゼッタは、夫婦で一緒にコールを植えると、赤ちゃんができるって……」
「たっ、よりによってコールからかよ! 違うだろそれは」
「あ、やっぱりかぼちゃとかだったんですか?」
その辺りが違っていたのでは子供なんてできるはずがない。
この際だから恥を忍んでガンドさんにしっかり教えてもらわないと。
「違う違う! そうじゃなくて……えーっとだな、まず、夜になったらお前と嬢ちゃんは裸で一緒のベッドで眠るんだ」
「裸で……? え、なんで?」
「気分を盛り上げるとか、連帯感を高めるとか、愛情を深めるとか、色々あるんだよ色々! そんで、抱きしめたり口づけしたりしてれば、段々そんな気になってくるからよ、あとは流れだ」
「はあ……」
大体のところアーシーさんが教えてくれた部分と同じようで、裸になるという部分だけ違っていたけれど。
でも、そこが解ったのはかなり大きい気がする。
「コールは間違いだったんですか?」
「いや、コールは違わねえよ? 赤ん坊はコールから産まれてくるのはそれであってるんだよ。ただな、夫婦が裸でちゅっちゅしないとできねえのよさ。順番の問題だ。解ったか? 今晩からちゃんとやるんだぞ?」
「わ、解りました、やってみます」
コール自体は間違いではなかったらしい。
でも、裸で抱き合うのはちょっと恥ずかしいかもしれない。
いいんだろうか? でも、夫婦ならいいのかもしれない。子供を作るためだし。
「ありがとうございました、ガンドさん」
「良いって事よ……この村にも、子供が産まれてくれねえと増えやしねえからな」
早く増やして満ちてくれ、と、手を振り振り、自分のお店へと戻ってゆく。
ぶっきらぼうだけど、わざわざ自分の場所から動いてまで大切なことを教えて呉れに来たのだから、良い人である。
行商の人達は優しいよなあと思いながら、感謝しながらに広場を後にした。
「ロゼッタ、方法が分かったよ!!」
方法が分かれば、後は実践あるのみだ。
意気揚々と戻ってきた僕は、早速ロゼッタにそれを伝えようとしたのだけれど。
「うん……私も、聞いてきたわ」
ロゼッタはというと、いつものような満面の笑みでのお出迎えではなく、ちょっと恥ずかしそうにテレテレとしてしまっていた。
「コールは、間違ってなかったのね」
「そうみたいだね」
「でも……その、順番が違ってるって」
「うん。裸で抱き合って、キスしたりしないとダメなんだってね」
「そうなの……私も、ミースに聞いて初めて知ったわ」
ミースなら知っていたのか。
珍しく第一村人的に出会わなかったから聞けなかったけれど、聞けていたら僕も困り果てることはなかったのかもしれない。
「でも、ミースもすごく恥ずかしがっちゃって……」
「そうなの?」
「うん……あのね、エリクが家を出てから、入れ替わるようにミースがお茶をしにうちに来たの。その時に、思い切って聞いてみたんだけど――」
「はぁっ!? 子供の作り方!? そ、そんなの、ロゼッタだってママに聞いてるでしょ? アリシアさん、教えてくれなかったの?」
「コールを植えればいいっていうのは聞いたのだけれど……どうも、方法が違ってるような気がして、うまくいかないの」
「コール……コールかあ」
「何か違ってたの?」
「う……それは、その……」
「お願いミース! 私、早く赤ちゃんが欲しいの! 赤ちゃんがいないと、なんだか、結婚したのに、結婚したような気がしないというか……もっと結びつきたいというか!」
「む、無理っ、そんなの私から言えないわっ! アーシーさんにでも聞いてきなさいよ!」
「ミースだけが頼りなの! お願い、ね? 一生のお願いだから!!」
「うぅ……うううううーーーーーっ、ひ、卑怯よロゼッタ……そんなことで……解ったわよ! 一度しか言わないからね!!」
「――っていう感じで、ミースが教えてくれたのだけれど……聞いたら、なんだか恥ずかしくって」
「一生のお願いって、そういうところで使うんだなあ」
よく我儘な女の人が使ってるイメージだったけど、ロゼッタみたいな純朴な女の子が使うと本当に効果的なんだなあ、と、実感した。
ミースもきっと、ロゼッタのそんな強いお願いに逆らえなかったのだろう。
僕でも逆らえる自信がないからこれは仕方ない。
でもミース、ナイスだ。僕が説明する必要がなくなった。
実はちょっと恥ずかしかったのだ。
「それで……えっと、夜になったら、ね?」
「うん……夜になったら」
そういえば、お互いの裸なんて見たことはなかったんじゃないだろうか。
そもそも、普段から裸になる必要なんてないんだから、体を洗う時とか着替える時くらいしか脱ぐことはないけれど。
でも、これからは頻繁にそういう事になるのだろうか。
まずい、今から緊張してしまう。
「~~~~~っ」
ロゼッタも緊張してしまっているらしい。
無理もない。大人しいロゼッタが人前で裸になるなんて、とんでもなく恥ずかしいことなんだろう。
それでも、必要なら。
必要なら、脱げるのだろうか?
まずい、これはまずいぞ。僕が耐えられなくなるかもしれない。
(女の人の裸って、見たりしたらいけないもの……なんだよな?)
どうすればいいのだろう?
見ないように目を隠すのか。それとも見てしまってもいいのか。
あるいは何か特別な方法があるのかもしれないけれど、それすら解らないのだ、僕たちは。
未知のままに、夜を迎える。
「いや、意外と慣れたらいいものだね」
「そうね……恥ずかしいけど、とっても安心するの」
実際にやってみたら、案外慣れたというか、お互いそこまで抵抗感なくすんなりと裸のまま抱き合えた。
キスも一杯したし、頭を撫でたり、背中を撫でたり。
ロゼッタの柔らかくて温かい身体を感じるたびに、僕自身も温かくなっていって、とっても気持ちがいい。
そうして抱きしめあって、キスをして、撫でたりしている間に、うとうととして――眠ってしまっていた。




